第3回 「全てはきっと交わりきれないものの中で」
たぶん音楽の話。
アメリカのイラクへの侵攻には反対ですが、イラクへの自衛隊派遣は反対ではありません。
原因はどうあれ、荒廃してしまったイラクの復興のために世界中から人が集まって
何とかしようとしている。その中に日本が行くことには異論はありませんし、
派遣されるのが、少なくとも国内では最も自己防衛力に優れていると思われる自衛隊で
あることも、間違ってはいないと思います。人質事件については、ここでは触れませんが。
ただ、そう思いつつも、やはり死と隣り合わせというのは恐ろしいことです。
何ヶ月か前、久々に自分で詞を書き下ろしました。曲は以前にバンドをやっていた頃に
思い浮かんだもの。その時には漠然と悲しいメロディだなあと思っただけでしたが、
アフガニスタンへの侵攻、イラクへの侵攻と戦争が積み重なった中で思い浮かんだのは
やはり「死」とか「悲劇」とか、そういうもの。いざ言葉と曲が噛み合いだすと、
その先を作ってしまって良いのかと何度も思いました。痛々しい作品になったなと思います。
自分の中に矛盾を感じました。自衛隊の派遣には反対ではないと思い、
人質事件の際には自衛隊は撤退すべきでないと思いながらも、
自分で書き上げた曲はそれを否定しているような気がしたのです。
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「凍えた明日」
あなたを呼ぶ声 ただ繰り返しては
僕はいつまでも ただ・・・
あなたの足跡 探し続けては
僕はいつまでも ただ・・・
還らない命なら 何を残して
いつしか街には 炎が溢れて
逃げまどう人が ほら・・・
冷たい身体を ただ抱きかかえて
泣き叫ぶ声が ほら・・・
カーテンを閉じたなら 耳を塞いで
ざわめきも 悲しみも 消えるように
無力な瞳で 立ち尽くす人が
誰かを探して まだ・・・
昨晩は子供を 抱き上げた指で
引き金を引くの? まだ・・・
祈りなら 捧げては 届かなかった
あなたへと 続くなら 僕はただ・・・
あなたへと 続くなら 僕はただ・・・
あなたへと 続くなら 僕はただ・・・
あなたへと 続くなら 僕はただ・・・
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僕は会社員で、姉も両親も仕事をしていて、もちろん仕事をしなければ生活はできません。
失業者が増えることは、極端に言えば「自殺者が増える」「飢死する人が増える」こと。
アメリカという国が日本の経済の命運を握る要素の1つである以上、
政治家がアメリカを支持することは不自然ではなく、むしろ妥当な選択に見えます。
自衛隊はイラクで復興支援活動をしていて、それ自体は間違ったことではないと思います。
アメリカの行動は、僕の目には「驕れる人達の正義の押し売り」にしか見えませんが、
それと、日本がイラクの人達を支援することは、別の次元のことだと思うのです。
そう思いながらも、人の命が危険に晒されることには恐怖感を覚えます。
「国家」や「経済」や「失業者」や「外交」といったものを軸に物事を考える自分と、
「生命はかけがえのないもの」ということを考える自分は、きっと交われないのでしょう。
喧嘩も争いも戦争も、交われない思想とか主張が生み出す「歪み」が大きな原因のひとつだと
思うのです。それが外側に向いたものか、内側に向いたものかという違いはあるでしょうけど。
自分の中の全てを受け入れることすら難しいのだから、お互いを受け入れるのは、本当に難しい。
僕にとっての音楽は、自分の中の相反する部分を埋めるためにあるのかもしれません。
現実主義の自分と理想を追い求める自分、とかいうと、歯が浮いてしまいますが、
これだけ歯が浮くようなことを書いてしまったのだから、この際。
2004.5.3 無力感の中