Hezel
「?なぁに、越前??」
帽子を脱いだなり先ほどからじっと自分の顔を覗き込んでいるリョーマに不二は小首を傾げた。
「ん、前から少し気になってたんだけど、あんたの瞳の色ってさ・・・」
そう言ってリョーマは不二にずい、と近寄り、しげしげとその瞳を覗き込む。
「ブラウン・・・っていうよりヘーゼルかな?」
「ブラウンとヘーゼルは違うの?」
「ヘーゼルってブラウンよりも色が薄いんっスよ。だから周りの物の色の光の反射加減で瞳の色が変わって見える事があるんスよ。」
「へぇ、そうなんだ。」
裸眼なのにカラーコンタクトをしているのか、とよく聞かれるのはそのせいなのかも、と不二は今更ながら納得し、自分を見つめるリョーマの瞳を見返す。
「君の瞳ってよく見ると茶色なんだね。今まで黒かと思ってた。」
黒曜石のようなイメージのその瞳はこうしてよく見ると深い茶色をしていて、何だか意外な発見をしたような気になって不二は目を細める。
「知ってた?黒い瞳の色なんてないんスよ。」
「え?そうなの?」
「日本ってほとんどがブラウン系の瞳だからあまり気にしてないみたいっスけど、目の色には区分ってのがあるんスよ。黒い瞳っていうのは濃いブラウンで、あとヘーゼル、ブルーにグリーンにグレー、変わったところだとバイオレットとか。」
「へぇ、紫の瞳か。・・・ねぇ、君は色々な瞳を見てきたんでしょ?どんな色が綺麗だと思った?」
「どんな色って言われても、そんなに気にかけて見てないっスよ・・・あんた以外の瞳なんか。」
「え?」
自分の言葉に目を見張る不二に小さく笑うと、リョーマはぐっと伸び上がる。
「綺麗だね。あんたの瞳。」
どのような光加減かはわからないが、覗き込んだ瞳はうっすらと青みがかっており、その冴えた色に映る自分の姿にリョーマはその笑みを深くする。
「君の瞳だって綺麗だよ。」
間近にせまった艶やかなブラウン。
ありふれている色のはずのその瞳は眩しいほどの輝きを放ち、息を呑むほど魅力的で、他の誰でもない彼の“色”に不二は目を細める。
その魅力的な瞳が今、自分ひとりに向けられている。それがとても嬉しくて微笑めば、更にリョーマの顔が近づいてきて。
「もっとよく見せてよ。」
そう言って自分の頬をその手のひらで包み込み、まっすぐに自分の瞳を見つめるリョーマ。
「・・・綺麗だ・・・」
その甘い囁きと、優しい一途な視線に頬が赤らむのを感じながら、負けじと不二もリョーマの瞳を見つめ返す。
「あんたの瞳にオレが映ってる。」
「君の瞳にも僕が映ってるよ。」
「ね、もっと近づいてもいい?」
「これ以上は近づけないんじゃない?」
すでにぴったりと自分に寄り添っているリョーマに不二が苦笑すれば、そんな事ないっすよ、と不二の顔を引き寄せ、リョーマは自分の額に不二のそれを押し付ける。
「ほら、近くなったでしょ?」
「・・・これじゃあピントが合わないよ。」
「じゃあ、目閉じちゃえば?」
「僕が目を閉じたら何する気?」
「何って、何されたい?」
「・・・もう・・・」
生意気な口を利くリョーマに苦笑しつつも、その誘惑には抗えず、不二はそっと目を閉じる。
「じゃ、お許しが出たって事で。」
そんな不二にリョーマは笑って、その唇を彼の唇へと近づける・・・
「お前達、いい加減にしないか!」
・・・と、不意に響いた怒声に驚いて顔を上げれば、傍らには眉間に皺を寄せた手塚が腕組みをして立っていて。
「それ以上のことは風紀に関わる。さあ、離れろ。」
手塚の背後では遠巻きにだが部員達がこちらをちらちらと伺っており、知らず知らずのうちに二人の世界に入ってしまっていた事に遅ればせながら気づき、しまったな、
と不二は苦笑する。
「風紀って・・・頭固いっすね。」
かたやリョーマといえば、もう少しのところで邪魔されたのが不満なのか口を尖らせており、そんな態度に眉間のしわを険しくした手塚は大股にこちらへとやってくると、
リョーマの襟がみを掴み上げる。
「わ!」
「言ってわからん奴には実力行使だ。グラウンドを走って頭を冷やせ!20周だ!!」
まるで猫の仔を引き剥がすように不二からリョーマを離し、手塚はそう一喝すると、今度は不二へと向き直る。
「お前もお前だ、不二。もっとちゃんと越前を指導しないか。」
こちらはげんこつで軽く額を殴っておいて、手塚は小さくため息をつく。
「大体お前は越前に甘すぎる。もう少し年上の自覚を持て。」
「はぁい。」
「じゃあちゃんと指導してクダサイよ、先輩??」
そんな二人の傍らで、走る準備をしている、というアピールのつもりなのか、いやにわざとらしく屈伸をしているリョーマが言葉を挟む。
「指導って、君は僕に何を指導されたいの??」
「そりゃあまぁ色々と。」
「指導されたい、なんて思っていないくせに。」
「あんたになら、されていいと思ってる。」
そう言いつつ自分を見つめる瞳はぞくり、とするほど野生的で、その光に思わず不二は微笑む。
「じゃあいい子になる指導をしなくちゃね。ええと、むやみないたずらはしない、先輩の言うことはちゃんと聞く、それから・・・」
「それから?」
「・・・後は走りながら考えるよ。せいぜい君にあげ足を取られないようにね。」
油断をしたらすぐに捕まえられてしまうな、そう思いつつ、でもそんな思いを不二はふわりとした微笑で押し隠す。
「じゃあ行こうか。でもただ走るだけじゃつまらないから・・・そうだな、負けた方が勝った方の言うことをひとつ聞く、ってのはどう?」
挑戦的な眼差しで自分をまっすぐに見つめる不二は息を呑むほど美しくて、やっぱり自分が欲しいのはこの瞳、この人だ、とリョーマは改めて思う。
「いいっスね。楽しみっス。」
とりあえずは目の前に掲げられたチャンスをものにしようと、リョーマは気合をこめて深々と帽子をかぶりなおしたのだった。
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発想を戴き書きましたお話です。イメージが崩れてしまっていなければいいのですが・・・
HANA様、素敵なカットをありがとうございました。!!
ちなみに・・・ヘーゼルの瞳ってホントに美しいんですよ!初めて見た時にはちょっとした感動でした。
日本人にも何%か存在するようですが、今はカラコンでいろんな色があるからかえって注目されないかもですね;;
