hydrangea
隣から聞こえた小さなため息を耳聡く捉えた不二は、ちょっと笑って傍らのリョーマを見た。
「つまらなそうだね?」
「・・・そんな事ないすよ?」
でも、返される言葉もどこか力なく聞こえ、不二は苦笑しながら傘の下から雲が重く垂れ込めた空を見上げた。
「・・・まぁ気持ちはわからないこともないけどね。」
・・・数日前から降り続いている雨。
この雨のせいで大好きな遊びを取り上げられ、太陽のようなこの少年は少しばかり元気をなくしているようだ。
「でもね、僕はわりと好きなんだよ。雨の日って。」
そんな彼にこんな事を言うのは意地悪だろうか、と思いつつ不二は言葉を紡ぐ。
「雨の日って、何か普段の時にはない風情があるじゃない?」
「・・・フゼイ?」
その言葉を知らないのか、軽く眉を寄せ、鸚鵡返しにそう呟いて小首を傾げたリョーマに不二は淡く笑う。
「・・・そうだね、わかりやすくいえば雰囲気の事かな?」
日本人とはいえアメリカで育ってきた彼には難しいかな・・・と不二は内心苦笑しながらそう説明する。
「雨って一口に言ってもさ、ざあざあ激しく降る雨とか、静かに冷たく降る雨とか、優しい雨。今日みたいに柔らかく舞うみたいに降る雨とか色々あるじゃない?」
「はぁ・・・」
「雨の日って降るその時々によって違う表情をしてるからね。そういうのに魅かれるっていうのかな。」
「・・・・・」
激しい雨と静かな雨くらいの違いは判るが、優しい、柔らかく舞う、まで来ると晴れは晴れ、雨は雨くらいの認識しかない自分はお手上げである。
「・・・まぁ、君ほど雨の日は嫌いじゃないって事でいいよ?」
眉間にしわを寄せ、すっかり考え込んでしまったリョーマに、不二はくすりと笑うと辺りを見回す。
普通よりも規模が大きいこの公園は緑も花も多く、いつもであればそこそこ人もいるのだが、今日は雨のせいかまるで人気がなく、別の場所に来たかのような静けさに満ちている。
そんな中、雨に濡れている緑は瑞々しく、咲き始めたばかりのあじさいの花は浮き立つように色鮮やかで、不二はその美しさに目を細める。
「先輩?」
自分の前に立って歩き出した不二が不意にさしていた傘をたたんだのにリョーマは目をしばたく。
「ちょっと!」
そのまま花の咲く茂みへと足を踏み入れた不二にリョーマは慌てた。
「ちょっと、あんた!傘!!」
「・・・このくらい平気だよ。」
そう言って一際美しく咲いているあじさいの一枝に手を触れ、不二はくすん、と笑う。
「それにここで傘さしたら花が痛んじゃう?」
「はぁ・・・」
・・・濡れて色を濃くした緑をいとおしむように触れながら、小さなカタツムリを指に伝わせて遊ぶ不二。
その姿は自分のすぐ傍にあるのに、まるで別の世界にいるもののように繊細で透き通るようで、手に触れればそのまま消えてしまいそうな気さえする。
・・・そういえばあれも確か雨の日だったな・・・
その一種不思議な美しさに目を奪われながらリョーマはふと“あの日”の事を思い出す。
・・・それは初めて彼と打ち合った日。
激しく降りしきる雨の中、ネット越し、ボール越しに見る彼からは陽炎のように妖しい美しさが立ち上っており、自分を見据えるその瞳は甘い毒に満ちていて。
自分のみに注がれている視線とその美しさに激しく興奮した。
・・・今、この瞬間はこの人の全てが自分のものだ、と。
「どうかした?」
自分の視線に気づいたのか、その顔を上げた不二が不思議そうに小首を傾げる。
そのどこかあどけなさを感じさせる表情にリョーマはちょっと笑う。
「・・・何となくわかったかな・・・って。」
激しく降る雨、優しく降る雨。それぞれがそれぞれの顔を持っている。
・・・そして、そのどれにも心魅かれるあなたの気持ちが。
「濡れちゃうよ?」
・・・傘をたたみ、彼の下へと歩み寄る自分に柔らかく笑いかける不二。
「いいすよ。」
その目をまっすぐ見つめ返しながら、リョーマは不二の頬に手を触れる。
「オレも雨、嫌いじゃないっすから。」
「・・・そう?」
不二はリョーマの応えにくすり、と笑うと、触れる手に頬を摺り寄せてくる。
そんな甘えるような不二の仕草にリョーマは目を細める。
やはりどんな時でもこの人は綺麗だ、そう思いながら・・・
寄り添う二人の上に静かに雨が降りそそぐ。
それは今は柔らかく、そして穏やかに二人を包んでいた。
紫陽花は咲いてるうちでその色が何度も変わり、”七変化“とも言われているお花・・・何となく不二にハマるお花かな?
でもどの色も私は大好きです(*^_^*)
