Kiss×kiss



いつもより少し早めにクラブハウスの扉を開けた不二は、部屋のベンチに腰掛けている自分より早い先客を見つけてちょっと目を見開いた。

 「ちぃっす。」
 「今日は随分早いね?越前??」

自分に声をかけ、軽く頭を下げるリョーマに不二は視線を向け、ふとある事に気付きその顔をほころばせた 。

「よかった、すっかりいいみたいだね?」

「おかげさまで。」

数日前から左眼を覆っていた眼帯が今日は外されており、数日ぶりに両目で自分を見る彼に不二は目を細める。
彼の座るベンチに並んで腰を下ろすと、不二はその左眼をじっと見つめる。
間近で見ると、開いた瞳に大半は隠れてしまうが、まぶたから眉にかけて斜めに残る傷跡はまだ赤く、少し痛々しい。

 「もう平気っす。」
気遣わしげな不二の視線にこともなげにリョーマは言って不二を仰ぐ。

「切った時だってそれほどの事はなかったっす。ちょっと派手に血が出たってだけで。」
 「・・・ホント派手な初戦だったよね?」
くすり、と不二が笑う。
 「君らしいというか、何というか。」

不二がくすくす笑ってリョーマの額を小突く。
 「一時はどうなる事かと思ったよ。」
 「・・・ふうん、心配してくれたんだ?」
その不二の言葉にリョーマがちょっと笑う。
 「じゃ、治って嬉しいっしょ?」

そうへらず口をきくリョーマに不二は苦笑する。
「でも、これは跡残るよ?・・・ホント、無理して。」
「あそこで引いたらカッコつかないっすよ。」

そんな不二にリョーマが言い返す。
「それにこんな傷大した事ない、って言いませんでした?オレ??」
「名誉の傷・・・ってわけか。」
不二は苦笑してその指をリョーマへと伸ばす。
「・・・痛かったくせに・・・」
そう呟いて彼の左眼の傷跡にそっと指を触れさせると、不二はそれをゆっくりとなぞり下ろしていく。
その不二の優しい仕草に軽く目を閉じるリョーマ。
・・・と、不意に自分の顔にかかる影を感じ、そして次の瞬間、まぶたに指先とは違う柔らかな暖かい感触を覚える。
 「!」
ぱっとその目を開くと思いがけないほど近い距離に不二の顔があり、その唇に刻まれた柔らかな笑みを間近にしてリョーマは思わずどきり、とする。

 「・・・知ってる?」

でもそれは一瞬の事、不二はその顔をつっとリョーマから遠ざけると、ちょっと笑って話し始める。

 「キスは場所によって色んな意味があるって?」
 「意味・・・すか?」
 「そう、まぶたは憧憬。あなたに憧れる、って意味があるんだよ。」 
 「憧れ・・・すか。」

リョーマはじっと不二を見る。

「先輩はオレに憧れてる・・・んすか?」
 「さあね。」

不二はくすり、と笑ってリョーマを見る。
 「どうだと思う??」

そう言って柔らかく笑う不二の表情からは優しさ以外の何も読めなくて、リョーマは僅かな苛立ちを感じる。
 「・・・聞いてもいいっすか?」
ややあってリョーマは不二にそう尋ねる。
 「何?」
 「どこにすればいいんすか?・・・愛情のキスは。」
リョーマはその指先を不二へと伸ばす。
 「額?それとも・・・頬?」

そう言いながらリョーマは不二の額に頬に指を触れる。
 「・・・ハズレ。」
不二はその指の動きにくすぐったそうに笑う。
 「答え、知りたい??」
・・・その返事を聞かず、そのままリョーマはベンチから腰を浮かし、彼へと距離を寄せる・・・
「・・・当たりでしょ?」
不二の唇に自分の唇を合わせた後、リョーマがちょっと笑ってそう言った
 「・・・生意気。」
そんな彼の額をぴん、と指で弾いて不二が笑う。
 「先輩こそオレに憧れる、なんてぬるい事言わないで下さいよ?」
リョーマが笑って不二を見る。
 「やれやれ・・・」
そんなリョーマに不二は笑って今度は自分の方から彼へと身を寄せる・・・

 

「・・・これからはうかつな場所にキスできないね?」
・・・少し長めに交わしたキスの後、リョーマがちょっと笑って不二を見る。
 「どうして?」
 「あんたに何か言われそうだもん・・・でも」
リョーマは立てた人差し指を軽く不二の唇に当てる。
 「ここは譲りませんよ?」
 「ん・・・でも・・・」
不二はそんなリョーマをいたずらっぽい目で見つめる。
  「?」
 

 「僕は君のキス、好きだよ?・・・どこにされても・・・ね。」

そう言って不二は淡く笑うと、自分の唇に押し当てられている彼の指にちゅっ、と音を立てて口付ける。
 「!」
 思いがけない不二の発言と行動にリョーマは思わず赤くなり、そんな彼に目ざとく気付いた不二が目を細める。
 「照れてるの?」
 「・・・っ!」慌ててそっぽを向くがすでに遅く、不二が彼の傍らでくすくすと笑いだす。

まだまだ不二には敵わないリョーマだった・・・ 

                                Fin

 

 

 

ちなみに今回使用したキスする場所の意味は、グリルパルツァーというゲーテの時代の劇作家が原典です(他にも諸説あるんですが、資料が見つからなかった・・・)
手の上ならば尊敬のキス。額の上ならば友情のキス、頬の上ならば厚意のキス、唇の上なら愛情のキス、まぶたの上ならば憧憬のキス、手のひらの上ならば懇願のキス、腕の首ならば欲望のキス、さてその他は狂気の沙汰・・・って事だそうです。お目汚し失礼いたしました。