ブックレット 第1号                     渡邊 勝 著 「運動と微積分」  改訂増補版     
第1章 積分への道

§1 速度から移動距離を求める
§2 曲線によって囲まれた面積を求める
* 積分の歴史
第2章 微分への道

§1 位置関数から平均速度を求める
§2 平均速度から時刻速度を求める
§3 時刻速度から速度関数へ
§4 導関数と微分
§5 微分の線型性
§7 関数の変化表
§8 微分を利用して関数のグラフを描く
§9 微分を利用して関数の最大・最小値を求める
* フェルマー
§10 逆微分
* ガリレオ・ガリレイ 
第3章 基本定理=微積分自在の境地

§1 位置関数を使って移動距離をもとめる
§2 「速度×時間=位置関数の差」を確かめる
    =基本定理の証明
§3 定積分(1)
§4 不定積分
§5 定積分(2)
§6 積分の範囲=「上端、下端」に関する定理
* サー・アイザック・ニュートン
§7 面積を求める
§8 体積を求める
* G.W. ライプニッツ
第4章 微分方程式への道

§1 微分方程式の解曲線
§2 微分方程式の代数的解法
§3 微分方程式の実際
* 微積分の歴史

付録

Σ記号
指数・対数関数
分数関数の微積分
関数の積・商の微積分
合成関数の微積分
三角関数の微積分
双曲線関数とその微積分
プログラミング
改訂増補版によせて
(0) どうして改訂増補したかその理由

 初版が、数学教育北海道協議会・高校サークル発行「ブックレット」第一号の栄誉を担って発行されたのが、1999年のことでした。教育現場直結の書物だ けに、教師からの需要も多く、直ぐに完売してしまいました、再版への要望が続いていました。
 しかし、執筆担当の著者としては、そまま同じ形で出すことに躊躇(ためら)いがあり、より良い形にして出したいとの希望を発行元へ申し立てていました。
 埼玉県の高名な数学教育協議会会から「書名が『運動と微分・積分』とあるが、運動についてあまり書かれていない」とのご批判がありました。それに応えな ければとの思いも持っていました。
 先の版では、練習問題解答を別冊でけましたが、活用上不便を来すようでした。
また、自学自習する読者には、解答がぐ見られるようにした方が良いとの思いを持ちました。教室でそのまま使える内容であり、かつ自学する読者のためにも役 に立つような内容と形式に改めたいと考えておりました。
 著者は、公立高校を定年退職後、私高校の教壇にも立って、高校生諸君との付き合いを楽しみながら同時に、現代日本の教育環境の劣化に心を痛めました。と りわけ、「センターテスト体制」という「場」の下で、好奇心に導かれた学問の修得が疎かになっている事態を憂慮していました。なんとかこの「場」に「風 穴」を開けたいと願い、このブックレットがその縁(よすが)にでもなればと思っています。
@ このブックレットは、次のようにしてでき ました。

この小冊子の主要部分は、授業の度に持ち込んだ「プリント」です。著者が勤務していた普通科高校、工業高校では、微積分の授業では、教科書は参考書として 位置付け、これらのプリントを主教材としてきました。
 取り澄ました教科書風のスタイルではないようにして、数学がどちらかと言えば不得意でも、数学と世界との結びつきを求めている生徒には、なにごとかのヒ ントを与えうるように構成しております。
 この小冊子は、著者の「授業書」つまり、授業での「脚本」でしたので、授業研究の資料として参考にして欲しいと思います。「自分ならばこう改善する」と いう“たたき台“にしてもらえれば、これほどうれしいことはありません。

Aこのブックレット作成の基本理念は、次のようなものです。

生徒は「こんなことやって何になるの?」という根元的な問いを絶えず問かけてきます。いわゆる「できる」生徒よりも「できない」生徒が多くこの問いを発し ます。これに対して、著者は「強調の誤謬」であることは百も承知の上、「現実的功利には何の役にも立たない」と断言しています。学習の位置付けを希求する のは、最も人間的な欲求です。その点では「できない」生徒が実は、人間としてできる生徒であるはずです。
 微積分に大事なことは、“人類が運動をどのように捉えたか、その方と思想としての微積分”と位置付けることでしよう。従って、この「授業書」では、数学 =科学史を裏打ちしながら、微積分の内容を構成しています。
Bこのブックレットの特徴は次のようなもので す。

【l】上記の理由により、初歩の力学を「先進導坑」として、微積分を展開しています。
つまり、速度×微小時間から積分に、速度から微分へ、という具合に進みます。
 速度は直接目に見えませんので視覚化して認識するのには向いていませんが、遅速は体験できますし、車のスピ-ドメータなどを日常目にするので、それほど 抵抗のあるものでもありません。
 この「授業書」で最初に扱うのは、数学が物理学と末分化の状態です。敢えて分化していませんし、勿論、数学的に純化していません。あくまで直観に頼って います。

【2】 この授業書では、積分を先にやることにしています。その理由は、「積和」は直感的に理解しやすく、その極限値である定積分も、「悟りやすい」から です。微分は、近代に入ってから、開発されたもので、関数値の「差商」の極限値ですから、積分よりは直感に頼りづらいところがあります。
 現行指導要領の下、大多数の高校では、微積分学が微分一元論になっています。求積が数学史では、長い歴史を持っているはずなのに、積分独自の発生過程が 見えてきません。そのために、上級学校で解析学を本格的に学ぶ段階で、全ての関数の逆微分が簡単に求まるという誤解をしていたり、積分論にたじろいだりす る学生もいるそうです。
 これらの困難を避けるためばかりでなく、本来独立に発生してきた学論がある時期統合されて一個の学問になった歴史的過程を追体験することも必要ですし、 異なる二者が統合される感動を再現することが、学習過程として重要だと思います。

【3】「無限小」「倍率無限大の顕微鏡」と か、dy=f′(x)dx等の式が出てきます。これは、コ一シーによる厳密な極限の定式まで、いわば虚構として 話が進められてきたものです。1950年代に、超準解析が確立しこれらの用語が、市民権を得ました。ただし、この「授業書」では、「限りなく0に近い正の 数」を直観できるものとして話を進めています。つまり、虚構の時代に逆行しています。もし、これが「気持ち悪く」感じる生徒諸君がいたら、正に教師の出番 になり、蘊蓄を傾けて欲しいと思います。

【4】現行指導要領では微分方程式がありません。折角微績分のあれこれを学びながら「画竜点睛を欠く」というべきでしょう。この「授業書」では、最後に微 分方程式で締めています。ただし、ホンの初歩的なものです。しかし、これが有るのと無いのとでは、微積分建設の根本精神を保持しているか、していないかの 違いがあると思います。
 この改訂版ではこの部分を増補いたしました。
 その第一は、オイラー・コーシーの「等傾折れ線法」を導入して、解を目に見えるようにしました。これには、遠山啓著『微分と積分:その思想と方法』 (1982年、日本評論社)W部「微分方程式」を大いに参考にしました。
 その第二は、具体的な問題を解く例題を充実させました。既成の高校カリキュラム内では、物体の打ち上げは、空気抵抗がない条件で解析します。これでは、 本当のことを知りたい気持ちを満足させられません。多少難しくなっても、空気抵抗がある場合の解析の道筋だけは示したいと思い、敢えて採り上げました。
5】 付録前半には、微積分理解のための基礎と発展のための分野につい て、手短な解説を収めました。特に、双曲線関数の指数表示の道筋は、浅学にして参考書物に見あたらず、著者が工夫したものです。
 後半は、微分方程式に関するプログラミングを載せました。工業、商業など職業課程で学習している生徒諸君には、お手の物だと思われます。70歳過ぎの老 人が作った代物ですので、是非若い力でよりよいものに改善して欲しいと思います。


Cこのブックレットは数学教育北海道協議会・高校サークルの集団による著作で、たまたま著者が執筆役を引き受けたものです。この度の改訂増補版では、数教 協道代表・成田収氏には、厳密な校閲を頂き、計算違いの訂正、字体の統一など大いに力になってもらいました。しかし、著述の欠陥は全て、著者の責めに帰す べきと考えております。


2010年初春 著者記
初版推薦文 1999年当時
室蘭工業大学・数理科学講座教授 山口格先生推薦
北海道大学教育学部・教授 須田勝彦先生推薦
「数 学の授業は計算の方法と習熟のみでは駄目である。本書『運動と微積分』は、歴史観と哲学に裏打ちされた素晴らしい授業書である。”すべての高校生に微積分 を”と考えている高等学校の数学の先生方に心からおすすめします。」
「本 書は青年として巣立ち行く高校生たちへの深い愛情に満ちています。渡邊さんは長年『数学は君たち自身の ものだ』と生徒たちに伝え続けてきました。法則を探求する先達の多くの努力を、思考の最も自然な流れとして授業の場に再構成してきました。教師が希望を語 らない時、教育は終焉をむかえます。北海道の高校生たちに希望を語り続けてきた著者の姿、その誠実を胸に刻んできた生徒達の姿をこの書から読みとることが できます。」




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