北海道地区数学教育協議会(道数協)高校サークル発行 2001.3.20 高校サークルだよリ  No.33 文責・真鍋和弘

3月例会 温泉とカクテルを楽しみながら〜洞爺湖温泉 湖畔の宿「かわなみ」
  例年になく春遅い北海道,一昨年の有珠山噴火の水蒸気がまだ残る洞爺湖湖畔で恒例の3月例会がひらかれました。
   十勝や空知を含む道内各地から8名のサークル会員と虻田高校から2名の新しい参加者があり,楽しく交流しました.
   名湯と酒につかりながら数学談義をはじめ,ありとあらゆる話が夜遅くまでくりひろげられました.
   レポートは会員全員が持参し,教育実践から大学入試まで多岐にわたり,いずれも興味深いものばかりでした.翌日も時間を延長して報告と討論がつづきました.紙面の関係ですべてを詳しく紹介できませんが,筆者の独断と偏見により,要点と感想のみ報告させていただきます(発表順)

■「数教協全国研究会議(東京)」報告/成田牧く札幌啓成高校>
   毎年2月にひらかれる数教協全国研究会議に参加した成田さんの報告です。
   その時の成田さんの報告「『楽しい』という情動と『手触り』を伝える」は「数学教室」(2001月2号)に載っているので参考にしてください。
   今回は,教育学者の竹内常一氏(国学院大学)による総論「教育・学校のよりどころ」が詳しく紹介されました。4時間にわたる膨大な報告であり,筆者の能力ではとても要約できない内容なので,興味のある方は,成田さんのレポ一トや竹内氏の著書「教育を変える」(桜井書店)を参照してください。
   とくに筆者が印象に残っだ言葉として,「総合的な学習の時間」は「新道徳教育」,「普通教育」の訳はordinalyではなくcommonかuniversal,
子どもの世界は暴力の支離に貫かれたミクロポリティクス,
「市民的な」とは(civil=礼儀正しい)こと,
感化力のある大人がいなくなった,公共性を立ち上げでいくこと,などです. 
   その他,話題提供として,成田さんの論文に対する感想文(同じ職場の先生)と山形県城北女子高校の先生からの手紙,札幌啓成高校の1年生の意識調査(過去3年分の授業や学校生活に対するもの),
数学の超難問である「谷山・志村予想」の完全証明を伝える新聞記事(朝日新聞2001,2,9)などが紹介されました,

■「2001年会国数研(青森)」報告/清水貞人く札幌新川高岐>  
  今年1月の全国教研に参加された片岸さん(札幌厚別高校)の2次関数についての実践を,清水さんが紹介しました。
   この授業に対するアンケートの結果では,「2次関数の理解に役だったと」答えた生徒が9割もありました.
   構成は,@プラックポックスによる関数の説明とアヒルの運動場の面積最大値間題としての2次関数の導入、
               Aコンピュ一夕−ソフトを使ったグラフの概形や平行移動の説明,
               B「田の字法」による平方完成の指導、
               C投げ上げ間題による2次関数の最大・最小値間題、
               Dイアン・スチュアートのソファーの間題、
               E棒グラフと水陸両用コースターによる2次不等式の説明などとなっています. 
   討論のなかで,2次関数のグラフをかく方法として「平方完成」と「3点法」とを比較検討しましたが結論はでませんでした.
   「3点法」とは,例えぱ y=x−6x+7のグラフをかく場合,y=7との交点のx座標は方程式x(x一6)=0で与えられますから,x=0,6となります.したがってこのグラフの対称軸はx=3です.3点(0,7)、(6,7)、(3,-2)を通る放物線をかけばグラフが完成します.
   この他,全国教研で発表されたレポートとして,長崎の諌早高校の永田寿男先生の「2次曲練のイメージの定着について」と,
埼玉の自由の森学園の藤村紀夫先生の「授業をどうつくっていくのか〜定積分の例に」が紹介されました.

■1次関数と2次関数/氏家英夫く自樺学園高校>  
   解析入門としての1次関数と2次関数の指導プラン(基本構想)が氏家さんから報告されました.
運動の解析を通して関数が自然に考えられており,科学史的にも忠実なプランです。
1次関数は等速度運動から導入されています.例えば,時間x秒後の物体の位置をycmとして, 
 
 
 
 x秒 0 1 2 3 4 5 6 ・・・
y cm 1 3 5 7 9 11 13 ・・・

という運動を考えると,xとyの差分△xと△yは,△y/△x=2を満たします.x=0の時のyの値(初期値)は1ですから,この運動はl次関数y=2x+1として表されます. 2次関数は斜面の運動の観測(等加速度違動)から出発します.例えば, 
 
 
 
x秒 0 1 2 3 4 5 6 ・・・
y cm 0 2 8 18 32 50 72 ・・・

   
という運勤では,△y/△x=2x,初期植y=0ですから,この運動は2次関数y=x2として表されます.ガリレイは斜面の運動の観測から,△yが奇数列,1,3,5,7,・・・ となることをすでに知っていたといわれています.今後のプランづくりが期待されます.

■「確率−実験授業から一」/河田憲二<虻田高校〉
   河田さんは確率の授業で種々の実験をとり入れています.
   碓率の概念は経験的に蓄積されるものなので,実際の確率の計算に入る前にたくさん実験させることは筆者も賛成です.1円玉投、画びょう投げ,将棋の駒ふりの実験がとりくまれています.生徒たちが夢中になって実験しているようすが報告されました.
   何回くらい実験すれば,数学的確率に近い植が得られるのか,事前に「大数の法則」との関係を調べておくことも必要という指摘もありました.
   虻田高校では,数学の授業においてなるべく達成感をもたせるように工夫しています.
   商業科の生徒は,自分でも手の屈きそうな簿記検定の資格をとるために努力しているそうです.

■「質の高い授業をしたい…」/石島悟く石狩南高校>  
   石島さんは,数学に対する感覚(数覚)が鋭くなるような授業を質の高い授業と考えています.
   数覚が鍛えられるような間題の例として,今回は大学入試から2つの問題を紹介してくれました.
[1]   31999を十進法で表したとき,一の位の数字を答えよ.(1999小樽商科大学)(答)7.
[2]{a}を以下の(a)、(b),(C)を満たす数列とする.
      (a)a =1,
      (b)任意の自然数m,nに対して,a m十n≦a+a
      (c)m≦nならぱ,a /m≦a/n.
このとき次の間いに答えよ.
      (1)任意の自然数nに対して,a≦nであることを証明せよ.
      (2)任意の自然数nに対して,a=nであることを証明せよ.(1999北見工業大学)
   筆者は[1]の解き方はだいたい見当がついたのですが,[2]は数覚がまったく冴えませんでした。
   当日は石島さんがていねいに解法を説明してくれましたが,ここでは紹介するスペ−スがありません.よい解き方があれぱ,事務局へお伝えください.
   高校サ−クルでは,面白そうな数学の間題を集めた問題集のようなものも発行しようかと考えています.

■「おもしろい入試問題、模型の効果?」/清水貞人く札幌新川高校〉
   清水さんは面白い入試問題の条件として,
      @パターン化されていない,
      A考えるとき図を使う,
      B本質的なことが見えてくる,
の3つをあげています.ここでは紙面の関係で入試問題のみ紹介します.
[1〕月,太陽,惑星などの星の等級は,等級が1上がる(数値が1小さくなる)ごとに同じ倍率で明るさが増すように決められている.
      (1)1等星の明るさは6等星のおよそ100倍にあたる.5等星の明るさは6等星のおよ   そ何倍か.
      (2)太陽の明るさは1等星のおよそ1.25×10 11倍である,また月の等級は太陽の等級とお   よそ14の差がある.月の明るさはl等星のおよそ何倍か.
      (3)1等星の明るさがy等星のx倍であるとき,yをxを用いた式で表せ.   下の表は計算に利用せよ.
 
 
 x 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9
10 1.25 1.58 1.99 2.51 3.16 3.98 5.01 6.30 7.94

                                    (弘前太学)
「2]四方を壁で囲まれた一辺の長さが5mの空地があり,その4隅を左まわりにABCDと名づける.テニスボ一ルが隅Aから出発し,壁で反射(完全弾性衝突)しながら直進を続け、どこかの隅に到着すれぱそこで止まるものとする.このとき以下の問いに答えよ.
      (1)少なくとも1度反射してから隅Cに到着する経路のうち,l番短いものについて,そ   の距離を求めよ.
      (2)少なくとも1度反射してから隅Dに到着する経路のうち,2番めに短いものについて,   その距離を求めよ.
      (3)すべての辺の壁で反射する経路のうち,1番短いものについて,その距離を求めよ.(4)ボールは隅Aに戻ってこないことを証明せよ.      (1998青山学院大学)これとは別に,啓林館の教科書「数学�改訂版」のp.142の正四面体の三角比の問題についての模型が紹介されました.

■「対数」/徳江堯く砂川北高技> 
   指数と対数のプリント(1回につき1枚で計10枚)による授業の報告です.
   指数は計算を中心に簡単にとりあつかい,おもに対数をとりあつかっています.
   対数の導入は小数のべき乗を常用対数を用いて計算するところから始まります.
   例えば(1.05)36の値は,   
      (1.05)36 =(10 0.02136=100.736=5.70   (ただしlog 101.05=0.021,log 105.70=0.756を用いた)
というふうに求まります.
   プリントではその後,対数の定義、対数の公式、底の変換、対数のグラフと続き,計算問題がたくさんでてきます.
   対数を教えていていつも感じることですが,教科書どおりにやっていると難しい対数の問題は解けても,対数がまったくわからないまま終ってしまうことがあります.このプリントのようにきちんと計算練習をしておくことが必要だと思います.

■「三角関数」/澤尻知徳く札幌星園高校>  
   古代の人々はどのような方法で三角関数表をつくったのか?これに興味をもった澤尻さんは,プトレマイオスが「アルマゲスト」のなかで示した三角法の数値(角度1°に対ナる弦の長さ)の求め方を説明してくれました。
   プトレマイオスはギリシア幾何学の既知の定理を適用して,今日の三角関数の半角の公式と、加法(減法)定理と同値な公式をすでに見出だしていたようです.
   現代風に書けぱ,次のようになります.   
      sin(α/2)=√(1−cosα)/2  (0°くαく90°)   
      sin(α一β)=sinαcosβ‐cosαsinβ
これらの関係式と60°と72°の三角関数の値から,プトレマイオスはまず72°−60°=12°の値を求め,
次に半角の公式を用いで,6°、3°、1.5°と計算していき,ついに0.75°に到達したと考えられています.  
           [参考文献]「グレイゼルの数学史�」大竹出版   「大数学者に学ぶ入試数学�・A」数研出版

■「指数関数とドラえもんの宇宙」/真鍋和弘く札幌篠路高校>容を見るときは ここをクリックしてください。

   「転がるタイヤの謎」 /真鍋和弘く札幌篠路高校> 容を見るときは ここをクリックしてください。


  北数教の研究団体「数学教育実践研究会」(数実研)ではホームペ−ジ上で研究レポ一トを公開しています。サークル会員のレポ−トもでていますので興味のある方はのぞいて見てください.
   今回,書籍版の「数学のいずみ」を発行することになり,上記のレポ−トはそのための原稿です.この他にサ−クル会員では,    
      「折り紙と数学」加藤渾一,
      「魔方陣について」長谷川貢,   
      「指数現象のメガネとしての対数の指導」氏家英夫,   
      「3時間でやる積分入門」清水貞人などが含まれる予定です。
(数学のいずみURL) http://www.nikonet.or.jp/spring/ 

   この他に情報提供として,「日本の科学者2001.3月号」に特集された「危機に立つ人学と教員養成」の論文を紹介しました.数学者の上野健爾氏も指摘していましたが,現在文部科学省は教員免許に必要な専門教科の必要単位数を大幅に減らしてきています.これでは将来、大学で数学をほとんど学ぱない数学教員が増える恐れがあり,非常に危機的な状況といえます.


<<6月例会のお知らせ>> 
   6月例会は十勝管内足寄町でおこないます.近くには「足寄動物化石博物館」や「陸別銀河の森天文台」などもあります.
  今回はエコノミ−ですので多数の方の参加を期待しています.                 氏家英夫<白棒学園高校>
 
 
 
6/9(土) 、6/10(日)
場所  道立少年自然の家足寄町「ネイパル足寄」(T)01562−5−6111 
(国道242号線を北進した場合,JR足寄駅構内を越えてすぐを左析したつきあたり.看板あり)
内容
6/9(土) 14:00 受付
  15:00 レポ−ト発表(1)
  18:00  夕食・交流会
6/10(日) 9:00 レポ−ト発表(2),全道大会について
  12:00   終了
参加費 3000円(1泊2食・交流会費ふくむ)



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