北海道地区数学教育協議会(道数協)
高校サークル発行 2002.5.11

高校サークルだよリ  

No.38 文責・成田 收


2002年3月新十津川例会報告
  高校サークルの2002年3月例会は道央の新十津川町のふるさと公園内にあるケビン村「ヴィラ徳富{とっぷ}」の一棟を借り切って行われました。風は少しきつかったものの、春3月の日射しは柔らかく、会場までのドライブは気持ちのよい時間でした。集合したメンバーは7名でしたが、報告の内容も豊かでゆっくり話すことができました。
 土曜日3時からの例会は、メンバーの近況報告の後、すぐにレポートの検討に移りました。報告されたレポートは、次のようなものです。
 全国教研報告(成田)2次関数(宍戸)じゃんけんについて(徳江)消費者ローンと数列(澤尻)観覧車で三角カンスー(清水)7で始まる数字(真鍋)高校入試問題から(真鍋)
 以下、レポートの概要を紹介します。

☆3月例会レポート紹介
<2次関数(宍戸さん)>
 2次関数のグラフの書き方を、3点法なども取り上げて丁寧に指導したプリント教材です。報告は、膨大なプリント教材から一部のみの抜粋でしたので十分その考え方を理解できたとは思えませんが、3点法をさらに改良して丁寧な指導過程が組まれています。その後、平方完成も扱うようにしているとのことでした。
 各所に工夫がみられ、数学が恐怖の対象ではなく、わかる教科として生徒に受け入れられているのだろうなという印象を持ちました。
 この報告に、いくつかの議論と検討が加えられましたが、学習者が、2次関数のグラフがかけるようになったとして、どうして2次関数のグラフが必要なのかということについて、納得して取り組んだかどうかという点が議論されました。この学びの動機付けとなる具体的で理解しやすいモデルを学習の導入で提示することはいつも求められていることとはいえ、なかなか難しいものです。ここでは、増島氏の2次関数プランや高教祖札幌支部教文推進委員会数学部会のプランなども例にあげて検討されました。  

<観覧車で三角カンスー(清水さん)>
 郵便局が郵便貯金の宣伝用に作った観覧車の模型を使って、三角関数を、観覧車をベースに教材化しようという試案の報告です。乗り場を観覧車の真下ではなく、真横に設定し、回転速度を一秒に1度とすれば、観覧車に乗り込んでから$t$秒後に、自分がいる位置を考えることによって、自然に三角関数の概念を導入することができます。
 たいへん優れた方法ですが、この設定では、三角関数の合成や加法定理をどう扱うかという問題が残ります。今後の課題として、検討しようということになりました。  

<じゃんけんについて(徳江さん)>
 3人でじゃんけんをすると、一人だけが勝つ場合と二人が勝つ場合とあいこになる場合がありそれらの確率がみな 1/3 であることについてはよく扱われます。しかし、これが、4人、5人、6人となった場合の確率について考えた例はあまり見かけません。この報告は、それを、7人の場合まで拡張して考えたものです。
 題材が、高校生に提示する問題としてちょうど良さそうなこともあって、一般の n 人でじゃんけんを行った場合のあいこになる確率についてひとしきり話題になりました。  

<7で始まる数字(真鍋さん)>
 昨年の合同教研で高校サークルの長谷川さんが問題にして以来、真鍋さんが継続的に取り組んでいるテーマの現在までの進捗状況の報告です。
 長谷川さんは「nを自然数とし、2nを10進数で表したとき、その数字が7で始まるようなnを求めよ。」という2001年度の京都大学の入試問題を授業で扱ったことを報告してくれました。その後、真鍋さんがこの問題の背景を探ってみると、log102が無理数であることがその背景になっているということがわかりました。どんな無理数も何倍かするとその小数部が任意の有理数に限りなく近い値をとります。このことが、nをうまく選ぶと、7やその他の数のどんな正の整数を指定しても、その数で始まるような2nのnを見つけることができることにつながります。そのことを保証するのが、ヤコビの定理です。今回の報告では、その証明の中心部は「鳩ノ巣原理」あるいは「ディリクレの抽出し法」によるものだということが述べられています。さらに、無理数の整数倍の数列の小数部が区間[0,1)に均等に分布していることを示すことができれば、自然界に分布する数は確率的に1で始まることが多いことを主張する吉田知行氏の「1で始まる数が多いのはなぜか」という記事も納得できるわけです。このことを保証するのが、ワイルの均等分布定理であるということです。今回の報告はここで中断しておりワイルの定理の証明にはふれていません。いつものように、真鍋さんの手にかかれば、ワイルの均等分布定理が、ほとんど自明のこととして解説され、パッと霧が晴れたように理解できるのではないかと期待されます。次回の報告が今から楽しみです。  

<秋葉さんからの手紙(清水さん)>
 山形県の秋葉さんに高校サークルとしてブックレット第2集の「量の解析に基づく指数関数・対数関数の指導」を送ったところ、秋葉先生から返信がありました。「量の解析〜」を丁寧に読み込んだ上でいくつかの重要な点にふれて議論されています。一読しただけで、ブックレットの主張する重要部分をすっかり理解してしまっているのに驚きました。著者の氏家さんもよき理解者を得て喜んでいるのではないかと思っています。また、一緒に送ってくれた資料中にある、携帯電話の生産台数の推移のグラフと指数関数 y=2^x のグラフを切り離して重ねてみるとぴったり重なるという授業実践の紹介は、その場でサークル参加者一同それぞれ体験してみましたが、まさにぴったりでした。その感動で時の流れが一瞬ゆるやかになったような錯覚に陥りました。  

<消費者ローンと数列(澤尻さん)>
 数列をやるなら等比数列で消費者ローンのことを取り上げなくてはいけない。なぜなら、他の教科でまともに取り組んでいるようにも思えないし、現代の若者に是非とも知っておいてもらわなければならない話題であるから。ここは、数学ががんばるしかない。・・・というわけで、例によって、澤尻さんの徹底的な研究が始まったようです。
 お金を借りない人にローン会社が丁寧に情報提供してくれるはずもなく、結局、大通り西14丁目の消費者センターまで行って調べてきたということです。アドオン方式のことや年利から月利を計算するときの12で割る計算のまやかしや借金を借金で返す泥沼の話など、実生活に密着した話題が満載です。次回は、実際に授業にかけた印刷物付きの報告を期待したいところです。  

<高校入試問題から(真鍋さん)>
 今年度の高校入試に√(a+b)がもっとも小さな整数になる、連続する2つの自然数a,b(a<b)を求める問題が出題されました。
 数学をするものの間では、自然数というと0以上の整数{0,1,2,3,・・・}をあらわすと考えるのが普通ですから、$a=0,b=1$と解答するのが適当であると考えられます。
 しかし、道教委は「自然数の定義を0 以上の整数{0,1,2,3,・・・}とする。」という考え方があることは知っているが、現行の中学校教科書が「自然数という言葉で1以上の整数{1,2,3,・・・}をあらわす」と、しているため、a=0,b=1は正解としないという立場をとったという報告です。
 「数学の立場から正解と考えられるもの」は高校入試の解答としても認めるべきだということや、誤解が生じないようにするためには、正の整数と表現するべきだなどいろいろ考えられます。しかし、実際、各学校に10名を越えて存在するa=0,b=1と答えた受検者は、かたくなな姿勢をとった方たちより、かなり本物の数学に近いところにいるのかもしれない、などと感じる報告でした。  

<教育研究全国集会報告(成田)>
 2002.1.10〜14に高知県高知市で行われた教育研究全国大会の数学分科会の報告です。  分科会ではたくさんのレポートが発表されましたが、筆者の発表の内容と印象的だった2レポートと1つの話題についての報告です。
<塩が教える幾何学(成田)>
 2001年札幌子育て教育文化フェスティバルの市民講座で行われた数学の講座「塩が教える幾何学」の報告です。この報告では2つのことが取り上げられています。1つは、黒田俊郎氏の開発した「塩が教える幾何学」のもつ数学を伝える道具としてのすばらしい力について、もう一つは、市民講座の取り組みが持つ学校教育のゆがみをとらえる鏡としての役割についてです。
 全国教研の会場でも「塩が教える幾何学」の実演をしましたが、参加者一同に、息を飲んだように見入っていただいたのは、支部教研の時と同様です。「確かにこれは癒しの数学だ。」との感想も聞かれました。参加者が、小中学校の先生方が多かったことなどを考えると、これでまた、「塩が教える幾何学」の伝道者が増えたかな、と感じることができました。
 もう一つの点は、市民講座を作るときの意識のあり方です。いくつかありますが、

  1. 市民講座を開きたいと思うのは、このことを伝えたいという明確な意識があって初めて可能です。このことは、私たち教員が毎日行っている授業に、このことを伝えたいという明確な意識が宿っているかという反問につながります。
  2.  市民講座を開くときは、市民が集まってくれるかどうかが大変心配です。そのために、市民が集まってくれるように、丁寧な紹介文、案内文を書いて誘います。授業の中では導入でそのような紹介をしているでしょうか。
  3.  市民講座では、参加してくれた市民、聴衆はある意味で神様です。ですから、最大限のサービスで自分の訴える内容の賛同者を得ようとします。授業ではどうでしょうか。
  4.  市民講座では、伝えるものと、参加するものはその立場の違い以外に何の権力関係も存在せず、対等の立場です。教育的配慮の名目のもとに、特別権力関係が存在すると考えていることはないでしょうか。
  5.  市民講座では、聴衆の理解はざまざまであることがふつうです。授業で、理解のレベルが違うので習熟度別にしたいという風潮があるようですが・・・。
  6.  市民講座では、参加者の理解度をペーパーテストで測った上で、序列化するようなことは考えられません。もし評価があるとしたなら、それは、表現活動に取り組む中で行われます。作品の発表がそれに当たるでしょう。
 これらについて述べてきましたが、全国教研の参加者には、賛同とともに受け止めていただけたようです。
<読み切り授業(竹中さん)>
 今回の教育研究全国集会報告の資料にもその一部を載せてありますが、竹中さんの読み切り授業は、3年生の文系に行った授業ですが、正に、市民講座の高校版とでもいえるような取り組みです。どのテーマをとっても掘り下げると貴重な数学の鉱脈に突き当たるような内容を1時間あるいは2時間の読み切り授業で取り上げています。また、「評価」をテストではなく「まとめ」の提出で行っている点も優れています。生徒は面倒だといいつつ、りっぱな「まとめ」を毎回作成しています。それをみると、内容を完全に理解している様子がよくわかるだけでなく、内容を楽しんでいる様子がよくわかります。 つまり、ふつうの実践とは異なり、数学教育を通して数学に対するよい情動が育っていることがよくわかります。
<単振動から加法定理へ(和田さん)>
 和田さんの「単振動から加法定理へ」は、その着眼の新鮮さに以前からおどろかされていました。ふつうの教科書では三角関数の加法定理を証明した上でその応用として合成を考えますが、和田さんの方法は三角関数の合成をグラフの波の合成として扱います。証明も、見てそれとわかる幾何学的な直感的証明を開発しています。その直感的証明をよく見ると加法定理の証明そのものになっているというものです。しかし、証明が幾何学的で目で見てそれとわかるように工夫されている分、図形の特殊性による制限が気になっていたのですが、今回、直接会って話を聞いてみると、任意の角にたいして合成の幾何学的な証明が検討されており、全く穴のない議論になっていることがよくわかりました。
<π−魅惑の数−>
 最後の話題はπの値の計算の話です。これは、2日目の夜の数学分科会の交流会の席のことですが、ちょうど向かいの席になった瀬山さん(群馬大学教育学部数学科教授で今回の共同研究者の一人)から聞いたものです。πの正確な値を何桁まで計算できるかという競争で、今はスーパーコンピューターで、2061億桁が計算されている。しかし、2進数展開ならば1兆桁目でも、その前の桁を全く計算することなく計算することができる、ということを紹介している本がある。それが、ジャン=ポール・ドゥラエ著畑政義訳の「π−魅惑の数−」ということでした。
 興味がありましたので、早速その本を手に入れ、その話題の箇所をコピーしたものを資料に入れてあります。
 また、この本では、どうして、正確にその桁を計算できるのかということがわかりませんでしたので、その公式、ベイリー=ボールウィン=プラウフ公式の本人による解説がある場所を見つけましたのでそのURLを載せておきます。
 http://www.lacim.uqam.ca/plouffe/
 ここがSimon Plouffeのページです。
 この中のAlgorithm for the n'th binary digit of Pi
をクリックするとダウンロードすることができます。
PDF書類ですのでAcrobat Readerがあると読めます。


<6月例会のお知らせ>

 6月例会は網走管内清里町で行いたいと思います。この時期はたくさんの花が一斉に咲き乱れる美しい原生花園がみものです。また温泉にゆっくりつかって日頃の疲れを癒しましょう。 小清水高校 小林 隆 

  1.  日 時  6月8日(土)〜9日(日)
  2.  場 所  清里温泉『緑清荘』(Tel 01522-5-2281)
  3.  内 容  
  4.  参加費  8,000円(1泊2食)
  5.  申込み  5月27日(月)までにfaxにて(fax 011-761-7911)


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