5 月から8月下 旬まで,色とりどりの花々が最北の大地を彩ります.稚内公園にある開基百年記念塔の 展望台からは.南にサロベツ原野,東にはオホーツク海,西 には利尻・礼文鳥が見渡せ,空気の澄んだ日には北にサハリンの島影も見えます.また,新鮮な海産物も豊かです.
今回の宿泊先は家庭的な雰囲気のお宿です.日頃の授業や,数学,数学教育について語り合いましょう.皆様のご 参加をお待ちしております.
桶谷真平(稚内
高校),高橋哲男(稚内北星学園太学)
期日 | 6月12日 (土)・13日(日) |
会場 | ホテル東方館
稚内市潮見4-4-5 TEL 0162-32-3912 |
6/12 | 14:30 受
付
15: 00 レポート発表@ 18: 00 夕食・交流会 |
6/13 | 9:00 レ
ポート
発表A
12: 00 終了 |
参加費 | 宿泊者7,000 円 、当日1,000円 |
申込み
|
6月4
日(金)までに別紙FAXで E-
mail shimizoo@r2.dion.ne.jp |
問い合せ | 札幌新川高校・清水貞人まで・ |
高校生や高校教員にとって魅力的な作品が多 く、実際に作製するなどして、楽しい時をすごすことができました。圧巻は比例を表す水槽の作製で,数々の秘策が隠 されているようでした。教具づくりの秘訣は「素材の性質をうまく活かすこと」だそう です。
2
日間での発表レポートは計7本で,以下発表順に要点のみを報告します。
@ 数学基礎の実践 横山徹(穂別高校)
1年生を対象 に数Iと数学基礎を選択必修で指導した報告です。3年生に教養の数学として数学基礎 を取り入れた例は知っていましたが,1年生を対象にした実践報告は初めてなので,興味をもって聞きました。
内容は大きく3つに分かれていて,基礎計算編,文字式の基礎編,方程式編へと進んでい
きます。ねらいとして数や文字の基礎計算の獲得を目標に,単位の換算や文章問題なども取り入れられ
ており,数学アレルギーをなくすよう工夫してあります,横山
さんは最後に,テストの点数で振り分ける「習塾度別学習」よりも、自分の意志で選択する「コース別
学習」だからこそ,よい結果が得られたと結んでいます。
A ウソつきパラドックス 須 田道春(平取高校)
一般に,日本
人は計算は得意でも論理は苦手だという指摘があります。3年生の後半の授業のなかで,数学基礎から
め題材をもとに論理的なパラドックスを扱った報告です。
筆者も以前このような題材を取り上げたことがあり,須田さんも述べているように,「面白い」と感じる生徒と「嫌い」と感じる生徒に二分される傾向にあるようです。
面白いのは,答えのない問題を生徒たちに考えさせようとしていることです。生徒はすべての数学の問題には「正解」があると信じているよう
ですが,解が存在しない問題があるということ(世の中のほ
とんどの場合)を納得してもらうのに,ちょうどよい教材だと思います。
須田さんのレポートの中から「解」が存在しない場合の例を一つ紹介します。
【例】A,B,C の3人のうち正直者は誰でしょう?
A:「Bはウソ つきだぞ」、B:「Cはウソつき」、C:「Aはウソつきですよ」
【解なしの証明】
例えば,Aが正
直だと仮定する。するとBはウソつきで,Cは正直となる。Cが言うことは正しいので,Aはウソつき
となる。これは矛盾。
同様に,Aがウソつきと仮定しても矛盾となるので、結局A
は「正直でもウソつきでもない」ということになる。
これは数学的命題としては不適当。■
B 「二項定理」の指導案 石 島悟(静内農業高校)
高校数学のいろいろな所に顔を出す二項定理ですが,教科書での取り扱いは「何を、やりたいのか見当がつかない」というのが現状です。二項式の展開から始めて,二項定理の面白さを十分に生徒たちに伝えようとするブランです。
とくに
(a+b)3=(a+b)(a+b)(a+b)=aaa+aab+aba+baa+abb+bab+bba+bbb=a3+3a2b+3ab2+b3
というふうに,
文字計算の苦手な子どもたちに対して,ていねいに指導されていることに感心させられ
ます。
授業では教科書通りにパスカルの3角形から二項定理に入ったそうですが,このプランでは,二項定理の意味を十分理解させてからパスカルの3角
形に入るようにエ夫してあります。
C 高校「教列」の授業プラ ン 高橋哲男(稚内北星学園大学)
現行の指導要領では数列は2年生(数B)で扱うことになっており,今年が最初となり
ます。数列や級数はたいへん興味深い題材でありながら・大学入試問題の難解さも手伝って,苦手と感じる子どもたち
が多いのも事実です。
「数列とは定義域を目然数とする関数である」と、は渡邊勝先生の言ですが,高橋さんのプランは,数列を高校数学
の基礎として,しっかりと位置づけるものになっています。
大きな特徴は, @数列をa。から始める。A
早い段階で漸化式を導入する。
です。
たいへん良くできた授業書なので,授業でさっそく試してみようと思っています。ほしい方は直接高
橋さんの方へ連絡してください。
これは余談ですが,
数列をa。から始めるという思想は自然数を0から始めるという思想(もしくは宗教)に他なりません。20世紀の偉大な数理学者ラッセルは著書『数理哲学序説』(1920)の中で「自然数を0から始める人は,多少とも数学的教養の高い人である」と述べています.「ゼロ教信者」をもっと増やしたいものです。
D 中・高の関数指導につい て 清水貞人(札幌新川高校)
数学教育の新しいプログラムを確立しようとしている北
海道の清水さんや,長野県の和田博さんたちの試みの紹介が,1
月例会にひき続いてありました。
今回紹介されたのは和田さんの微分の授業です。ライプニッツの無限小の考えをもとに,量の解析か
ら自然に微積分の考えがでてくることが,多くの例を通して高校生に語られます。
形式的で無味乾燥な教科書にくらべて,感性豊かな高校生には,この方法の方が優れてている
ことは,渡邊さんのブックレットでもすでに証明されており,
これからの研究や実践が期待されます。
清水さんの報告でいつも感心させられるのは,具体的なものを見せることで数学が「簡単」に見えて
しまうことを,生徒たちに常に示していることです。今回紹介してもらったのは,円錐や正8面体の2点間の最矩距離を,展開図を使って求める方法です。
モデルを眺めるだけで、自然と具体的な計算が見えてくるから不思議です.
E ガウスが歩んだ道(正17角形の作図) 真鍋和弘(札幌篠路高校)
1月例会にひ
き続き、ガウス青年の数学的大発見に関する報告です。すベての2次方程式が平方根を
用いて解けることは高校1年で習いますが,ガウスはある種のタイブのn次方程式(円分方程式と呼ばれる)は,平方根だけを用いて解けるこ
とを見つけました。その後,n次方程式の一般の可解性については,この発見がきっかけとなり,夭折した二人の数学者アーベルとガロア
によって完全に解かれました。彼らが打ち立てた理論は現代代数学と呼ばれ,現代数学の基礎の一つと
みなされています。
ガウスの理論は,本質的には2次方程式の解法を用いるもので高校生にも十分理解できると思います.前回は3次方程式と5次方程式,
が四則演算と開平だけで解けることを示しましたが,今回は17次方程式,
の解法について話しました。そこでは、整数論における原
始根の概念が重要な役割を果たします。6月例会では、現代代数学とのつながりについても話したいと
思います。
F 三次元の回転(訂正と補足) 成田牧(札幌啓成高校)
1月例会で成
田さんが報告した,「同一中心の2つの3次元回転の合成は,また一つの3次元回転である」という命題の初等的証明の続編です。これはもとも
と成田さんが昨年の数学市民講座でとりあげた「バナッハ・タルスキーの定理」;「あ
る大きさの球体を,有限個にうまく分割し,形を変えないで
組み直すと,最初と同じ大きさの球体が2個できる」という不思議な現代数学の定理の
中で必要となるものです.
この定理は2次元回転と3次元回転は本質的に異なるという現実を我々に教えてくれているような気がします。例えば,2次元回転の合成は可換だが3次元回転は非可換ということや,バ
ナッハ・タルスキーの定理は3次元以上でしか起こらないという事実と深いところで結
びついているような気がします。
成田さんの問題意識のなかに「高校生でも分かる証明があるはず」ということがあり,高校生の保田峰男君もこの議
論にずっと参加してくれました.
[1] 道数協・夏の研究大会の日程が決まりし た。 |
[2] ブックレット(特 別号)を発行します |
第44回全道教学教育研究 大会 | 『高校サークル』10年の
歩み(仮称) 今年10月発行予定 予価1000円 |
後援:北海道教育委員会、札幌市教 育委員会 |
高校サークル10周年を記念して,ブッ クレットを発行します. |
場所:札幌星園高等学校 |
内容は「高校
サークルだより」1号〜50号、 その他コラムとして、会員から原稿を募集します。 高校サークルに関することなら何でも結構です. |
記念講演;野崎昭弘氏 *詳しい内容は次号で
|
[原稿募集] よこ書き1000字程度(32字×31行) 手書き,パソコン何でもOKです、 締切;5月31日 |
今年から後援に道教委・市教委が、研修権を使って参加しましょう! |
宛先;札幌篠路高校 真鍋和弘 〒002-8053 札幌市北区篠路町篠 路372-67. |
前号でもお知らせしたように,高校サークルが誕
生して今年で10年目を迎えます。賛助会員を含めると会員数は70名を越え、多くの仲間と数学や教育・文化について交流ができたものだ!と感慨深いものがあります。ある統計資料によれば北海道の面積,人
口,国内総生産は北欧諸国と比べても遜色のないものです(下
表)
面積(km2) | 人口(千人) | 国(域)内 総生産額(億ドル)
|
|
北海道 | 83,452 | 5;726 | 1,764 |
デンマーク | 43,094 | 5,327 | 1,763 |
ノルウェー | 323,877 | 4,462 | 1,529 |
フィンランド | 338,145 | 5.165 | 1,284 |
この表を見る限り,北海道からノーベル賞や フィールズ賞を受賞する若者が多く育っても不思議ではない気がします。道内の科学教育や数学教育のレベルをもっと引き上げることは可能です。(神から授かる才能が全くランダムに与えられると仮定して)。こ れからのサークルの活動として,数学好きな高校生や大学生たちと、より緊密な関係を築いていくこと が必要かもしれません。実際ロシアにはそのようなサークルが存在します。
この春,筆者が担任した生徒の保田君が,某国
立大学の理学部数学科に入学しました。入学時より非常に意欲的な生徒で,合同教研を初め種々の研究
会や市民講座に積極的に参加してきました。彼が昨年の合同教研で報告したレポート(随筆)を本人の承諾を
得て、一部表現を変えた部分もありますが全文を掲載します。彼がどのような道をたどって数学に出会ったかが,よく
伝わってきます.(真鍋)
「つれづれなるままに」 保 田峰男(元札幌篠路高校)
[はしがき]
僕はいわゆる数学好きの高校生で,将来数学者になろうと思っています。ここに、自分がどういう変遷を経て数学者を志すようになったのか、そし て、その中で自分は何を感じたのかを書き連ねてみました。
[お話]
まず,僕の中
学生時代の話から始めます。僕は中学生の頃はおどおどしていて,自分に自信のない少
年でした。勉強ができる人,アグレッシブに生きている人などに圧倒され,これといった目的を持たずに生きている自分の存在が小さいもののように感じていました。勉強は嫌いだったの
で,テストの前にちょこちょこと勉強するだけで,後は
遊んで暮らしていました。
そんな状態の中で中学校生活も終わろうかとする頃,自分の将来について悩み始めました。その結果,動物が好きなので,獣医さんになろうかなと思うようになりました。その頃は,もう入試直前期だったので、自分の学力に合った高校を選び,結果,
篠路高校に入学しました。
それまで目的意識を持たず,漠然と生きていた自分が,獣医になりたいという明確な 目的意識を持ったことは,自分にとってはまるで世界が一変したような新鮮なことでした。そして自分 は、高校に入ってからでも十分やり直せるじゃないか,高校入学というスタート地点はみな同じじゃな いかとも考えました。
そうして,高校
生活が始まりました。
獣医を目標としていたので,僕は部活にも入らず、勉強に打ち込みました。打ち込む
といっても,高校生になって初めてまともに勉強を始めたものだから,教科書を理解するのに四苦八苦で,とくに英語はまるで何を
書いているのか分からない状態でした。それでも獣医になりたいという意志があったので,何とか根気強く勉強を続け
ると不思議とだんだん意味がつかめてきました。他の教科も差異がありますが,徐々に分かる
ようになりました。今までほとんど出来なかった分,分かるようになってきたという実感は強いもので
した。そして,僕は初めて人間はやれば出来るんだということを実感として知りました。
そうして勉強を続けていくと、自分は獣医という臨床的なことよりも,むしろ根源的なこと,つまり研究という形の仕事が向いているのではないかと思うようになりました。高2のこの時期は非常に不安定な時期で,やりたいことがコロコロと変わっていきました。例えば生物学者や心理学
者などにも憧れたりしました。
そんな時,担任の先生である真鍋先生に強い刺激を受けて,
数学の美しさに目覚め,数学をもっと深く知りたいと思うようになりました。それから
というものは数学者の伝記を読んだり,初等整数諭,組み合
わせ論などを雑学的に勉強したりして楽しんでいました。これらは数学の中のほんの1部,しかも僕が
勉強したものは初等的なものでしかないので、本当にもっと深いところにある数学とは,どんな
にすごいものなのだろうかとわくわくしました。
しかし僕は数学の問題を解くのはあまり自信がなかった
ので,数学者になろうという決心はつかないままでした。そこで,数学者ピーター・フランクルの問題集を買って,問題を解き始めまし
た。それらは難問ばかりで,全く困ってしまったけれども,解けそうな問題から少しずつ解いていきました。すると,解くのにも
のすごい時間がかかるのに驚きました。1週間以上かかる問題にも出会いました。この
長い思考の中で,解けない苦悩,解けた時の天にも昇るような喜びなど,数学者の喜怒哀楽を経験できたので,この本は僕にとって,数
学者入門書のような存在です。こうして,数学者になろうと決心しました。
このようにして今に到り,今では、すっかり数学の虜になってしまいました。結局,僕がこの話の中で言いたいことは,劣等感というもの
は幻想であり,その幻想をいつまでも持っている限り,卑屈
で虚無的な思考からは逃れられないということです。そして自分の眼をそのような幻想によって曇らさず,
明確な目的意識を持ち,そのためにたゆまぬ努力を続けることにより,常に眼を澄んだ
状態に保っこと,そうすれば,数学に限らず,あらゆる分野
において本質が見えてくるのではないかということです.[終]