2004・ 7・7
高校サークルだより
49号
 
北海道地区数学教育協議会(道数 協)
高校サークル発行

道数協夏の札幌大会 札幌星園高校にて

 す でにご案内の通り、今回初めて公立高校を会場に、道数協研究大会が開催されます。メイン講演は数教協委員長でもある大妻女子大学教授でもある野崎昭弘氏で す。離散数学(計算量の数学)の草分け的存在であると同時に、数学教育にも造詣が深い方です。数学の効用として、@感情に囚われず冷静に考える力、A大事 なことをねばり強く考える力、をあげておられます。おそらく高校分会にも顔を出して頂けると思いますので奮ってご参加ください。
 <高校分科会で発表予定のレポート>
・組み合わせから入る数列         沢尻 知徳
・再び微積分マスターテストの取り組み  渡邊 勝
・三角比の授業について          清水 貞人
・市民の数学「対数の世界」        成田 収
・ガウスが歩んだ道(正17角形の作図) 真鍋 和宏

期日 7月29日 (木)・30日(金)
会場 札幌星園高等学校

札幌市中央区南8西2−5−74

内容
7/29
 9:00  受 付

  9:30 わくわく講座
11: 00 大会記念講演
13:30 分科会 1

7/30  9:00 受付
 9:30 分科会 2

13: 00 教具手作り教室

参加費   4,000 円(交流会費は別)

問い合せ

札幌新川高校・清水貞人まで
TEL 011-761-6111
E- mail shimizoo@r2.dion.ne.jp


6月例会の報告  稚内市 ホテル東方館にて 
6/12(土),13(日)に、風の街・稚内市で6月例会が開 催されました。
 サークル会員
以外では、加藤英輝さん(道数協宗谷支部)、貞安洋子さん(旭川大学高校)を含め全部で7名が参加しました。
 少人数でしたが、報告や交流会の中でじっくりと数学や教育の話ができました。貞安さんに今回の感想をお願いしました。

  *    *    *    *

「今 年の三月に大学を卒業して、四月から数学教師を しています。大学で私に数学のおもしろさと楽しさを教えてくれた先生が二人います。その先生達と数学の話をしていると、気持ちがホコホコとした気分になり ます。 数学の新たなおもしろさや楽しさが私の中に誕生した瞬間です。その気持ちを生徒にも味わってもらいたくて授業をしていますが、まだまだ初めて三ヶ月、ほど 遠いみたいです。今回の高校サークルに参加して、私は再びこの気持ちを味わっています。」

1 2004年6月例会報告  報告者 成田収 
  6月例会に報告されたレポートの内容を紹介する

1.1 センター試験対策及 び数V・Cの授業について 桶谷 真平

 三年生の文系クラスと理系クラスにセンター試験対策を それぞれ3単位、2単位で行っているが、年々生徒の取り組みが悪くなってきて、文系クラスの平均点が30点をきってしまった。演習の授業も生徒が予習をし てこないため、結局、教員が黒板で問題を解き、生徒はノートを取ることに専念する形になり、問題を解く力が付いてこない。一方、数Vの授業も生徒が教科書 ガイドを頼りにしてしまうため十分な演習がでいない。また、地域の中学生の内40名程度は札幌や旭川の進学校に進学する。この状況を変えるために今年度よ り、学力向上フロンティアハイスクールの指定を受けているという実態報告であった。
 この後、この状況について、ひときわ盛り上がった議論が交わされたが、筆者は次のようなことを感じた。
 このような、進学を動機付けの中心とした教育が破綻し始めたたことが報告されてから久しい。遠い将来のために今はその価値が分からなくとも学ぶというこ とは、動機として成立しがたくなっている。
 学びの動機を持ち得ないため、多くの学校では、動機のない、あるいはモチベーションの低い学びを行うか、あるいは学びではなくて「勉強」と称して苦役を 強要するようになってきている。
 勉強すれば良い大学へ行くことが出来、良い大学へ入れば良い就職ができるという幻想が崩れ、このことが学びの動機となり得なくなってきているにもかかわ らず、依然として学校教育はこの域から抜け出すことが出来ないでいる。そればかりか、大都市の「進学校」ではますますその強要の傾向を強めているため、学 校教育が学びの豊かさと無縁になりつつある。
 今回の報告は、首都圏や大都会ばかりではなく、地方都市にも学びの動機付けの難しさが浸透してきていることや、大都市の学校と同様、学びと無縁な「学校 教育」の方向へ向かって仕舞いかねない岐路に来ていることが報告されている。
 学びは、学び自体が持つ豊かな文化とその面白さなどによって動機づけられるものであって、決して、進学の効率、高得点への効率を目的に行われる「教育」 のなかに生じるものではないはずである。
 効率を目的として、習熟度別指導が盛んであるが、佐藤学の「習熟度別指導の何が問題か」(岩波ブックレットNo.612)によれば、習熟度別指導は、す でに1970年代の世界の教育研究で、効率という面から見ても失敗していることが明らかになっている。
 現代の「進学」教育を進める人たちや、習熟度別指導を進める人たちの中に、効率を求めるためには一定の切り捨ては仕方ない、また、競争で勝ち抜けないと したらそれはその人の自己責任である、と言う新自由主義の考え方に裏打ちされ、能力による差別選別は当然であるという、冷たい競争至上主義、社会ダーヴィ ニズムがはびこっていることは問題である。
 教育はあくまでも、民主主義や、平等、協調や共生を主軸において、すべての人の幸福を目指して生きたいものだ、と感じた。

1.2 高等学校「数列」の 授業プラン 高橋 哲男

 高橋さんがこのところ集中して取り組んでいる数列教材 のほぼ完成形に近づいたプランの報告である。
 数列の変化を解析するとき、数列を自然数から、実数への関数ととらえ、関数値の変化を解析するのだから、変化量(差分)に着目するのは当然で、それは、 数列で言えば、階差数列に着目することになる。その自然な発想で全編を貫いた作品である。
 作品の特徴はいろいろあるが、その一つは、自然数を0から始めるという数学ではごく当然なことを大胆に採用したことである。これによって、公差がdの等 差数列の第n項は  
     a=a+nd    
となるし、公比が r の等比数列の第n項は  
     a= a 
となり、自然である。そのかわり、公差が d の等差数列の第0項から第n項までの和は 
=(n+1)(a+a) /2   
となる。同様に公比が r (r≠1) の等比数列の
第0項から第n項までの和は 
     S=a(1−rn +1)/(1−r)
となる。
 また、最初から差分に注目するため、公差が d の等差数列の定義は、
0 を与えた上で 
     an+1=a+d    (n=0,1,2,・・・)
と漸化式で表されるため、漸化式が突然現れる不思議な世界でなくなっているという利点がある。
 さらに、扱われている素材が面白い。平面が直線によって分割される数、ハノイの塔、欠陥チェス盤の鍵型トロミノによる敷き詰め問題、そして、2項間漸化 式の特性方程式の解の意味を固有値問題へ解消する事による視覚化など大変斬新で興味をそそられる企画である。

1.3 ガウスが歩んだ道 (正17角形の作図) 真鍋 和弘

 この報告は、「ガウスは18歳の時、過去2000年来 の難問であった、正17角形を定規とコンパスのみで作図する方法を発見した。この問題は一見すると幾何学の問題のようであるが、本質的には、16次方程式 を平方根だけを用いて解く問題と同じである。そして、この方法は、代数学に革命をもたらし、19世紀の代数学に、次々と偉大な発見(アーベルの5次方程式 が幂根だけでは解けないという定理やガロアの理論など)を導いたのである。」というS.D.ギンディンキンの言葉の引用から始まる。この世界史的偉業を、 高校生に分かるように伝えようというのが、真鍋さんの試みである。
 前回までは、正3角形、正5角形の作図がどのように方程式の解と結びつくのかということを丁寧に解説した後、正17角形の作図法と方程式の関係が、どの ようになっているかを解説したが、時間の制約もあって、十分な説明を聞くことが出来なかった。今回は、時間的に余裕があったこともあって、ガウスがどのよ うな発想で、正17角形の作図に到達することが出来たのかをゆっくり聞くことができた。この方法であれば、高校生と一緒に楽しむことが出来そうだという感 触が得られた。
 今回の解説の中心的部分は
     z17−1=0
の根を具体的に作図可能であることを示すことであった。
17− 1=0 の根は5次方程式の時と同様に、ガウス平面上の単位円の上に並び、正17角形を作る。したがって、

     ε=e(2π/17)  i 
を作図することが出来ればよい。 いま、
17−1=0 の虚根を
     
ε=εεεεε、・・・、ε16ε16
とする。これらは、図のように、複素平面上の単位円上に並ぶ。
            (図は省略)
 このとき、ガウスは、この16個の虚根に番号の付け替えをする。mod17でみて、
31,
  3 , 33 , 3 , 3 , 3 , 3 , 3 , 310 , 311 , 312 , 313, 314, 315, 31631   
はそれぞれ
3, 9 ,10 ,13 ,5 , 15 ,11 ,16 ,14 ,8 , 7, 4 ,  12 , 2 ,6 , 1
となるので

ε=z
ε= zε10= zε13= zε= zε15= zε11= zε16= zε14= zε= z10ε= z11ε= z12ε12= z13
ε=z14
ε= z15ε= z0 
とした。
ここで
σ=z  +
   +   +   +101214
  =
εεε13ε15ε16εεε2
τ
=z  +  +  +   +  +1113  15
  =
εε10εε11ε14εε12ε
とすると、
στ  +  + +・・・+1213  1415−1
στ=(z  +   +   +   +101214)(  +  +  +   +  +1113  15 )
     =4(
  +  + +・・・+1213  1415=4(−1)=−4
となるため、
στ は
     x+x−4=0
の2根になる。
この根は、(−1±√(17))/2 で√(17)は作図可能だから
、στ は作図可能である。
さらに、
σ=z
12
τ= z13
μ= z1014
ν= z1115
とすると、
σμσ
τντ
σμ=(12)(1014
    =(
εε13ε16ε)(εε15εε2
    =
εε13ε16εεεε13ε16εε15εε13ε16εεεε13ε16εε2
     
ε10εεε13ε16ε11ε14εεεεε12εε15εε
    =
εεεε+・・・+ε14ε15ε16=−1
同様に、
τν=−1 となるため、
σμ は  −σx−1=0 の根、          τ4 ν は  −τx−1=0    の根である。
したがって、 
 σ  、μ=(σ±√(σ+4)/2、 τ4   ν=(τ±√(τ+4)/2
となるため、これらは全て作図可能である。
さらに、
σ=z+z8    λ
= z+z12
とすると、
σλ=σ  σλ=(+ z)(+z12)=(εε16)(ε13ε)=ε14ε12εε 13τ
であり、
σλは xσx+τ=0 の根である。
従って、    
σλ= (σ±√(σ+4τ)/2
であるため、これらは作図可能である。
σ8 εε16 であったが、εε16 が共役な複素数であることに注目すれば、
2Real(
ε)=σσ±√(σ+4τ)/2
であるから、これらを実軸上にとって垂線をたてれば、
εε16 が作図可能である。したがって、正17角形を定規とコンパスで作図することができる、という道筋を丁寧に追えるよう にしてある。
 また、これらのことが、どうアーベルやガロアに繋がっていくかということも高校生と一緒に学んでいけるようになっている。これは、是非一度高校生を含む 市民と共に学んでみたいものである。
  
1.4 市民講座数学 対数   成田 収

 筆者の.報告 は高校生を含む市民を対象として、市民講座で対数を扱おうとしたら、どんなものになるかというテーマを追求したものである。今のところ、構想のみで、具体 的内容は出来上がっていないが、次のような視点が考えられる。
 1.対数誕生の必然性を共に学ぶ。したがって、対数誕生の歴史に学ぶ。
 2.対数誕生の経緯から考えて、対数の導入は、掛け算を自由にするために、等比数列(幾何数列)を等差数列(算術数列)に対応させるものと考え     る。したがって、導入は氏家さんのプランを使うべきである。
   さらに、指数は、細菌の増殖をモデルとして導入すべきであろうから、指数現象との関連についても議論すべきであろう。
 3.底の変換についても、基本的には氏家プランによる。しかし、より一般性を持たせた方向性を探る。
 4.常用対数の威力の確認には、根上生也氏の「爽快!2100三話」にあるnを適当に選べば1よ り大きいどんな自然数でも2の先頭に表れる、という話  を是非使いたい。これは、すでに、真鍋 さんが市民講座用に、その大部分のテキストを作って実践している。
 5.そのためには、log102の値は、人任せの対数表に依るのではなく、自分の手で計算できる ようにする。
 6.片対数グラフ、両対数グラフの威力で自然界、経済界を見通す。
 7.定数の現代的定義に迫る。
などを考えている。
 計画ばかりが壮大で、いつ出来るか分からないが、今回は、書き始めた歴史部分の初めと、
log102の値の手 計算(電卓も使うが)の部分についての報告であった。
1.5 三角比の授業につい て 清水 貞人

 三角比の授業 プランを実際に新川高校で実践検証した結果の報告である。教科書風の、定義を頭ごなしに教えて、そこから導かれる諸性質を解説し、その練習をするというス タイルが一新され、その対極にあると言っても良い形です。世界を読み解くための数学、意味がよく分かる数学になっている。
 このプランは、タンジェントから導入するが、タンジェントを考えることが意味あることだと感じ取るために、エラトステネスが紀元前200年頃に地球の大 きさを測定した壮大な物語から始まる。天文学という古代の人々の意識をとらえて離さなかった知性を土台として、タンジェントを定義することの必然性が実感 される。さらに、このテーマでは、tanθ=1/8 となるθの値を求める必要があるが、この値を求めるのに、アナログ式三角関数表と称して図のような三 角関数の値がその定義から自然に目で見える工夫をしている。(図省略)
 同様に、sin、cos も天文計算を経由して定義されるが、その定義は比によるものではなく、斜辺の長さ1あたりに対する高さあるいは水平移動量とし て定義される。そのため、三角比の相互関係は単純なピタゴラスの定理そのものとして認識される。
 また、三角比を関数としてとらえるために、ブラックボックスのイメージを使っている。角度を入れると、1当たり量が出てくる機能(ファンクション)とし て、記号tan(30°)などの使用を提唱している。
 sin,cos,tan の定義が済んで、相互関係も理解できたところで、教科書は直ぐにsin(180°−θ)=sinθ 等の関係や、三角比の値に 関する方程式や不等式の問題、に入っていくが、清水さんの方法は、ここで、数時間「パラパラsan」や「パラパラtan」を作ることに費やす。このとき、 アナログ式三角関数表は、観覧車のイメージを伴って、常に三角比の値の確認の道具となっている。
この「パラパラsan」や「パラパラtan」の作成にかけた数時間のために、 180°±θ や−θ等の三角関数値が自然に理解され、三角比の値に関する方程式や不等式の問題もズムーズに解けたと言うことである。
 さらに、正弦定理では、三角比の一組の辺と角のsinの値が比例し、その比例定数が直径2Rであるという視点で取り上げている。余弦定理はピタゴラスの 定義の拡張版としてピタゴラスの定理の証明と同じ視点で貫いている。これらの方法のために、定理の意味が理解しやすくなり、教材全体が見通しの良いものに なっている。

<編集後記> 

 この.サークルだよりが届く頃には、すでに参議院選挙の結果が出ていると思う。年金や自衛隊の問題も含めて、これらの日本の将来 を見通す上での重大な岐路になることだけは間違いない。殆どの政治的・経済的事象は偶然ではなく、必然の結果として起こるものであり、予測できないにして も、後にその原因を詳細に解析することは可能である。遠山啓は「関数概念」の解説の中で関数fを量的因果法則:
     f(原因)=結果
と呼んだ。(『数学100の発見』日本評論社) 教育基本法や憲法が勝手に変えられようとしている。我々が声を上げないで居ると、やがて「茶色の朝(ファ シズム)」がやってくる。異論があるかもしれないが、日本の数学者や数学教育者は、もっと社会や政治に口を出すべきである。ものごとを論理的に考えること が忌み嫌われる今日こそ数学を学んだ人たちの出番だと思う。
 カントールは「数学の本質はその自由にある」と叫んだ。あらゆる束縛から逃れて、自由にものを考える喜びを人々に伝えよう。高校サークルを立ち上げた理 由の一つにこのこともあったと思う。道数協夏の大会で、またお会いしましょう。 (M)