北海道地区数学教育協議会 2005.2.1
高
校サークルだより52 文責:清水貞人
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「誰も来なくても二人だけでも続けよう」がサークルの原点。
1月10日にサークル誕生10周年の祝賀会を札幌市内のホテルで行いまし
た。道数協委員長の須田勝彦さんを始め総勢15名が集い、一人ひとりが思いの丈をスピーチしました。氏家さんのスピーチの中で、サークルが誕生して間もな
い頃に私と真鍋さんが北大の食堂で「誰も来なくても二人だけでも続けよう」と話していたことが紹介され、高校サークルの原点を鮮明に思い出すことができま
した。「誰も来なくても二人だけでも続けよう」。この言葉を胸に、北海道高校サークルはこれからも全道各地を行脚し続けたいと思います。
祝賀会に先立ち、2005年度総会と記念講演を行いました。総会では、例会
を3月に旭川、6月に紋別で実施することが承認されました。また、道数協全遺大会は十勝の音更町で開催されますので、近隣の方はぜひご参加下さい。
記念講演には、東京から数教協副委員長の増島高敬さんをお招き
し、昨年12月に公表された二つの国際的な学カ調査の結果の分析と、中高の数学教育のカリキュラムについてお話しをしていただきました。
《2005
年度活動計画》 |
3月 5. 6日 |
例会 |
旭川 |
6月11・12日 |
例会 |
紋別 |
7月28・29日 |
全道大会 |
十勝・音夏中学校 |
11月12・13日 |
全道合研 |
札幌 |
12月26・27日 |
冬期研 |
札幌・あけぼの旅館 |
《3月例会のご案内》
「最低気温」と「雪の降る日数」の日本一を誇る旭川で、数学・数
学教育について語り合い、心が“ほこほこした気持ち(ほこほこ感)"になるひとときを過ごuこいらっしゃいませんか。もちろん、おいしい味覚・あたたかい
宿もご用意しています。私自身も、レポート発表や交流会で`ほこほこした気持ち"を味わい、数学で元気を充電して新年度の活カにしたいと思っています。旭
川で皆さんのお越しをお待ちしています。 旭川大学高校 貞安洋子
期 日 |
3月5日
(土)・6日(日) |
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会 場 |
旭川ホテル
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旭川市1条7丁目左4号
TEL=0166-22-6177
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内 容 |
3
月5(土) |
14:30受付
15:00レポート発表
18:00夕食・交流会
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3
月6(日) |
9:00レポート発表
12:00終了・解散
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参加費 |
1,000円 |
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宿泊費 |
6,000円 |
1泊朝食付、参加費含む |
申込み |
2月17日(木)まで |
別紙FAXにて |
〈記念講演要旨
>
昨年12月に公表された二つの国際的な学力調査の結果について、PISAの
結果から無答率がきわめて高い傾向にあるのに加えて二極分化が進行していること、T1MSSの結果から新学カ観以来の学校学カの崩壊がー層加速されっっあ
ることが明らかになった。現実の中で直面する問題では、テストのように範圏が決まっているわけではなく、あれこれの公式を覚えておけばよいわけでもない。
問題をまず自分の手で「数学の問題」として定式化し、解決のための方略・作戦を立てなければならない。問題場面に応じて柔軟に「白紙から」考えていく中で
自分の数学的な知識・技能と結びつけていく、このようなカを持つことによってはじめて、数学の知識・技能は「使える能力」となる。求められているのは、現
実の文脈の中に位置付けて数学が学ばれる体験を増やすことである。
PISA調査では「数学的リテラシー」を、「数学が世界で果た
す役割を見つけ理解する能カ」、「確実な数学的根拠こもとづき判断を行う能カ」、「数学に携わる能力」と定義している。これは納得できるものであり、これ
を「文化としての数学、数学それ自体の楽しさ・面白さを昧わう」、「現実世界を解明する『メガネ』となり『武器』となる数学、数学の有用性を知る」の二つ
の側面から追求していく。そのために取り上げるべき数学の領域としては、「量と数・代数」、「量の変化と関数・解析」、「空聞と図形」、「大量現象・偶然
性の中の法則」、今日ではこれに『フラクタル、グラフ理論など」を含めるできである。その中から、本当に重要なもの、価値あるもの、学ぶに値するものを少
なく絞って選び出す作業が必要である。特に、「中学校で離散的な関数を扱う」、「1次関数の蓄積が2次関数になることを知る」、「高校では指数関数とその
変化の特徴を知る」ことは重要である。 (増島高敬)
<1月例会レポート要旨>
① 高
等学校数学「数列」の授業プラン 高橋哲男(稚内北星学園大学)
今回は、数列の固有ベクトルについての検討。間もなくブックレットとして
発行。授業案践してくれる方を募集中。
② つ
れづれなるままにⅡ 保田峰男(東北大学数学科学生)
レピュニット(1がいくつか並んだ数字)からアルティン予想へのアプロー
チを考える。
③ 数学を伝えたい…… 石島悟(静内農業高校)
二項定理と漸化式の指導を通して見えてきた生徒のつまずきについての検
討。
④ 7のファンタジー 渡邊勝(立命館慶祥高校)
ヴェブレン・ヤング空間を人間集団と見立て、その中の部分案合がサークル
であることから、その連想で円を直線と見立てた模型の紹介。
⑤ 数学教育のニュースタンダ-ドを確立して広めよう! 清水貞人(札幌新川高
校)
2月の全国研究会議で発表する内容。21世紀の市民に求められる数学の共
通教養は、数学のメガネで現実の世界を読み解く能カ。
⑥ 市
民の数学一対数発展編へのスケッチ 成田収(静内高校)
対数の近代的解釈と複素関数についての構想。続きは3月例会で。
⑦ 数
論的ピタゴラスの定理 真鍋和弘(札幌篠路高校)..
表題に関わる歴史をたどりながら、なぜ人々は数の不思議に対して強く心を
惹かれるのかを紹介。
⑧ 円
順列の指導方法について 清水貞人(札幌新川高校)
生徒の素朴な疑問「回転すると同じ?」、「任意の一人を固定する?」に応える
実践。
冬 期 研
冬期研の第1目目は小中高の実践報告に学ぶことをテーマ
に行われました.したがって,この冬期研に来ると,小学校の算数,中学校の数学,高校
の数学,大学の数学というように,数学に無意味なラベルを貼って区別をすることなく,すべての数学について考えたり感じたりすることができます一そういう
意味では大変貴重な場所です.
最初の報告は,杉本先生(平取町立平取小学校杉本泰彦氏)です。杉本先
生の持ち出す図形のおもちゃがおもしろくて,そのおもちゃの鮮やかな色と不思議な
かたちに空想がかき立てられます.
今回,びっくリしたのは,平行な2組の棒を組み合わせて平行四辺形の形を
したおもちゃと,同じ形をしたプラスチック版を切り出したおもちゃを
並べて,子どもの認識ではこの二つは異なるものなんです,と彼が述べたときでした.今まで全く気がつきませんでしたがこの二つは,大人にとっても,子ども
にとっても全く異なるものだ,円という言葉で,円周(circ1e)を表すときと,円盤(disk)を表すときがあるように,三角形や四角形などの多角形
に於いても,形を縁取る境界に意識が集中する場合と,境界で仕切られた領域に意識が集中する場合とでは認識しているものが違う,という当然のことを再認識
させられたような気がします.
また,任意の四角形が単一の形の繰り返しで,平面を敷き詰め
る様子をカラーのプラバンで,一目で理解できるようにしてくれたり,任意の凸型四
角形は簡単に4つの部分に切り離して,並べ替えると平行四辺形にすることができることなど,楽しくて不思議なな世界が展開されていました.こんな夢のある
算数の時間が展開される小学校に通ってみたかったなと感じました.
中学校の報告は、「新米教師の悩みと工夫」と題して,教員2年
目の小丹枝先生(音更町)が関数指導のテーマで話されました.
2次関数の導入には,一見関係なさそうに見えるブラックボックスを工夫して
作り,関数機能を文字式化するときのイメージを作ったり,大ふんと
うの2年間の実践を聞かせてくれました.新鮮でみずみずしく,元気いっぱいの報告を聞きながら.自分の教員になりたての頃を思いだし,明日からの現案に立
ち向かうエネルギーをわけてもらったような気がします.
ところで.あとでよく考えてみると, z=xy のグラフは,平面 x+y
=1 などで切り取れぱ, z=x(1-x) となるので,これ
は,関係なさそうどころか正に2次関数のグラフそのものだと言いっていものだと気がつき,先生の感性の鋭さに敬服しました
.
それにしても,教科書の作りは,種々雑多の例が羅列され,大変
煩雑です.ある典型量の解析により量から関数概念を抽出しようという姿勢が見ら
れない.これでは置き去りにされる生徒がたくさんでてもしかたがないと思われる中身であるのに驚かされました.
高校報告は,高橋先生(稚内北星学園大学高橋哲男氏)の高校数
学「数列」の授業プランの紹介です.このプランは,数列を関数(定義域が自然数
である関数)と考え,関数である以上は解析的な立場から理解すべきものであるから,関数の変化に着目するために,隣接2項間の差や比に着目して解析を進め
るべきだという立場で作られたものです.大部の作品ですから,今回は1日目に数列の導入と欠損チェス盤のL字型ピースによる敷き詰め問題による数学的帰納
法の紹介,2日目の中高合同分科会において,ハノイの塔の手数の漸化式における,固有ベクトルの役割について話されました.数列の導入では,規則性がおも
しろい数列,
19,58,29,88,44,22,l1,34,17,
52,26,i3,40,20,10,5
という,コラッツ予想(角谷予想)に取材した数列なども扱っています.
数学的帰納法の紹介は,次のような方法で行われます.
一辺が22の欠損チェス盤
を
で
敷き詰める方法が一つ見つかると,
も
で敷き詰めることができ,これがわかると,nが
どんなに大きい数でも,一辺が2nであるチェス盤から,任意の1個を取リ除いた欠損チェス盤
.
は
で敷き詰められることがわかります.この教材を
通じて,数学的帰納法の強力な所を感じ取ることができます.
藤崎先生(十勝管内晋更中学校藤崎巽氏)は,1辺が1の正方
形と正三角形からできる図形に図のように線を引いてできる図形の面積が1であるこ
とについて考察しています、
の塗りつぷした部分の面穫が図の中に見える正方形の面積にひと
しいことと,一般にの塗りつぷした部分の面積が図中の正方形の面積に等しいことは同じです.
この面積計算を初等幾何学的に行うと決して簡単ではありません.これらの
ことを解析して行くと,15°と
30°の関係は,たして45°であることが本質的で,一般に x° と y°
x°+ y°=45°のときにおこることもわかります.さらに,このこ
と
の,相似比に着目した。初等幾何学的な一目でわかる幾何学らしい証明もあることを示して<れました.楽しいひとときでした.
真鍋先生(札幌篠路高校真鍋和弘氏)は,「数論的ピタゴラ
スの定理」として,「x2+y2=z2 をみたす整数解が無数に存在する」という定
理をあげこの定理にあらわる整数zを構成する奇素数はすべて 4m+1 型の素数 であることについて述べています.これは, 4m+1 型の素数 p
は p=x2+y2 と,ただ一通りに整数の平方和に表すことができるという事実に基づいているそうです.この定理は,フェルマーが証明なしこ述べ,それ
を,オイラーが証明し,そこから,ガウスが2次形式の議論の形で代数的整数論を展開し,現代の整数論につながって行く道のりの最初の道程にあたるというこ
とです.この報告は,時間切れで,詳細を聞くことができなかったのが惜しまれます、夏の大会の基礎講座や手作り教室と平行したサロンなどで,一度ゆっくり
話を聞きたいものだと思いました,
これらの他にも,清水先生,加藤先生,三輸先生.西谷先
生の報告も大変輿味深いものでしたが,紙幅も尽きましたので報告は別の機会にしたいと
思います. (報告成田牧)