サボテン今昔 27

分類
 
 大竜冠 Echinocactus polycephalus

人は誰でも分類をする。五感を通して接した事物の違いを瞬時に判断して幾つかに分ける。
大と小、白と黒、寒と暖、美と醜というように。同時に類似の特徴をまとめる。男と女、若者と老人、白人と黒人………。
考えてみれば分類するという行為は本能的なものであろう。モノ言わぬ動物だって食えるものと食えないもの、
敵と味方と言う識別を行っているに違いない。そうでなければ生存できない。これを一定の方式で系統立てて配列すれば
分類学という学問になる。
何を単位とし、どういう規準でまとめるかは分類する人の考えによって違うし、また利用目的によっても違うから、
種々雑多な分類法が生ずることになる。植物分類学でも事情は全く同様で、過去に多くの分類系が試みられ現在に至っているが、
いつの時代も改正や反論の余地を残しているものであるらしい。

 われわれの園芸に関する部分は全植物のごく一部であるが、新しい書物を開くたびにこれまでに覚えた分類とは
異った見解の記載に出会うといってよいほど流動的でもある。
 サボテン・多肉植物園芸はほかの多くの園芸分野から見れば分類というものがかなりのウェイトで関わっていると思う。
 植物学上で単一または数種に起源する品種群を対象とする園芸ではサボテン園芸の場合ほどには「分類」は問題にならないのではなかろうか。
 例えばオモトは植物学的にはただ1種のRohdea japonicaの品種群の葉芸を楽しむ。Rohdea属はユリ科であるとか、
japonica種のほかに何があるかとかには関心が払われない、と思われる。
 またバラをやっている人は、バラ科にはほかにサクラ、ゴテマリ、リンゴ、ナシ、イチゴなどがあるから集めてみようなどとは先ず思わないであろう。
 それと比べれば多肉植物は多くの科に亘っているので、個々の植物について何科の何属のものという認識が常についてまわる。
 サボテン類は1科だけであるか幾多の属に分けられ、植物分類学で種とされるものだけでも2000以上(より少ない分類もある)もあり、
 グループごとに取扱いが違うので、何属のもの乃至は何に近いものということを絶えず意識していることになる。
 サボテン関係の本には、それが栽培所であっても、アロエの場合はこう、エケベリアの場合はこう、というように読者が最低限の分類を知っていることを
前提として栽培論が展開されている。極めて門口の広いこの園芸の宿命ともいえる。
 だからある程度の分類の知識は欠かせないといえるが、分類学を目指したり、分類そのものに興味を持つ人を除けば、大多数の愛好家は
植物自体を楽しむわけだから、土壌とか肥料とか栽培に必要な知識の一環として分類のことも知っていればいいのだと思う。
 分類学者が新説を唱えるたびに半ば盲目的にラベルを書き替えたりしたら収拾のつかないことになりかねない。

比較的最近見た本の中から新説の例を挙げる。

  Steven Hammer 著
The Genus Conophytum、

 コノフィツムの解説書としてはまことに素晴らしく敬服に値いする。
分類として新説の目立つ点が幾つかある。
 OphthalmophyllumConophytumの一系列に組み込んでしまったことは分かるとしても、Herreanthusをも組み込み
C. blandum、 C.regaleなどと同系列にするという考えは意表をつかれた思いがする。
 卓見には違いないが、従来の分類に馴れ親しんだ頭では素直に受け入れにくい気分でもある。
また、タビ型の大部分がC.bilobumに統合されてしまって彼の説に従えば、100に及ぶ学名が消滅することになる。
 式典、大典、小公子等々はすべてビロブムです、と言われても、ハアそうですかとは言い難い。
 丸顔、爪実顔、短足、胴長などとわけてきたものがひと口で日本人で片づけられてしまうようなものだ。 
 
 

  Rod&Ken Preston-Mafham 著
Cacti

 
球型カクタスに絞った優れた写真集で私は大変気に
入っている。
しかしやはり人間のすることだから種の同定については
首をかしげたくなる部分があるのはやむを得ない。
 例えばエキノカクタスの大竜冠 E.polycephalus
竜女冠 E.xerathemoidesを包含しているが、両種は
外観は酷似している。だか明らかに別種である。
 両種を区別しない見解はほかの学者の本でも見たが、
昨年これ等の自生地へ行って違いを確認した。
 またDiscocactus heptacanthusの項には異学名として
何と16の種名が挙げられている。その一部を紹介すると、
D. boliviensis、D.estevesii,D.rapirhizusなどである。
 同様にD.placentiformisの項にはD.alteolensなど7種、
D.zehntneriの項にはD.albispinus、D.boomianusなど3種が
異学名とされているので、この書の見解に従えば凡そ
30種のディスコカクタスが消えることになる。 

                 D.placentiformis
 

   左上 小町 Notocactus scopa
右上 雪晃 Notocactus haselbergii
左下 金冠 Notocactus schumannianus
左下 金晃丸
 Notocactus leninghausii
 
Clive Innes & Charles Glass 著
Cacti

 この書もきれいな写真集であるが、Parodia属の中にNotocactus及びその類緑の種を入れている。
 雪晃、金晃丸、小町、獅子王丸などをパロディアにしました、と言われて納得できるだろうか。
 分類学者の記述を見ると、刺や雄しべの数を数えたり、葉の長さや幅を計ったりしなければならないので大変な仕事だと思う。
 しかし、栽培家には栽培家ならではの体験や知識の蓄積があるものだ。植物には育ててみなければ分からない部分が沢山ある。
 例えば平常時は全く同じに見えても死に方が違うとか、反対に分類の先生は違うと仰言るが、どう見ても同じだよと言いたくなることとか。
いずれにしても、常に分類を視野には入れておくが、安易に躍らされないことが肝要ではなかろうか。


※ 植物写真は平尾博著 『花アルバム サボテン』から収載、Conophytum写真は赤石幸三氏提供。
   本文は平尾博先生が原稿執筆当時のものですので、時期的には変化があるようですが、分類に
   関しての基本的なスタンスを示す資料として掲載しました。

         
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