サボテン今昔 No.15
可動棚
フレームは原則として人間の出入りを考えないから、植物の占有面積は100%。この点、は大変すぐれているが、何をするにもいちいち蓋を持ち上げねばならないという欠点がある。そこで温室ということになるが、通路部分はいかにも勿体ない。通路が占める面積は、わが家の温室の場合約20%に達する。構造にもよるが小温室ほどこの比率は高いはずである。この遊休部分を何とか活用する方法はないものか?
 まず考えることは、通路の上に板を渡すことである。人間はその下をくぐって向こう側に頭を出す。まるでオットセイかカワウソだが、収容力増強には代えられない。中腰になったり立ち上がったりするのはかなりの労働であるが、サポキチを自認するご本入は何とか我慢しているとみえて、時々このスタイルの温室を見かける。嘗て私もやったことがあるが、お客様が来られたときはあまり格好のよいものではなく、オットセイ方式は長続きしなかった。
 そこで考えついたのが可動棚である。構造は写真で分かっていただけると思うが、温室の棚下にすっぽりと納まる机を作り、机の脚にキャスターをつけて動かす。私の場合は地表は土だからキャスターのためにレールを用意したが、地面がコンクリートの場合はレールは必要でないかもしれない。とに角使ってみると仲々具合がいい。どうしてもっと早くこれを思いつかなかったのか。この可動棚を7つ作ることによって植物が占有する面積は約1坪ふえたことになる。また収容力増加のほかに酷暑、厳寒の折にも役立っている。例えば植え替えたばかりの実生苗を強光から護るため、可動棚は日中通路に引き出さずに棚下においたままにしておく、寒さの厳しい日の夜も同様。
 温室の構造によって、私と同じようなことができない場合もあるだろうが、このアイディアを取り入れてみようという方の参考までに具体的な数字を挙げておく。あとはそれぞれのケースで改良工夫をしていただきたい。
 私の温室は約60p幅の通路を挟んで奥行90cmの栽培棚が並んでいる。棚の高さは約80cmで90p間隔の脚で支えられている。棚下はご多分にもれず、用土や鉢などの置き場として、また戸外植物(アロエ・アガベなど)の冬季収容場所としてフルに活用する。この棚下の収容物に影響しないように可動棚の構造には若干の配慮をした。サイズは、60cmx80cmとした。短辺は通路幅によってきまる。長辺は棚脚の間隔90pから割り出した。この可動棚には例えば20p×30p程度の角鉢が5〜6個乗るわけだからかなりの重量になる。従って動かす際にぐらつかないよう堅牢に作る必要がある。ぐらつき防止に有効なのは筋かいであるが、棚下利用の関係で、筋かいの施用は限られるから隅金具などをたっぷり使って十分に補強をする。可動棚の四本の脚のうち、レール上を移動する2対の脚をあらかじめ角材か厚板で連結してしまうのがよい。キャスターは大きめ(径5cm以上)のものがよい。レールは私の場合は長さ1 m20cmのアングル材を用意し、これをV字型に地面に埋め込んで固定したが、ほかにもっといい材料があるかもしれない。キャスターを含めた可動棚の高さは約60m。深さ6cm程度の角鉢に高さ6cmくらいの苗を植えても栽培棚につかえないことを条件にこの高さとした。
 無い知恵をしぽって試行錯誤の結果が上記の通りである。既に何人かの方が見て行かれた。既存の栽培場を手直ししても、このアイディアを生かしたい、という人もいる。奮闘努力の結果がたったの1坪かと笑う人もいるだろうが、無から生じた1坪は私にとっては相当な戦力なのだ。余裕ができたことで春秋の植替えもずっと楽になった。