サボテン今昔 26
園芸

   

 近ごろガーデニングという言葉を耳にする機会が多くなった。横文字好きの日本人が「園芸」といわず、わざわざガーデニングと言っているのなら、ま、しょうがないか、と思うなのだけなのだが、園芸がガーデニングに衣替えするのに歩調を合わせて「園芸」が私の抱いている概念とは違った意味に使われているような気がしてならない。

 園芸とはタネを播いて育てたり、枝をさし木したりして一人前に育てて花を咲かせる、サボテンだったら実生苗を買ったり、カキ仔を分けて貰ったりして大きくする、ということが基本にあると思う。そこには育てる楽しみがあり、完成させる喜びがある。どうやれば一番いいのか。用土は、鉢は、水は、温度は、消毒はといろいろ勉強し、試行錯誤を繰り返す。そういうことが園芸だと私は思っているのだが、近頃の園芸、いやガーデニングは何か別の方角に向かっているように思われる。偏見かもしれないが、関心の中心が育てることよりも眺める、飾るに移ってしまってはもはや園芸ではないと思う。

 花屋に溢れている花つきのポットを買って来てそのまま眺める、せいぜい頑張ってもそれを抜いて花壇なり、ブランターなりに植え込む、もちろん用土は既成品。その程度の人に園芸家づらをされてはたまらない。カップラーメンやコンビニ弁当が食事づらをするようなものだ。あれは食事ではない。エサだ。本来の意味の園芸がちゃんとした食事だとすれば、ガーデニングが意味しているものはエサというニュアンスが強い。

 園芸雑誌の影響も大きいと思う。○○と△△を買ってきて、このように取り合わせて植えましょう、一鉢××円で買えますよ。とか、ハリガネのかごを買って来てこんなものを植えればステキなハンキングバスケットが作れますよ式の記事が多くなった。単行本にもそういう傾向が見られる。普通なら捨ててしまいたくなるような出来そこないの柱サボテンを束にしてテラコッタと称する容器に植えてインテリアに如何です?と言われたりすると気分が悪くなる。自分はあまり努力せず、出来上がったものを買って来て並べたり組み合わせたりして、ある風景を作り出す。それはそれで楽しいだろうが、園芸とはそういうものではないはずだと思っている私にとって近ごろの園芸誌は真面目に読む気にならない。

 園芸という語がいつ頃から使われたか、古文書に詳しい人ならご存じだろうが私は知らない。わが国の園芸植物には長い歴史があるから、日本語が先にあって、その語の訳語として外国語が対照されたと考えていいのではなかうか。
 そこで辞書を引いて見る。
 日本語大辞典(講談社)によれば、
 園芸@果樹、野菜、花木、草花などを栽培すること。horticulture。
    A造園の技術の総称。gardening。
とあって、私の考えている通り、園芸はhorticultureなのだ。
 念の為、英和大辞典でhorticultureを引いて見ると、園芸、園芸法。
とあり、gardeningは、造庭、築庭、造園、園芸。
とあって、本来の意味は造園のほうらしい。
 
 別の辞典ではどう表現しているか調べていないが「園芸」をカタカナ語で言いたいのなら、ホーティカルチャーと言って貰いたい。
 ガーデニングなどというから、園芸がちがった方向へ進んでいるのではなかろうか。こういう言葉をねじ曲げている人達は園芸家ではない。育てることをないがしろにして何が園芸だ、タマゴッチだって「育てる」要素があるからこそ人気を博したではないか。

 地球上のほとんどの地域に生えている植物のうち、人間が興味を持つ植物が園芸植物として身近にある。まだ園芸辞典にも載っていない植物も今後園芸の仲間入りをする可能性もあり、園芸の世界は大変に広い。私達はそのうちのごく一部である多肉植物、サボテンの分野に没入しているわけであるが、なかなか奥儀を極める境地には至らない。長年この植物と接していながら、未だに分からないことが沢山ある。もっと視野を広くして、ほかの植物に通暁している人達とつきあって見たら何か見えてくるものがあるもしれない。
 そういう思いもあって、ここ数年、サボテン、多肉植物のない会合にも足を運ぶことにしている。嘗ては、一種の浮気にも似た後ろめたさのようなものがあって意識してほかの分野の人達との接触を持たなかったし、先方からこちらへ歩みよる機会も少なかったが、自分の知らない分野の専門家達のお話を聞くことはそれなりの収穫がある。育てかたに直結する、といったような目に見える効果は期待していないが、植物に接する態度、ひいてはサボテン園芸のあり方を考える上で参考になることが多い。
 玉扇、万象だけをやっていたのではハオルチア属全体、ましてユリ科全般が見えてこないのと同様に、サボテン園芸という殻の中に閉じこもっているだけではサボテン・多肉植物のよさも悪さもわからないのではなかろうか。
 ひと昔前と比べて必ずしもいい方向に進んでいるとは思わないサボテン園芸が、より楽しく、ほかの分野のどの園芸よりもすばらしい園芸として存続するためにも、時にはほかの世界にも目を向ける必要があろう。
更新が遅れておりましたが、次回より、ご希望の多い「サボテン今昔・小鉢の世界シリーズ」を織り交ぜて掲載致します。ご希望品種等、事務局までお知らせください。
(今回収載の写真は著者の栽培品です。)