サボテン今昔 No.12 何か違う(2005〜6年にかけては寒い冬日が続いたが…)
サボテンは種類にもよるだろうが、まだまだ進化の過程にあって、かなりのスピードで変わっているのではないかと漠然と考えることがある。というのは昔…少なくとも十数年以上前とは何となく生長振りが違うように思えるものが幾つかあるからである。
例えば花期。以前は早春2月頃に花をつけたものが1月とか、どうかすると12月中に咲いてしまうとか。真面目に記録をとっているわけではないので論拠は弱いが、ツルビニカルプス、ギムノカクタスなどを見ていると、かなり違ってきているような気がする。もちろん本来の花期をきちんと守っている種類も沢山あるが、昔は寒いころにしか咲かなかったものが夏に咲いたりすると、何か変わったのかと考え込んでしまうのである。
耐寒力に関しても明らかな違いを感ずる。マイナス4℃、5℃という寒さにさらすとダメージを受けたはずのものが凍死せずに越冬する。 以前、とっくりらんを戸外に放置して枯らしたことがあるので冬は室内に取込んでいたが、近年の冬は葉先のいたみもなく戸外で越冬した。尤も、冬季の平均気温、最低気温は毎年違うから(たまたま)ということはある。気象庁の発表によると暖冬傾向はこのところは変わっておらず、冬の平均気温はそれを裏付けるとしている。わが家の温室は完全無暖房なので、冬期間毎日の最低気温は最も気になるところであり、それだけは記録している。参考までに、
1993年12月からと1994年12月からの冬季3か月の低温ぶりを示す下表をご覧頂きたい。
期間 |
マイナスを記録した日 |
左の内訳(℃)と回数 |
||||||
-1 |
-2 |
-3 |
-4 |
-5 |
-6 |
-7 |
||
93/12〜94/2 |
総計43日 |
15 |
12 |
9 |
4 |
1 |
2 |
0 |
94/12〜95/2 |
総計42日 |
9 |
11 |
13 |
4 |
3 |
1 |
1 |
凍害はしばらくたってから現れることがあるので、それを見きわめた上での報告。凍死したものは、パイレスキア1種、メキシコ産セダム1種。頭部傷害の出たものは、ソマリア産ユーフォルビア1種。台木となっている三角柱2本に凍斑、これ以外のサボテン・多肉植物に凍害は一切なかった。寒さには弱いと考えられるカランコエ、プセウドリトス、ユーフォルビア・ツルビニフォルミス、ディスコカクタス・ホルスティー、サクラキリンなどにも凍害の兆候はみられない。改めてサボテンは寒さに強いことを実感した。上記のうち以前は凍死させた経験のある種類もあるので、無事であったことは有難いが、何故今冬は寒さに耐えたのか不思議な気がする。もちろんこれ等は12月中旬〜2月一杯は断水した。マミラリアの一部や実生鉢には厳冬中も適宜潅水をした。
戸外越冬の鉢植えでも花月(金の成る木)が2〜3枚の葉先が痛んだだけだった。以前は葉先が全部やられて惨敗たる姿になったことを思うと耐寒力がついたと考えていいのだろうか。何年か前に某氏がサボテンの耐寒訓練ということを書かれたことがある。 当時はそんなバカなことが出来るかと思ったものだが、このごろではそういうこともあるのかなと思う。
昔、数百本の杢キリンを畠で作り、冬はビニールのトンネルで防寒したことがある。その年の寒さで見事に全滅したが、春になって芽を吹いて来たものがあった。こういうものを選抜して行けば耐寒杢キリンが出来るかもしれない。
1963年2月初旬、テキサス州のラシャ錦の自生地を訪れたことがある。異常寒波が襲来したとかで、ひと山全滅という光景に出会った。それでも何処かで何本かが生き残って子孫をふやして行くのだろう。その地域のラシャ錦が絶滅したという話はきいていない。原産地の平均気温、最高、最低気温のデータは案外少ないので、この種類なら何度くらいまで耐えられるかは試験してみるほかはない、というのが一般であろう。
珍しい例として、アロエ各種について花期、降雨量、最大降雨月、平均気温、最高、最低気温の一覧表のついている本がある。 H.Bornman,D.Hardy著Aloes
of the South African veld 1971年がそれで、一部を紹介する。
種名 |
花期 |
降雨量mm |
月平均最高 |
過去最高 |
月平均最低 |
過去最低 |
A.dichotoma |
6月 |
125 |
33℃ |
46℃ |
6℃ |
-4℃ |
A.haemanthifolia |
10月 |
1875/2125 |
28℃ |
39℃ |
4℃ |
-7℃ |
A.polyphylla |
8〜10月 |
875/1000 |
24℃ |
25℃ |
-4℃ |
-13℃ |
原産地のAloe dichotoma | Aloe haemanthifolia | Aloe polyphylla |
これをみると、平均的には最低4℃くらいで穏やかに生きているハエマンティフォリアでも、時には−7℃を体験するということであるから、アロエに限らずすべての自生種はそれぞれ非常事態に備えているに違いない。
話が耐寒性中心になってしまったが、耐暑、耐光、耐乾、耐湿、耐病など各種の自然(栽培品の場合は人工か)環境に適応して植物は生きているわけだから、進化の過程にあるものほど顕著に変わることが実感できるのではないか、と思っている。