知的障害による障害年金の申請について
〜知的障害・広汎性発達障害等のケース〜


T.はじめに
 知的障害や広汎性発達障害等の障害年金の申請には、時として社会保険事務所や市区町村の年金担当の窓口の対応がまちまちであり、ご本人や家族が戸惑うケースも多い。このページでは具体的な事例を挙げつつ、支援者の立場また申請を考えているご本人や家族に分かりやすい様に申請の流れを説明していきたい。

U.障害年金の申請について
 障害年金の申請には様々な書類、手続きが必要となる。各々のケースによって申請の流れや手続きの仕方が変わる場合があるので、一般的な流れを説明づることにする。
 なお、障害年金の申請には原則として本人が拒否していないことが前提となり、障害年金の支給決定を行なうのは社会保険庁でのため、審査の結果、不支給となることもあることは覚えておく必要があるだろう。

V.申請をするための条件
知的障害や広汎性発達障害等の年金申請には、以下の条件を満たしていることが必要である。。
@現在20歳以上65歳未満
A対象となる障害(病気)および障害年金が受給可能な一定の状態にあること
※その他、条件を満たしている必要がある場合もある。

【事例による検討】
 注意しなければいけないのが、精神障害の年金申請でよく問われる「初診から1年6ヶ月」という障害認定日の存在である。
 統合失調症などの精神障害では、20歳前の発症の場合、現在の障害(病気)の原因で最初に医療機関に受診してから1年6ヶ月後が20歳未満であれば20歳の誕生日が障害認定日となり、1年6ヵ月後が20歳を超えていれば、通常の精神障害と同様に1年6ヵ月後が障害認定日となる。
知的障害や広汎性発達障害等の場合には生来性、もしくは発育期による発症なので、20歳の誕生日が障害認定日になり、初診から1年6ヶ月という要件は問われない。また、20歳前に初診がある場合や生来性の障害の場合には無拠出制の年金制度となるので、窓口は最寄の市区町村の国民年金(障害基礎年金)となる。しかし、担当者によってはまちまちの対応をとられることがある。多く寄せられる相談は以下の通り。

(1)20歳前または20歳の頃に医療機関にかかっていないと障害年金は受けられない
(2)初診の医療機関の証明がないと、障害年金はうけられない
(3)現在、医療機関にかかっていないと障害年金は受けられない
(4)療育手帳(知的障害者の手帳)を持っていないと障害年金は受けられない
(5)療育手帳「B」だと障害年金は受けられない
(6)20歳超えて働いているなら、窓口は社会保険事務所です

 上記の内容は全て誤りです。市区町村の担当の職員が年金制度を理解していないため、ご本人や家族は障害年金の申請を諦めたり、何度もいろいろなところへ足を運んだりすることになってしまう。上記以外にも、いくつか相談は寄せられるが…。
 知的障害や広汎性発達障害等の年金申請はあくまで最初にあげた2つの条件が必要になるので、今までに掛かりつけの医療機関が無いという場合には、最寄の精神科のケースワーカーに相談してみるのが良い。


W.障害害金の請求の流れ
1.まずは、主治医に相談する。
 障害年金の対象となる障害(病気)であることが前提となるので、まずは主治医に相談してみるべきである。掛かりつけの医療機関が無い場合には、幼少時の様子など生い立ちを纏めてから精神科のケースワーカーに受診相談をすると良い。母子手帳や成績表、特殊学級を勧められたことがあれば、その書類も用意しておくと、後々の手続きのときに便利である。
 ケースワーカーのいない医療機関ではなかなか相談に応じてくれるところが無い。民間に機関で代行して手続きをしてくれるところもあるが、高額な手数料を取られることもある。今までに医療機関にかかったことが無いのであれば、市区町村の年金窓口に相談するのも良いし、福祉の窓口でケースワーカーのいる精神科を紹介してもらうのも得策であろう。

2.市区町村の担当窓口から年金申請に必要な書類を貰う
主治医から、障害年金の診断書の作成が可能と言われたら、市区町村の担当窓口で年金申請に必要な書類を貰う。ただ、Vでも説明したように、誤った解釈をしている市区町村の担当職員もいるので、心配であれば、医療機関のケースワーカーに事前に問い合わせをしてもらうなどの対応をとっても良いだろう。

3.主治医に診断書を作成して貰う。
 基本的には、知的障害や広汎性発達障害等は、20歳の誕生日が障害認定日となる。まれなケースであるが、アスペルガー症候群の30代の患者さんが初診日の27歳が障害認定日となったケースもあるが、一般事例では20歳の誕生日を認定日とするケースが多いだろう。
20歳の誕生日から1年以内の場合には、1枚の診断書で年金の申請が可能であるが、21歳以上の場合には、過去に遡って障害年金を請求することが出来る(遡及請求)。遡及請求は、障害認定日から5年以上経過している場合には、最大で5年分まで遡ることが出来るが、5年以上経過した分については時効で請求できない。ここで、問題となるのが、遡及請求をする場合には、障害認定日の診断書と現在の状況の診断書の2枚が必要だということである。現在受診している医療機関と20歳頃に受診していた医療機関が異なる場合には、まずは20歳の頃に受診していた医療機関で診断書を作成して貰い、その後、現在の状況の診断書を作成してもらうことになる。
ただ、知的障害の場合、小さいことから医療機関に受診しているケースが多く、多くは20歳の誕生日による認定日請求である。しかし、小さいことに医療機関を受診していなかった知的障害の方や最近、ようやく理解されつつある広汎性発達障害等の場合には、20歳までに受診歴がなく、20歳の頃に医療機関にかかっていないケースも多い。遡及請求では、障害認定日つまり20歳の頃に受診していた医療機関の診断書と現在の診断書がないと請求することは出来ない。そのため、20歳の頃の診断書が作成できない30歳の方の場合には、遡及は出来ずに、事後重症という形で、将来的な請求しか出来ないことになってしまう。
知的障害のように、生来的なものでも診断書が作成できないばかりに遡及請求できないという矛盾点は今後改善していくべきであろう。

4.申請に必要書類の記載する
 様々な書類があるので、記入が難しい、わからないという場合には担当窓口やかかりつけの医療機関のケースワーカーに相談して記入するのも良いだろう。診断書とその他の書類の内容が異なっている場合には、書類が受け付けられない場合があるので注意が必要である。

5.できあがった診断書とその他の必要書類を申請窓口に提出する。
冒頭にも述べたように、提出した書類をもとに社会保険庁で年金の支給・不支給を決定されるため、審査の結果、不支給となることもあります。
 
6.障害年金の支給に関する通知が届く

申請書類を提出して90〜180日、遅い人だと1年近く経過してから障害年金の受給に関する通知が届く。受給が決定すると、社会保険庁から「裁定(決定)通知書」と「年金証書」が送られてくる。これはとても大切な書類なので、なくさないように保管しなければならない。

 以上のような流れとなる。文章にすると、何気ない流れだが、実際に申請をすると長期に及ぶ上に、相当な労力が必要となるため、支援者はもとより、ご本人や家族には大変な作業となる。

X.おわりに
 まだまだ、知的障害や広汎性発達障害等の年金申請は一般には浸透しておらず、申請件数も多いとはいえない。しかし、実際には需要は多いため、支援者サイドは知識を付けておかなければならないだろう。


(2007年11月3日作成)


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