幻覚症



1.幻覚症とは
 錯覚が、その場に実際にあるものを元とは違った形で、誤って知覚することを指すのに対して、幻覚は、その場にないものを実際にあるように知覚することを言います。幻覚と錯覚とを合わせて「妄覚(もうかく)」と言います。
 よく「幻覚が見える」という人がいますが、幻覚は見えるだけではありません。その場にないものを知覚するという意味では、全ての感覚器官に対応した幻覚があります。


2.幻覚の種類
@幻聴(げんちょう)
 周囲の人には聞こえない音声が聞こえる症状です。声として聞こえるものを「幻声(げんせい)」と言い、単純な音が聞こえるものを「幻音(げんおん)」とも言います。幻聴は、自分の体の外から聞こえるということも、自分の体の中から聞こえるということもあります。耳で聞こえるとは限らず、「頭の中に聞こえる」と表現されることもあります。
幻聴はしばしば被害的にとらえられることがあります。

A幻視(げんし)
 「その場にないはずものが見える」という、誰もがまず思い浮かべる「幻覚」症状です。単純な色や光が見えることも、動物や人物など具体的なものが見えることもあります。

B幻味(げんみ)
 口の中に何もなくとも、ある味覚を感じる現象です。実際に味わっているものと違った味になるのを錯味(これは錯覚です)といいますが、幻味は錯味と一緒に起こることがあります。人によっては、幻味(錯味)を被害的に解釈し「毒を盛られた」と考えることもあります。


C幻嗅(げんきゅう)
 嗅覚として体験される幻覚です。場合によっては幻嗅と幻味は同時に生ずることがあります。人によってはやはり被害的にとらえ、「毒ガスにやられた」と感じることがあります

D幻触(げんしょく)
 しびれる、くすぐったいと言った単純なものから、誰かになでられる、さすられるとか、虫がはいずり回ると言った、妄想的な解釈を伴った感じ方もあります。

E体感幻覚(たいかんげんかく)
 幻触と、それ以外の皮膚感覚(温痛覚、湿覚)等についての幻覚について言いますが、その他にも、「脳味噌が解けた感じ」、「体内に異物のような出っ張りがある感じ」などの妄想的な訴えについてもこういうことがあります。


3.幻覚の原因
 幻覚の原因としては、あらゆる精神障害が考えられます。幻覚があると言うだけでは病気の診断はできません。
しかし、ある種の病気にはある種の幻覚が出現しやすいという一定の傾向はあります。
 統合失調症では幻聴(特に幻声)が特徴的で、中でも、「自分の考えたことが外からの声として聞こえる(考想化声と言います)」とか、「話しかけたり応答したりする」、「自分の行動や考えを批評する」と言った幻声が診断に重要であると考えられています。アルコール幻覚症や覚醒剤精神病では自分を責め、攻撃するような被害的な幻声を認めることがあります。
 意識障害を伴うような身体疾患では、幻視がよく見られます。私たちが眠っているときにはよく夢を見ますが、夢も「その場にないものを見る」という意味では生理的な幻視だと言えます。睡眠は生理的な意識障害と考えられるのに一致しています。幻視を訴えた場合は、精神病よりも、身体疾患(しかも意識障害を伴うような重いもの)を考えた方がよいのです。アルコール離脱症状(いわゆる禁断症状)や、幻覚剤で生じる幻覚は主として幻視です。
 ある種のてんかんでは、幻嗅や幻味を体験することがあります。統合失調症やその他の精神病では、幻声以外の幻覚も見られます。幻覚を、被害的、妄想的にとらえている場合には、統合失調症やその他の精神病をうたがいます。認知症でも、幻覚を妄想的にとらえることがありますが、それは、精神病症状を伴った認知症と言うことになります。




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