せん妄


1.せん妄とは
  せん妄とは、意識混濁があり、とくに意識の明るさに著しい動揺がみられ、かつ妄覚(錯覚、幻覚)、精神運動興奮、運動不穏などが加わり、ときに支離滅裂な独り言や行動がみられる状態をいう。典型的な例として、アルコール精神病の振戦せん妄にみられるもので、多数のヘビ、ネズミその他小ざい虫類がはい回る、自分を追いかけてくるというもの、壁のシミが人の顔に見え笑い出す、額縁に入った絵が動きだすなどと訴える。触覚的なもの(腹の中を虫がはうなど)が訴えることもある。連想は支離滅裂で、良識、見当識、記銘、記憶、判断なども障害される。原因としては、外因性疾患、たとえば高熱を伴う伝染性疾患(高熱を伴うものを熱性せん妄という。小児と老人に多い)、中毒性疾患(アルコール中毒の振戦せん妄、四エチル鉛中毒など)、脳器質性疾患(脳炎,脳動脈硬化症など)などがあげられる。老年の精神障害では夜間せん妄がみられることがある。また、近年、せん妄という言葉を意識障害とほとんど同義に用いることもある。


2.症状
 軽度ないし中等度の意識混濁とともに激しい精神運動性興奮を伴う。患者は,強い不安、恐怖状態にあり、体動が激しく、錯覚、幻覚も出現する。見当識も障害される。妄覚としては,幻覚よりも錯覚が多く,聴覚的なものよりも視覚的なものが多い。その期間の記憶はないか不完全である。急性に始まり、短時日で経過する。可逆的、機能的なものであり、原因がなくなれば後遺症なしに治る。
 薬剤性のせん妄に特異的にみられる症状はなく、下記の注に記載したような症状を呈する.精神症状を示す前の初期症状としては、「疲れがとれない;いらいらする;眠れない;昼問なのにうとうとする」などの症状が報告されているので症状に気づいた場合には、すぐに主治医に連絡するよう指導する。また、自覚困難な無表情、不自然な言動などは患者家族等へ情報提供し、 この副作用は誰にでも起こるというものではないことや、薬を服用中に「無表情になった;不自然な言動をする;いつもど違った言動、行動をするjなどの症状が、上記症状の他に認められた場合、速やかに主治医に受診するよう指導することも必要である。


3.発生機序
 原因は不明であるが、コリン作動性神経伝達の障害とせん妄状態の発現は大きく関与しているといわれている。抗コリン作用が強い薬剤で現れやすい。
 ベンゾジアゼビン系薬剤は退薬症状として現れ、血中半減期の長い薬剤では起こりにくい。


4.治療法
 原因薬剤を中止すれば後遺症を残すことなく回復するので、可能であれぱ中止する。
 抗パーキンソン病薬の場合は減量し、もしパーキンソン病が悪化し、日常生活に支障をきたすようならチアプリドを投与する。
 ステロイド剤では抗不安薬,抗精神病薬を投与して様子をみる。症状がなくなるまでステロイド剤を減量し、それを維持量とする。
ベンゾジアゼピン系薬剤の場合、退薬現象として現れるので、あらかじめ徐々に減量するなどの対応をとる。


5.せん妄を起こす可能性のある薬剤
◇麻薬:
アヘン、アヘン・トコン散、塩酸アヘンアルカロイド、塩酸エチルモルヒネ、塩酸ペチジン、塩酸モルヒネ、硫酸モルヒネ、リン酸コデイン、リン酸ジヒドロコデイン
◇中枢神経用剤:
アモキサピン、塩酸アミトリプチリン、塩酸トラゾドン、ゾピクロン、マレイン酸フルボキサミン
◇インターフェロン:
インターフェロンアルファ、 インターフェロンアルファー2a、インターフェロンアルファー2b 
◇抗パーキンソン剤:
塩酸セレギリン、塩酸タリペキソール、塩酸トリヘキシフェニジル、カベルゴリン、メシル酸プロモクリプチン、メシル酸ペルゴリド
◇解熱鎮痛消炎剤:
塩酸ブプレノルブィン
◇頻尿治療剤:
塩酸プロピベリン
◇咳止め:
オウヒエキス・リン酸コデイン、マルコホンA散、マルコホンコデイン
◇強心剤:
コリンテオフィリン、シプロフィリン
◇気管支拡張剤:
テオフィリン
◇選択的ドパミン作動薬:
テルグリド
◇抗ウィルス剤:
アシクロビル




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