躁うつ病(双極型障害)



 
<症状>
 基本的にうつ状態と躁状態が交互に表れるが、うつ状態と躁状態が混ざって存在する混合病相もある。冬にうつ、夏に躁など季節に左右される症例もある(季節性情動障害 Seasonale Affective Disorder、SAD)。うつ状態から急に躁状態になること(躁転)はまれでなく、一晩のうちに躁転することもある。また1年のうちに4回以上うつ状態と躁状態を繰り返すものを急速交代型(Rapid Cycler)と呼ぶ。


<躁状態>
 一般的に高揚した状態と説明されるが、その症状は様々である。
・次から次へ新しい考え(思考)が浮かんでくる
・ドンドンバリバリ不眠不休で仕事をし始める
・一日中手当たり次第に色々な人に電話をかけまくる
・クレジットカードやお金を使いまくって買物をする
・多額の借金をして高額の買物、例えば外車やマンションなどを買ってしまう
などがある。
 まれに大きな成果をあげることもあるが、たいていは中途半端に終わってしまう。また、電話をかけられる人が迷惑なばかりか、電話で約束したことを本人が忘れていることが多く、患者本人の信用失墜につながる。そして、本人ばかりか家族も巻き込んで後に経済的に苦しむこととなり注意を要する。躁状態の患者は怒りっぽいことが多く、上記のことを頭ごなしに注意したりすると喧嘩や時に暴力に及ぶこともあり注意を要する。
 家族を含め周囲の者は受容的態度に徹しつつ、やんわりと注意し、お金やクレジットカード、実印などを取り上げるなどして早めに精神科を受診させ薬物療法を受けさせることが必要である。  
 双極性障害の患者は多かれ少なかれ不眠を抱えている。このうちうつ状態での不眠は耐え難く辛く感じ、躁状態での多少の不眠は平気である。いずれにしても睡眠導入剤を使って適切な時間の睡眠をとることが必要となる。

<薬物療法>
 予防薬(抗躁薬)として炭酸リチウム、カルバマゼピン、バルプロ酸などがある。これらは躁状態を予防するだけでなく、うつ状態もある程度予防することが知られており感情調整剤(Mood Stabilizer)と呼ばれる。薬物療法で大切なことは、自分に合った感情調整剤を見つけて、有効血中濃度に常にそれを保つ(薬を飲みつづける)ということである。

・炭酸リチウム(商品名リーマス)
 双極性障害の最も一般的な治療予防薬であるが治療域と中毒域が近い為、血中濃度を定期的に測定する必要がある。一般的な副作用としては、手の指先の震えがあるほか、飲み始めの数週間極端な倦怠感が出るため服用を止める患者が少なくない。
・カルバマゼピン(CBZ)(商品名テグレトール)
 元々はてんかん、三叉神経痛の治療薬であり、精神科以外の医師でこれを双極性障害の治療予防薬として使うことを知っている人は少ない。しかし、治療予防効果は炭酸リチウムに勝るものがあり、現状では双極性障害の第一選択薬となっている。一般的な副作用としては、飲み始めの二週間程度の間、強い眠気がくるので患者はこれに耐えなければならない。また、医師も少量から投与し血中濃度を測定しながら除々に投与量を増やす必要がある。炭酸リチウムと同様定期的に血中濃度を測定する。
・バルプロ酸(VPA)(商品名デパケン)
 これも元々はてんかんの治療薬であるが、カルバマゼピンに反応しない例に処方される。

 最近ではSSRIやSNRIなど新しいタイプの薬が出てきて、マスコミ等で副作用の極めて少ない薬であるように報じられているが、それなりの副作用はあり過大な期待は禁物である。また、症例によっては従来のSRI「Serotonin Reuptake Inhibitors:セロトニン再取り込み阻害剤」(三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬)の方が優れていることもある。
 抗うつ薬の一般的な副作用は、口の渇きとそれに伴う多飲・多尿、便秘、排尿困難、発疹などである。このうち排尿困難(膀胱がいっぱいになっても尿が出ない状態)と発疹(かゆみ)が出たらすぐ医師に報告し、薬を中断してもらう。便秘は何もせずに放置すると痔になって辛い思いをするので、下剤(プルゼニド、ヨーデル等)を処方してもらうとよい。口の渇きは仕方のない面があるが、口が渇くからといってカロリーのある飲み物を飲むと肥満の原因になる。口をすすぐとか、ミネラルウオーター等を飲むとよい。

抗うつ薬の作用はすぐに出るものではなく、飲み始めてから2〜3週間後と考えておいたほうがよい。これに対して上記のような副作用は飲み始め1〜2日後には出てくる。先に述べた感情調整剤と同様抗うつ薬も飲み続けることによって効果を発揮する薬であるということを、患者は頭に入れておくべきである。



<医師のかかりかた>
 必ず精神科の医師にかかること。内科や他科で薬だけもらおうとしないこと。内科を含めて他科の医師のほとんどは双極性障害の治療の専門のトレーニングをうけておらず、かえって治療を難しくしてしまうこともある。
自分の人生の全てを語ろうとする患者がいるが、医師は患者の行動すべてを見ているわけにはいかない。患者や家族は今自分の困っている症状について話し、それに対して医師は薬を出しアドバイスをするが、薬を含めて行動を管理するのは患者自身である。
 職場の診療所に精神科医がいる場合はその医師にかかるとよい。場合によっては出世コースをはずれたり閑職に配置転換になることもあるが、会社を辞めたり、くさってはいけない。大切なことは病気を治すこと、さらに再発せずに社会生活に適応することであり、出世ではない。職場は病気を治すために負荷の少ないポジションを用意してくれていると前向きに考えるとよい。
 自分で医師を見つけなければいけない人は、まず通いやすいということを考えるとよい。双極性障害の薬は一生飲み続けなければならないことが多く、続かなければ意味がないからである。
『この医者合わないな』と思いながら精神科医にかかり続けるのはよくない。これは他の科にも言えるが、精神科の場合特に医師と患者との間に信頼関係がなければ何をやっても無駄だからである。



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