うつ病(大うつ病・単極型障害)



 うつ病は決してめずらしい病気ではありません。むしろ、よくある病気と考えたほうがよいでしょう。なかでも多いのは、軽症のうつ病で、うつ症状が軽く身体症状が強いために、患者さんは一般の臨床科を訪れることになります。しかし、そこでいろいろな検査をして「異常なし」ですまされてしまうことが多いので、うつ病が見逃されてしまうことが少なくありません。


<症状> 
 うつ病の症状は、基本的に[1]うつ気分、[2]生命活力の減退による意欲・行動の障害、[3]悲観的な思考障害、[4]種々の身体症状の4つの症状群に分けることができます。また、その他の特徴として日内変動、季節変動が知られています。

1)うつ気分
 うつ気分は、誰でも愛する者と別れたり、大切なものを失ったりした時には感じるものですが、[1]はっきりとした原因がなく、[2]深いうつに陥ってなかなか抜けだせないことが病的なうつ状態とされています。うつ気分には、憂うつ感、悲哀感、興味や喜びの感情の喪失などがあります。

2)意欲・行動の障害
 何をするにもおっくう、意欲の低下、集中力の低下、決断力の低下、性欲の低下、行動の遅滞など生命エネルギーの減退による意欲・行動の障害が現れます。

3)思考障害
 考えが進まない、まとまらないなどの思考の抑制や自分、社会、将来に対しての悲観的な考え方が多くなります。

4)身体症状
 よくみられる身体症状としては、全身倦怠感、食欲不振、不眠、頭痛、肩こり、めまい感、性欲減退、聴覚過敏(耳鳴り)、口渇(こうかつ)、胸部圧迫感、心窩(しんか)部(みぞおち)不快感、吐きけ、腹痛、便通異常、腰痛、手足のしびれなどが現れます。

5)日内変動、季節変動
 うつ病では、しばしば朝方調子が悪く、夕方には元気がでてくるという日内変動を示すことがあります。また、うつ病には周期性変動のあることが知られており、1年〜数年の周期で反復したり、季節的に春と秋に悪くなるケースが多いとされています。また、明らかな「躁」と「うつ」の周期を繰り返すものは「躁うつ病」と呼ばれています。


<診断>  
 米国精神医学会の診断マニュアル(DSM-IV)によれば、大うつ病エピソードとは、[1]抑うつ気分、[2]興味、喜びの著しい減退、[3]体重減少あるいは増加、食欲の減退または増加、[4]不眠または睡眠過多、[5]精神運動性の焦燥(しょうそう)または制止、[6]易疲労性、または気力の減退、[7]無価値観、罪責感、[8]思考力や集中力の減退、[9]死についての反復思考、自殺念慮、自殺企図の症状のうち5つ以上が2週間続く場合としています。なかでも、精神症状として多いのは、抑うつ気分、興味の喪失、意欲の低下の3つ、身体症状として多いのは、睡眠障害、疲れやすさ、食欲不振の3つです。これに加えて、先に述べた日内変動や病前性格の有無が参考になります。


<発症率>
 うつ病の有病率は日本では人口の5.6%といわれています。これは諸外国の12〜17%と比べるとかなり低い値となっています。性差については、単極型は男女比1対2に対し、双極型は1対1となっています。

<うつ状態の過ごし方>
 うつ状態は患者本人に病識があるだけに非常に辛く感じられ、場合によっては頭痛がひどくなったり、食事も食べられなくなったり、寝たきりの状態になってしまうこともある。この時期をどううまく過ごすかが、病気の予後に大きな影響を与える。
 まず、抗うつ薬を処方してもらう。最近ではSSRIやSNRIが第一選択薬になるケースが多いが、ここで気をつけなければならないのは、まず副作用の方が、作用より先に出ることである。抗うつ薬の項に述べたように効果が出てくるのは人によって差はあるものの2〜3週間後であり、それまでの間、軽妙な副作用(例えば口の渇きなど)は我慢することが必要である(もちろん重大な副作用については医師にすぐ報告する)。
深くものごとを考えてはいけない。うつ状態になるとあらゆることがもの悲しく感じられ、過去の行動が後悔となって思い出され、ああしておければよかった、こうしておければよかったと思うがこれは病気の症状のひとつであり、そのことを深く考えてはならない。考えれば考えるほど患者はうつの蟻地獄から抜け出せなくなってしまう。うつ状態の時は努めて物事を深く考えず出来ればボーッとしているのがよい。
 別の言い方をすれば、うつ状態とは脳内の神経伝達物質の伝達不調により、脳の情報処理能力が落ちている状態といえる。このような時に物事を深く考えたり、新しい情報を取り込もうとしても、かえって回復を遅らせるだけである。うつ期には、適切な時間の睡眠をとる、脳と体を休ませる、深く物事を考えない、新しいことには無理をして取り組もうとしない、そのための手段の一つとしてボーッとしているのがよい。
抗うつ薬によりうつの症状がすっきりとれる場合もあるがそうでない場合もある。薬の効き方は人により大きく差があるからである。効果が低いと医師が判断した場合は薬を増量するかそれでも効果がなければ、抗うつ薬の種類を変更することになる。
 この間の作業は場合によっては数ヶ月かかることもあり患者にとってはとても辛いことであるが、自暴自棄になってはいけない。現在よく使われる十数種類の抗うつ薬の中からすぐに自分に適したものが見つかるとは限らないが必ず見つかると信じることである。また、先にも述べたように抗うつ薬はのみ続けることによって効果を発揮する薬であり除々に効果が上がってくるものである。




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