事例問題1解答
〔事 例〕
A子(27歳、既婚)は,大学を卒業して22歳の時に化粧品の販売会社に正社員として就職した。就職当初は、なかなか仕事が覚えられず苦労したこともあったが、少しずつ仕事にも慣れていった。
3年ほどは順調に仕事をこなしていたが、その後、先輩との折り合いが悪くなり、夜眠れない、胃が痛いなど体調を崩すようになってしまった。そのため、上司の勧めもあり、精神科を初めて受診した。診察の結果、うつ病という診断を受け、医師から休職をすすめられため、診断書を会社に提出し、3ヶ月間休職することになった。休職中には会社から標準報酬日額の30%が支払われた。しかし、休職中の生活の不安もあり、新人のBケースワーカーに金銭面の相談をした。(問題1)(問題2)。
休職後、体調もよくなったため仕事に復帰した。仕事に復帰してからも、通院を続け服薬もきちんと行なっていた。しかし、仕事に復帰してから2年くらい経過した頃に、再び体調が悪化。なかなか朝も布団から出ることが出来ず、夜眠れない日が続くようになった。そして、母に対して、「死にたい」「生きていても意味がない」と話すようになり、手首を切るなどの自殺未遂を行なったため、心配した母親はA子とA子の夫と3人で医師の元へ行くことにした。精神保健指定医の診察の結果、自殺の危険性があり、本人が入院を拒んだたが、精神保健福祉法に則り、夫の同意により入院となった(問題3)。
入院中に、本人が「周りに迷惑を掛けたくないので、仕事は辞める」「夫とは別れたほうが夫のためになる」と言い出したため、本人と夫、母、Bケースワーカーで今後のことについて話し合うことにした(問題4)。
問題1 A子さんがこの時、受けることの出来る制度として、正しいものの組み合わせを選べ。
1 傷病手当金 ― 健康保険制度 ― 標準報酬日額の60%
2 傷病手当金 ― 健康保険制度 ― 標準報酬日額の30%
3 傷病手当金 ― 厚生年金制度 ― 標準報酬日額の60%
4 休業補償 ― 労災保険制度 ― 標準報酬日額の60%
5 休業補償 ― 労災保険制度 ― 標準報酬日額の30%
<解答:2>
傷病手当金の請求には、医師の診断書が必要となります。また、国民年金に加入の方には傷病手当金の制度はありません(一部、国保組合を除く)。支給額は、標準報酬日額の60%となっており、このケースでは会社より30%の給与支給を受けているため、傷病手当金からは30%しか支給されません。尚、共済組合では65〜80%の支給となっており、もし念のために押さえて置きたいという人は、社会保障便利辞典(法研:1575円)で確認しましょう。
なお、休業補償は労災保険適用外の従業員が業務上の傷病の療養のために働けず、賃金が受けられないときに適用されます。通常の労災保険適用の場合には休業(保障)給付となります。
問題2 A子さんはこの後、定期的に通院することになるが、現時点で利用可能な制度はどれか。正しい組み合わせのものを選べ。
A 精神障害者保健福祉手帳
B 生活保護
C 自立支援医療
D 障害年金
1 ○ ○ ○ ○
2 ○ × ○ ×
3 × ○ × ○
4 ○ × ○ ○
5 × × ○ ×
<解答:5>
精神障害者保健福祉手帳の取得には、初診から6ヶ月経過することが条件となります。また、障害年金は、初診から1年6ヶ月経過(障害認定日)が申請条件です。
A子さんの場合、現時点で生活保護の申請はなかなか難しいと考えられます。
定期的に通院する必要がある以上、自己負担1割及び自己負担の上限額が定められている自立支援医療(精神通院医療)の申請することが望ましいでしょう。
問題3 今回のケースで最も適当と考えられる入院形態は次のうちどれか。
1.措置入院
2.応急入院
3.医療保護入院
4.緊急措置入院
5.同意入院
<解答:3>
精神保健指定医の診察の結果、自殺の危険性があり、本人が入院を拒んだたが、夫の同意により入院となったことから医療保護入院(精神保健福祉法33条1項)が成立します。入院形態に関しては精神保健福祉法などで、一度確認してみてください。
尚、同意入院はあたかも本人の同意による入院のような表現なので、S62年の精神保健法により医療保護入院になりました。
問題4 Bケースワーカーの対応として、正しいものに○、誤っているものに×をつけた場合、適切な組み合わせはどれか。
A Bケースワーカーからみてもう仕事に復帰するのは難しいので、退職した方がよいと助言する。
B 夫は、A子との離婚は考えていないが、A子が離婚をしたほうが良いと考えている以上、BケースワーカーはB子の側に立ち、夫を説得する必要がある。
C Bケースワーカーは新人で経験が浅いため、その場で即答はせず、次回面接時までに上司に相談する。
D A子の現在の状況では、話にならないと判断し、後日、夫、母と面接する機会を設け、A子の同意無しでことを進める。
1 ○ × ○ ○
2 ○ × × ×
3 × ○ × ×
4 × ○ ○ ○
5 × × ○ ×
<解答:5>
退職や離婚など、人生の中で大きな選択となる事に関しては、極力判断能力の低下している状態では、選択は先延ばしにしたほうがよいでしょう。
あくまで自己決定が原則となりますので、本人の同意無しにことを進めるのは好ましくありません。また、ケースワーカーは患者、家族の中立の立場に立ち、最終的な結論は家族にしてもらう必要があります。
Bケースワーカーは経験も浅いことから上司に相談するなど、スーパーバイザーの活用することは必要不可欠です。