shakai

傍　証　　　ADDの生きやすい社会

ADD者が一般社会で生きて行くのはかなり難しい。別にADD者ばかりが生き難いのではなく、要するに風変わりな人間がこの社会では住み難いのだ。それは別に理解できない事ではない。人間は社会的動物で、集団生活をしなければ生きて行けない動物だ。従って、普通は、家庭という小さな集団から、会社、学校、趣味の仲間、地域など色々な集団を作る。大きくは国家という共同体を作り、その中で生きて行く。その中のメンバーであるためには、属している共同体の利益のために働き、共同体のルールを守ることを要求される。

極めて当たり前のことと言えるが、そのルールは全てが条文化され全員に周知されているわけではない。多くは常識とかマナーという形で存在するので、その共同体に新しく加わるメンバーはその常識、マナーを学ばなくてはならない。だが、人にはそれぞれ個性がある。個性によってはその共同体のルールにどうしても当手はまることの出来ない場合がある。その一番大きな原因は、思考形式の違いにあるのではないだろうか。

どの共同体でも概ねそうだが、日本文化では異色である事だけで生きにくくなる。とにかく横並びが求められ、何か新しい事を思いついたとしても周りの賛同を得なければそのアイデアの良し悪しさえ検討してもらえない。つまり、最初から受け入れられない。この、周りに賛同を得て、という作業がADD者にとっては難しい。自分の欲望を抑えて周りに受け入れられる事を優先するという作業が難しい。

どこの社会でも基本的には同じだろうが、日本は少し特殊な事情があり、私たちは日本に住んでいるのだから日本の特殊性を考慮に入れながら話を進める。これだけの人口、およそ１億２千万人も居ながら、ほぼ単一民族、単一言語、単一文化、単一宗教（仏教や神道をベースにした無宗教），均一な教育、貧富の差が少ないなどの国は世界でも例がない。これだけ均一化されていると、国民の考え方や価値観も大体均一化されて当然だ。むろん、がりがりの宗教国家、独裁国家などは例外だが、どっちみち規模は小さい。となると、なにしろ突出したアイデアを排除する傾向がある。また突出したエリートが出にくいから、科学者でもノーベル賞クラスなど大抵はアメリカ育ちだ。

国民が均一だという事にはむろん大きなメリットがある。順調なときはいかなる他国も及ばないような効率を上げる。目標がはっきりしているので、それに従ってさえいれば、安全に守られる。思考形式が均一なので誤解から起きる争いが少ない。他との協調が重要視される社会では、他人の目が重要な行動上の基準となり、結果犯罪が少なくなる。言うまでもないことだが、戦後廃墟と化した日本が半世紀の間に世界のトップクラスの工業国になり金満国家になるなど誰も予想しなかったが、実はなるべくしてなったと言えるのではないか。

だが、一度日本のような均一国家が袋小路に入り込んでしまうと、ひどい場合は自滅さえしかねない。なぜ日本が戦争に突っ走ったのか、戦争中の日本国民はどうだったか、国家の方向を訂正することは誰にも出来なかったのかを考えれば分かる。日本の戦争が必然だったとかそうではなかったという議論はここではしない。が、戦時中、そして戦後日本の国民としての意識がまったく均一化されていたことは事実であり、そのゆえに不要な破滅を招いてしまった事は事実だろう。

いま、日本は底なしの不景気に陥って、また日本人自身が自国に対する自信を失っている。ここでもまた、袋小路に入り込んでしまい、なかなか抜け出せないで居るのだが、これも均一性の為ではないのか。アメリカも、かつて自信を失い、国家の存続さえ危ういとまで言われていたのに、それがこの日本が転げ落ちて行くまさにすれ違いに景気が回復し、長期の好景気を招いた。かつての袋小路に入り込んだときに、アメリカにはいくつもの選択肢を取ることが出来、そして実行して袋小路から抜け出したのだ。アメリカが広い国土や豊富な天然資源を持っていることを別にしてもやはり唯一のスーパーパワーであり続ける理由はそこにある。アメリカ以上の国土、天然資源、人口を有する国はいくつもある。つまり、アメリカの多様性、雑多性が今のアメリカの存在理由なのだ。

今までもアメリカは幾多の問題を抱えてきたし、今後も抱え続けるだろう。アメリカのわがまま、主張が他国の眉をひそめさせることは今後もあるだろうが、アメリカが世界唯一の超大国であり続ける時代はしばらく続くのではないか。結局アメリカの多様性の故に、良きにつけ悪しきにつけアメリカ文化は世界の普遍文化になり、アメリカ自体がすでに世界の縮図になっているからだ。

日本の均一性も時に武器になる、が時に足かせになる。結局、日本の均一文化の中にも全く違う要素がもっと存在できれば、袋小路にはまりこんだときなど大きな力になるのではないか。ADDを初め、普通とは違う思考方法を採れる人間達は、そう考えると日本のような社会では宝なのではないだろうか。普段は確かに色々なもめ事を起こすかも知れない。取り扱いが難しいかも知れない。が、日本が多様性を持つ為にもっと大切にされても良いような気がする。

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