このたび、大阪維新の会より、大阪市条例案が提出されました。
本件は、大阪維新の会への批判ではありません。ただ、今回出された条例案が発達障害に関連しており、しかも、その内容が極めて問題が多いために、この条例の施行が実現した場合は極めて多くの被害者が出ると予想されます。今回は修正或いは撤回の見通しとなりましたが、問題は残っています。
まずこの条例案は下記の通りです。 大阪維新の会 大阪市議会議員団 平成24年5月 家庭教育支援条例 (案)より、一部抜粋 第4章 (発達障害、虐待等の予防・防止) (発達障害、虐待等の予防・防止の基本) 第15条 乳幼児期の愛着形成の不足が軽度発達障害またはそれに似た症状を誘発する大きな要因であると指摘され、また、それが虐待、非行、不登校、引きこもり等に深く関与していることに鑑み、その予防・防止をはかる (保護者、保育関係者等への情報提供、啓発) 第16条 予防、早期発見、早期支援の重要性について、保護者、保育関係者およびこれから親になる人にあらゆる機会を通じて情報提供し、啓発する (発達障害課の創設) 第17条 1項 発達障害の予防、改善のための施策は、保育・教育・福祉・医療等の部局間の垣根を廃して推進されなければならない 2項 前1項の目的達成のために、「発達障害課」を創設し、各部局が連携した「発達支援プロジェクト」を立ち上げる (伝統的子育ての推進) 第18条 わが国の伝統的子育てによって発達障害は予防、防止できるものであり、こうした子育ての知恵を学習する機会を親およびこれから親になる人に提供する (学際的プロジェクトの推進) 第19条 保育・教育・福祉・医療等にわたる、発達障害を予防、防止する学際的研究を支援するとともに、各現場での実践的な取り組みを支援し、また、その結果を公表することによって、いっそう有効な予防、防止策の確立を期す 第5章 (親の学び・親育ち支援体制の整備) (民間の、親の学び・親育ち支援ネットワークの構築推進) 第20条 親としての学び、親になるための学びの推進には社会総がかりの取り組みが必要なため、民間の、親の学び・親育ち支援ネットワークの構築を支援し、推進する (民間有資格者の育成に対する支援) 第21条 親としての学び、親になるための学びを支援、指導する「親学アドバイザー」など、民間有資格者等の育成を支援する (「親守詩」実行委員会の設立による意識啓発) 第22条 親と子がともに育つ実践の場として、また、家族の絆を深める場として、親守詩実行委員会を設立して発表会等の催しの開催を支援し、意識啓発をおこなう (家庭教育推進本部の設置と推進計画等の策定) 第23条 1項 首長直轄の部局として「家庭教育推進本部」を設置し、親としての学び、親になるための学び、発達障害の予防、防止に関する「家庭教育推進計画」を策定する 2項 「家庭教育推進計画」の実施、進捗状況については検証と公表をおこなう このサイトをごらんになる方であれば、発達障害がいかなる物かは説明の必要もないと思われるが、簡単にはwikiなどに発達障害として載っており、「先天的な要因で生じた障害」を言うとされています。つまり親の育て方や愛情の欠如は一切発達障害の原因ではなく、発達障害は現在の医学では予防も防止も治療も出来ないことが明らかになっております。可能なのは、早期発見とカウンセリングやリハビリ、必要に応じての投薬などの処置で生活を改善することだけであって、治せる物ではありません。 ここに問題が幾つかありますが、まずこの条例案が作成されている前提が全くの間違いであり、発達障害が親への教育で予防、防止出来るとしていることです。再度確認しますが、発達障害は予防も防止も治療も出来ません。出来るのは、発見、リハビリによる生活改善です。 ただし、すべての子供の問題行動が発達障害による物では当然無く、この条例でも指摘しているように、親の未熟な子育てや愛情の欠如が原因の場合も多くあるでしょう。問題は、一般人には発達障害と、親の問題による原因との区別が付かず、従来本人もそれに気がつかないため、発達障害であることで怠け者や変わり者とのレッテルを貼られ、親も言われ無き非難を浴びせられていたのが現状です。 しかし、親の子育ての問題による子供の行動傷害と、発達障害は全くの別物であり、この条例案ではそれを全く区別していないことが問題なのです。むろん、日本の伝統的子育てで発達障害が予防も防止も出来るはずもなく、日本の子育てが為されていた時代にも発達障害は存在し、そして怠け者などの非難を浴びて親共々苦しめられていました。 日本の伝統的子育て発達障害が予防出来る、防止出来ると主張しているのは、「親学推進協会」という団体を主催している高橋史朗氏であり、本条例には明らかに高橋氏の主張が盛り込まれています。しかし、高橋氏の主張は、世界中の医学者が否定している、全く事実誤認に基づいた物であり、この条例が施行されると、ますます当事者や親が追いつめられ傷つけられることになります。 上記にある親学アドバイザーなる資格は 高橋史朗氏のやっている「親学推進協会」が認定している資格であり、本条例案は私的団体である高橋氏の売り込みをそのまま鵜呑みにした結果と考えられます。また、この親学アドバイザー資格を得るためには、3万円弱の費用がかかります。 親学推進協会 喩えこの費用を大阪市が補助しようと、私的団体の事業に公共が肩入れしていることになり、それはまさしく大きな問題ではないでしょうか。この資格自体が全く医学的根拠を欠く論理に基づいた物であって、いわばカルト宗教のお布施強要に均しいと思えます。 発達障害のなんたるかを知らず、苦しんでいる親御さんが藁をもつかむ思いでこの資格を大金をはたいて取り、結局効果がなかった場合なおさら苦しみがますだけのこと。 それでもカルト宗教のように、信心が足りないからだ、と大阪市は言うつもりでしょうか。 維新の会の批判はしませんが、本条例については、私達も看過出来ません。出来るだけ多くの方々に伝えていただきたく、また大阪市や他の自治体に、今後の再発を防止すべく、更に、真に医学的根拠に基づいた発達障害支援策、即ち、2,3才での全員の発達障害診断、疑いがある場合は1年後などでの再診断で結論を出し、必要な専門知識を持った医師やカウンセラーによる親への知識普及と、正しいリハビリの方法などの指導、支援体制を条例に含めるべく働きかけたいと思います。むろん、親の子育て自体の問題も、積極的に指導改善すること自体は推進すべきです。 地方自治体の条例が、まったく科学的根拠を欠き、また明らかに私的団体との癒着を思わせる詐欺商法を助長するような物が案とはいえ、公表されることに大きな危惧を抱く物です。事は大阪という一自治体のみならず、日本中の自治体に起こりうることです。 今後のためにも各自治体には子育て支援関連の条例を作るにしても、専門家の意見を十分に聞き、科学的な根拠に基づいた条例を作成されるよう、強く望む物です。 その後の報道に依りますと、大阪維新の会は提出していた上記条例案を撤回したとのこと。担当者の言葉として「全くの白紙に戻して考える。専門家の話を聞いてから、提出するかどうかも含めて決める」と述べ、提出取りやめの可能性も示唆。「(市民団体から)いただいた意見を大事にしなければならない。その一点に尽きる」とのことです。 しかし、これで一件落着したわけではなく、根本的に三つの問題が残されています。 1)何故このような件が条例案に盛り込まれる以前に専門家の意見、そして当事者の意見を採り入れる過程を経ていないのか。つまりは、政治家が全くの思いこみと、弱者への思いやりとの見せかけだけを目的に条例案を作ったとしか思えない。そうでないなら、まず、実態を確認し、当事者の声を聞き、更に専門家の声を聞く作業が必要不可欠であり、その姿勢が改まらない限り、今後も起こりうる。特に人気取りに目的を置く為政者の場合はその傾向が強いので、今後も十分に監視をしなければならない。 2)高橋史朗氏という一個人の、全く科学的根拠に反する主張を裏付けとし、特定の私的団体の利益誘導をこのような形で、いわば発達障害の当事者や家族を食い物とする形で地方自治体が条例案を作るなど、前代未聞のスキャンダルではないのか。今後このような、自治体と癒着する似非専門家の出現が懸念される。 3)当初この条例案を作った本人とされる大阪市議は大阪で薬局を自営する薬剤師である。薬剤師であるならば、発達障害者の多くが投薬を受け、その薬は厳重に管理されていて居医師の処方箋がなければ受け取ることが出来ない。薬剤師であれば、それらの薬の目的を十分に理解しているはずで、発達障害が先天性であり、家庭教育や日本の伝統式子育てで予防も防止も出来ないこと知っていたはず。もしこの人物が責任を押しつけられたのでなければ、薬剤師でありながら発達障害者に投与される薬のことも知らなかったということか。それはそれで、また別の大きな問題であると考えられる。 今後も起き得ることとして、喩え条例案が撤回されてもこの緊急提案は続けて掲示するものと致します。 平成24年05月06日 提案 平成24年05月09日 修正 WingBrain委員会 |
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