小説 「お告げ」


小説 「お告げ」

ある日、飯田周三に神の託宣が下った。それは仕事から変えてきた飯田周三がボロアパートのくたびれた畳に寝そべり、つまらないバラエティー番組を観ていたときだ。司会の神田島助が馬鹿な事を言いゲストのお笑い芸人達がお追従笑いをし、つられて飯田がげらげら笑ったら
「なんだ、こんなのが面白いのか」
「まあな、他にろくな番組をやってないし・・・」
答えてから、飯田はびっくりして起きあがり辺りをきょろきょろ見回した。今の声は誰だろうと思ったのだ。この狭い部屋の中には自分だけだ。勿論誰も居ない。

 空耳だったかとまた寝そべった飯田に、また声が言った。
「シカトするなよ。俺はお前に話しかけているんだ」
「誰だ、何処にいる」
飛び起きた飯田は押入をあけてみたり座卓の下を覗いたがむろん誰も居ない。そしてハタと気が付いた。その声は自分の頭の中で聞こえたのだ。

 「テレパシー・・・か?」
「ちゃうちゃう、外から話しているんじゃなくて、俺はお前の中にいる」
「多重人格と言うことか」
「それも違う。お前の中にいるが全くお前とは別の存在だよ。俺は宇宙の全ての中にいるんだ。人間達は俺の事を神と呼んでるな」
「神様だぁ?俺はキリスト教徒でもイスラム教徒でも仏教徒でもないぞ」
「お前の信仰などどうでも良いし、俺は人間が勝手に神様と呼んでいるだけで、勝手に作り上げた宗教を俺と結びつけているだけだ。お前も便宜上、俺を神様と呼んで良いぞ」
「ふざけんなよ。神様なら奇跡の一つも起こせるだろう。やって見ろよ」
「まあな、言葉だけじゃ信じられないから、奇跡なんかがもてはやされる。信ずるべきは奇跡なんかじゃないんだが。ほらよ」

 その瞬間、飯田が観ていた十四インチの古ぼけたテレビが最新型のハイビジョン六十インチプラズマディスプレーモデルに変わり、映っていたオニオコゼのようなお笑い女芸人が飯田も大フアンの美人女優に変わった。ただし、言っている事はお下劣な下ネタだった。
「ええ、俺もこのテレビ欲しかったんだ。くれるのか?」
「だめ」
その一言と同時に、テレビも女芸人も元に戻った。
「努力をしないで欲しい物が手に入ったら人間堕落する。努力をしろ、そうして手に入れろ」

 一度最新鋭のテレビが目の前に現れると元に戻ったテレビがとんでもなくみすぼらしく見える。飯田は夢中で叫んだ。
「一体、俺に何をさせるつもりなんだ。俺に出来る事なら努力するよ」
「でかい声出すな。考えるだけで俺には聞こえる。簡単な事だ。お前はこの世界を救うんだ」
「へ?世界を・・・救う?」
「そうだ、簡単だろう。考えてもみろ。犯罪は蔓延し、環境は悪化し、世界のどこかで何時も戦争がある。数億人が餓死しかけているし、親を殺されて自分も死にかけている大勢の子供が居る。俺は哀しいよ」
飯田の両眼から大粒の涙がこぼれ落ちたが、飯田自身は哀しくも何ともない・
「勝手に泣くなよ。そりゃ、俺だって人が不幸になっているのを同情はするが、俺自身が不幸なんだぜ。世界を救うなんて、それより俺自身が何とかならなくちゃ」
「馬鹿もん!」
いきなり頭に衝撃を感じ、触ってみると見る見るコブが出来てくる。

 「世界を救うなんて簡単だ。お前には誰が悪い奴で誰が良い奴か分かるようになるから悪い奴をその悪さに従って処罰する。大量に殺した奴は事故か病気で殺せばいいし、立ちションベンを繰り返すくらいの奴は、一回おねしょをさせればいいだろう」
「そんな事、自分でやればいいじゃないか。なんで、よりによって俺にそれをやらせるんだ。自分一人で出来なかったらお前の力で何人でも同じ事をさせればいいじゃないか」
「一人でやる必要があるんだよ。大勢でやると、どうしても判断の違いが出てきて、ある奴がいいやつか悪いやつかの見解の違いから喧嘩になる。そりゃ酷いもんだ。みんなが強大な力を持っているんだぜ、それが喧嘩をしてみろ、大変な事になる。第一次大戦も第二次大戦もそれで起きたんだ。おれは考えた。一人に全部任せてみようってな」
「あの戦争は、お前のせいだったのか」
「間違いは誰にでもあるって。神が万能なのは本当だが、絶対に正しいなんてのは幻想だよ。事の善悪ってぇのは神が決めるんじゃない。人間が決めるんだ。だから、一番平凡で無能なお前がしばらく神になるんだ。次のが出てくるまでだよ」
「次って、誰だ。何時出てくる?」
「日本じゃ弥勒菩薩って呼ばれてる。あと五十六億七千万年経ったらお前と交代するよ」

 「待てよ、そんなに長くやってられるか・・・」
しかし何の答えも無かった。かくして、飯田は最新鋭のテレビは手に入れたが、結局欲しい物が何でも簡単に手にはいる事にすぐ飽きて、結局は神様業に励むしかなくなった。まだ交代まで五十六億六千九百九十九万九千九百九十九年ある。世界が滅びるまであと十年を切っていた。


by ロクスケ
 


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