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クメールの微笑みにふれて

カンボジア、アンコールワットの旅

                                         2000.1

 **さんへ
 
母と「バンコク・アンコールワットを訪ねる5日間」の旅に行ってきました。そ
の間夫はニューヨーク出張中。留守宅の心配をすることもなく出発できまし
た。
母は初めてのインドシナ。カンボジアに直行するのが心配だったので、バン
コクの観光を半日入れました。2人からの催行で2人だけのツアー。
念のためと思ってカンボジアの情報を取り寄せる度、危険度1とか渡航延
期勧告地域などと怖い話ばかり目にし、自分だけならどうでも良いけれど
万が一のことがあったらどうしよう、と胃が痛くなりました。「銃撃されて日本
人観光客*傷」なんていう記事が脳裏に浮かんだりして・・。
終わってみると、とても印象に残る良い旅でした。感激のおすそ分けをさせ
て下さい!

バンコクの現地ガイドにさよならをして、トランジットエリアにくると、20数人
が搭乗を待っていました。日本人は私達だけ、後は欧米人のシニアなカッ
プルです。カジュアルで旅なれた感じのする素敵な大人の人たちと一緒に
なって、「カンボジアではきっと良いことがある・・」という予感がしました。よ
し、がんばるぞ〜(って何を?)

約1時間のフライトで、シェムレアップに到着。実は1年前にバンコクやベト
ナムから直行便が飛ぶようになったばかり。プノンペンを経由しなくてもアン
コールの遺跡を観ることが可能になったわけで、このことによって観光客が
飛躍的に増えているそうです。不夜城の如きバンコクの喧騒と排気ガスを
のがれて、眼下に広広と広がる樹林や平地を目にしたらわくわくしてきまし
た。出迎えにきた現地ガイドの林さん(男性)は、在カンボジア10年のベテ
ラン。私が知り合いの誰かに似ているそうで、よく聞いてみたら小さい頃ヴァ
イオリンを習っていたそうです。いやぁ、楽器つながりでしたか・・ (^。^)

ホテルは地元の高級クラス、アメニティグッズも揃っているしきれいで不自
由はありません。スリッパの代わりに何故か厚底のゴムぞうりが置いてあり
ました。荷物を運んでくれたボーイさんのはにかんだ笑顔がとても素敵
で、、帰りに一緒に写真を撮ろうと思ったのに、帰国の日は非番でがっかり
しました。ほんとに皆(犬や猫まで)人なつこいのです。プノンペンなどの都
市部になるとまた違うらしいのですが、シェムレアップのあたりは、まだ素朴
な雰囲気が残っています。

撮った写真を見ていたら、何気なく写した子供達の写真が思った以上に良く
て、お気に入りの1枚になりました。アジアの子供ばかり撮っているカメラマ
ンがいるそうです。うん、わかるわかる!
国道6号沿いにたくさんのホテルやゲストハウス、レストランが並んでいま
す。ゲストハウスもなかなか使えそうで、思わずお泊まりが似合いそうな知
り合いの顔を思い浮かべました。

アンコールのあるシェムレアップの町はそんなに大きくありません。今はホ
テルの建設ラッシュで直行便も来るようになって、人々の表情は明るくなっ
てきています。カンボジア人が自ら遺跡の観光に来ていることでも分かると
おり、復興の槌音は高く、もう4〜5年したらすごく変わると思います。
カンボジア人は遺跡に無料で入れますが、私達は3日間有効のフリーパス
を$40で買いました。セダンやワゴン車で遺跡めぐりをしているのは大体
日本人で、若い層の欧米人はバイクタクシーに乗って回っています。こうい
うチープさは好きですが、道路にもうもうと舞い立つ埃をぶっかけられるの
はちょっと勘弁。近場の遺跡はまだしも、郊外のバンテアイ・スレイあたりに
行くときは覚悟したほうが良いでしょう。

着いた晩は、カンボジア料理。
おおざっぱにいうと薄味の中華風炒め物でご飯を食べる感じです。私達は
皿数も多く、スープやアンコールビールなども飲みましたが、一般の人はす
ごく質素で、ご飯は一人ずつにつけるけど、おかずは1種類だけを真中に
おいて皆でとって食べるだけだそうです。タイ料理ほど辛くなく、中華料理ほ
どこってりしていなくて非常に日本人の口に合います。
意外に侮れないのがパン。フランス人仕込みだけあっておいし〜い。
朝などは、おかゆを食べた上にさらにまたパンを食べてしまい、菜食中心
の粗食でダイエットしようと思っていたのにかえって太ってしまいました。

翌日は、4:30モーニングコールでアンコールワットの日の出鑑賞に行きま
した。まだ、真っ暗なのにどこからともなく人がやってきます。勝手に盛り上
がっているのはやはり(?)陽気なアメリカ人達で、暗がりの中でカメラのフ
ラッシュが光ったりするたびに「イェ〜イ!」などと歓声をあげていました。
アンコールワットは、時間・季節などによって様様に表情を変えるので、本
当に見ていて飽きません。すばらしい夜明けを迎えた後、日中の暑さを思
いやりながら最初の観光地アンコール・トム(バイヨン寺院など)に行きまし
た。ここは四面仏で知られています。約50ある仏の写真をひとつひとつ、目
線の高さに木組みを組んで写真に撮っている日本人カメラマンがテレビで
紹介された所です。

私は、造形観が生身の人間に近いクメールの仏像や彫刻がすごく好きで
す。柔らか味や膨らみがあり、たおやかな中にも力強さがあります。昔テレ
ビで見た楼蘭の美女のミイラみたいに、生きていないのに息づいて見える
んです。施政者の権威を具現するために造られたものなのに、遺跡そのも
のの芸術的な表現力に魅了されます。鑿をいれた無名の人たちはどんな
気持ちで彫っていたのでしょうか。

午後はアンコールワット。ここは回廊を飾るレリーフでも有名です。
天国と地獄、叙事詩にまつわる戦いの場面のほか、日常生活を描いたもの
もあります。見事な中にもユーモラスな場面が・・・。たとえば、学校の授業
風景らしき場面では、何と一番後ろにいる人が机につっぷして居眠りしてい
ます。
厨房で盗み食いをした場面の隣に、その人が叱られている場面が描かれ
ています。絵巻みたいに鑑賞できるのです。このセンス!!
そして、忘れてはならないのがデヴァター像(女神)。

一方、見えないところは意外に未完成だったりします。
施政者が亡くなったり、建造目的の儀式がとりあえず行われてしまった後は
ほったらかし・・と言えなくもない。見えない細部に至るまで手を抜かない日
本人の感覚からすると、ちょっと勿体無いような気がします。
国民性の問題というより、単に造り手(=造らされた人)が「やらずに済むな
らそれに越したことは無い・・」と思っていただけかも?

高い回廊に腰をかけて、やさしい風に吹かれながら、いにしえの夢の名残
の気配に包まれて、周囲の樹林を日が陰るまで見るともなく眺めていられ
たら、どんなに幸せだろう・・と思いました。

アンコールの遺跡は崩れる一方だそうです。柔らかい砂岩を使ったりしてい
るので、部分的ではなく抜本的に直さないと消えてしまう運命にあります。
そうするには莫大な資金と、観光客をシャット・アウトする必要があり、カン
ボジア政府にはとてもその決断は出来ないだろうと、ガイドの林さんは言っ
ていました。
レリーフなどをガラス張りにすることはありえるそうで、見るなら本当に今の
内です。まだツアーがどっと訪れてはいないので、本当に興味のある人が
訪れているという意味でも今が一番良いとおもいます。

夕方は日没を見にバケン山に登りました。登山というほどではないけど、運
動不足がたたって結構たいへん。ここも人だかり。物売りも一杯。「オネーサ
ン、安いよ」
予想に反して、人がいなくて静まりかえっているという場所はありません。
危険を縫って密かに訪ねていくのかと思いきや、普通の観光地の情景とあ
まり変わりないのには最初、驚きました。

翌日は帰国する日です。午前を使って、アンドレ・マルローが盗掘して国外
に持ち出そうとして捕まった逸話で有名になったバンテアイ・スレイへ。
他の主要な遺跡が5〜6キロ四方に収まっているのに対して、ここは30キ
ロ離れています。少し前まで地元の運転手でも、警官を同乗させないと行く
のを嫌がった・・とガイドブックに書いてありました。
それが、平和になったことで1年前から解禁になったのです。私がカンボジ
ア行きを決めたのは、ここが見られるようになったからです。
途中の農村風景を楽しみながら、1時間ほどでたどり着くと、何のことはな
い普通の観光地でした。私達はここを、地元の旅行会社と直接交渉して日
程に入れたので、何かあったらツアーではなく自分達の責任扱いでした。結
構緊張したのに・・・!

ここは保存状態が格段に良くて、「東洋のモナリザ」と言われるデヴァター
像があります。400メートル四方のこじんまりした遺跡で、アンコールワット
などの巨大遺跡とはまた違った味わいがあります。完成度がものすごく高
いレリーフでした。
審美主義的な人間がひとりで発見したら、自分の物にしてしまいたいと思う
のは当然の成り行き、のようなところです。(ここも本か何かで見てね。)

発見者の気持ちをちょっぴり味わえたのは、タ・プロームという遺跡でした。
この遺跡は、あえて一切保存の手を加えないことになっていて、スポアンの
巨大な樹が成長によって遺跡に絡み付いて、石組みを押し倒している様子
に圧倒されます。そこかしこが瓦礫の山になっています。少し前は写真を撮
れたのに、今は崩れて近寄れない場所もたくさんあります。
ここは行った時間のせいか人がほとんどいなくて、修復もしていないので、
まるで自分達が最初に発見したような気分で見て回りました。
そう、自分だけのものにしたい!と思うような遺跡ばかりなのです。

午後、シェムレアップを後にしました。来たときは人が少なかったのに、帰り
は観光客がたくさん。見ると、大手旅行社のバッチをつけていました。これ
からはますます増えそうだと実感。帰国して新聞をみたら、ずいぶん大きい
広告が載っていました。

カンボジアは結婚したら男性が女性の家に入るそうです。だから、男の子ば
かり持つと親はさびしくなります。結婚に関しては、花嫁の父親に決定権が
あるそうで、元気で働き者かが最大のポイント。一昔前の日本の農村です
ね。それに1対1でのデートは、即結婚を意味してしまうので、好きな人がい
たら、親友に加わってもらったり別の男女と一緒に会うグループ交際から始
めるそうです。この慣習もいつまで続くでしょうか。

カンボジアは未成年の人口が60パーセントだから、21世紀の国です。同じ
日に小淵首相がカンボジアに来ていました。国道には「歓迎小渕恵三閣
下・令夫人」の垂れ幕がかかり、シルクの日の丸が翻っていました。マラソ
ンの有森裕子さんが3年連続アンコールワット・チャリティーマラソンに訪れ
ているそうです。

バンコクでは帰国便がでるまで4時間もあったので、空港にあるフットマッサ
ージのお店に行きました。なんと45分で11ドルの激安。4つ並んだ椅子の
ひとつに座って目をつぶると、隣の若い女の子2人の話が聞こえてきまし
た。この2人、連れではなくてたまたま隣り合っただけのようで、"普段は派
遣でしのぎ、10ヶ月くらいラオスやミャンマーをうろうろしてきた・・"などと話
していました。う〜ん、若い人はすごい。

足も心も軽くなった私達は、深夜11:05発の飛行機で帰国の途に着いた
のでした。是非一度、アンコールワットを訪れてみてください。いつでも喜ん
でご一緒しま〜す!! ^^



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