メイン州の旅

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　２００８年８～９月

ロバート・マックロスキー（1914-2003）は「かもさんおとおり」で知られるアメ
リカの国民的絵本作家。ボストンのパブリック・ガーデンの片隅にある親子
鴨の銅像は、この作品を記念して作られたものだ。

現実に対し肯定的で明るくのびやかな作風は、今でも多くの人に愛されて
いる。

マックロスキーは、メイン州ぺノブスコット湾に浮かぶ小島を買って、夏場は
家族と共にそこで暮らした。「かもさんおとおり」（1941）に続いて２度目のコ
ールデコット賞を受賞した「すばらしいとき」や、「海べのあさ」、「サリーのこ
けももつみ」は島での生活を描いたものだ。

岩場の多い海岸、湾に点在する小島、すべてをなぎ倒す台風の一夜、小さ
なボートで出かける日用品の買出し・・・・絵本に描かれたメイン州の風景は
どれも私に忘れがたい印象を残した。

憧れの地を訪ねる機会は、２００８年の夏にやってきた。

私達が滞在したのは、美しい橋を渡って車で乗り入れられるDeer Isle。名の
通った観光地ではなく、アメリカのガイドブックにもほんの数行しか取り上げ
られないような島だ。それでもマックロスキーに因む場所が少しでも見つか
るかも知れないという期待が膨らんだ。

地図には無数の島の名前と一緒に、”Owned”と書かれた島がたくさんあ
る。ここでは、島を所有するのは突飛なことではないのだ。

湾をまわるパワーボート・クルーズで一組のファミリーと乗り合わせた。

小学生くらいの女の子二人とその両親。まるでジェーンとサリーをつれたマ
ックロスキー・ファミリーのようだった。おやつはスナック菓子などではなく、
バスケットに入れた葉っぱ付きのちっちゃい人参やヨーグルト。お母さんの
育て方が感じられて微笑ましい。

船長にプリントして持ってきた地図をみせて、マックロスキーが住んでいた
島が見えるか聞いてみた。すると「ここからは見えないけど、あっちのほうだ
よ。孫が以前うちで働いていたよ。」と答えたので、びっくり！

やりとりを聞いていたファミリーのお母さんも、「近くにバックス・ハーバーと
いうところがあるから行ってごらんなさい」と教えてくれた。

バックス・ハーバーは「海べのあさ」に出てくる地名だが、検索しても見つか
らなかったので実在するとは思っていなかったし、実名だとも思わなかった。
やっとのことで探し当てたバックスハーバーは、とても”ハーバー”とはいえ
ないような、ささやかな入り江だった。　が・・・・

絵本に描かれたそのままの風景が、目の前にあったから！

　　　　　　　　　　　　お父さんとサリー＆ジェーンが　ボートを桟橋に

　　　　　　　　　　　　　　　　　　寄せて坂道をあがっていく場面

　　　　　　　バックス・ハーバーの入り江　　　　　　　　　桟橋のある小屋

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（絵本では左下の小屋）

　　　　　　　　　　　　　絵本右頁に忠実に再現された建物　　　　　　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　↓　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　左からコンドンさんの雑貨店・教会、

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　通りを挟んでコンドンさんの弟が営む修理工場

　雑貨店は教会の隣ではなく裏手に移り　　　　　つぶれてしまったコンドンガレージ

　元あった場所は郵便局になっている打ち捨てられた設備が悲しい　

マックロスキーの絵本はただの写実ではなく、どの作品も家族や日常に対
する愛の結晶として描かれているので、永遠の輝きを失わない。

サリーがこけももを摘んだブルーベリー・ヒルも、ブルーヒルという名で実在
し、小高い丘にはブルーベリーがたくさん自生しているという。

一番の目的はメイン州の自然を肌で感じることで、資料片手に走りまわるよ
り、自分で見たこと・感じたことを大事にしたかったから・・・

それにもかかわらず、こんな素敵な風景に出会えた旅に、心から感謝！

後日何気なく手にとったフリーペーパーのコミュニティ・カレンダーには、