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願い事
今、シノン騎士団本部の食堂では飾り付けがなされている。
フェイの故郷、イズミルで行われている七夕祭りにちなんだものだ。
彼女が季節市場に買い物に行ったとき、
同郷の商人がナルヴィアでは珍しいイズミルの笹を売っており、
同郷のよしみで安くしてくれるというので、懐かしくなって買ってきたというのだ。
「こうやって飾り付けをして、短冊に願い事を書くんです。皆さんもどうですか?」
と言う彼女に従い、シノン騎士団の面々もそれぞれの願い事を書いて短冊を吊るしていく。
隊長であるウォードが、部下達の願い事はどんなものかと吊るされた短冊を見ると、
“ルミエールと仲直りしたい アデル”
“オルフェリアともっと親しくなりたい シロック”
“とにかく彼女が欲しい レオン”
と、そろって恋愛関係のものばかり。
「お主達は色恋沙汰にしか興味が無いのか! エルバート達を見習え!」
そう言って指差した先には、
“早く聖騎士になってリース様をお助けしたい エルバート”
“父上のような立派な騎士になりたい ルヴィ”
“打倒カオス フェイ”
“早く戦争が終わりますように クリス”
といった真面目な内容が並んでいた。
そんなウォードを、リースがなだめる。
「まあいいじゃないか、大切な人がいるというのはいいことだよ。
その人のために頑張ろうって気持ちになるしね」
公子に言われては仕方が無い、と、ウォードもしぶしぶ引き下がったのだった。
さて、エルバートは少し笹を分けてもらい、自室に飾っていた。
短冊も同様に付けており、それにはまた別の願い事が書かれている。
“クリスとの仲が今年こそ進展しますように エルバート”
彼の想い人は、アデル達とは違い同じ軍内にいるのだ。
本人もその父親も見ているというのに、公共の場所で堂々とそんな事を書ける訳が無い。
自室でこっそりと書く分には平気だろうが、
万一知られたら、隊長には、アデル達とは違った意味で目の敵にされるだろうな、
そう苦笑しつつ、長年の願いの成就を期待するエルバートであった。
[終]
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