1.怪しい評論家
それは比較的空いていて、待ち時間もほとんどなかった平日の皮膚科でのこと。
ゆったりと順番を待っている僕の耳に受付のお姉さんの声が聞こえてきた。
「あのねー、久しぶりだから薬だけは出せないんですよ。一度診察してもらってからでいいですか? 今日は空いているので5分も待ちませんから」
ふとそちらを見ると、年の頃なら70歳くらいの
爺が不満そうな顔をして立っていた。どうやら、半年くらい前に処方してもらったのと同じ薬が欲しいとやってきたらしい。ちょっと前ならともかく、それほど前では無理な話ではある。あれこれ抵抗していたが、諦めて待つことにしたようだ。それはそれでいい。いいのだけど・・・。
何を考えたのか、この爺。8つほどある3人掛けベンチの半分は誰も座っていなかったのに、
わざわざおばちゃんが座っているベンチに「どーっこらしょーっ」と腰掛けた。
こんなに空いているのになんで、人の隣に座るのかねー? 不気味に思っている僕のことなどお構いなし。爺は
座った途端、おばちゃんに話し掛けていた。
「ったく、イヤんなるよねー。
薬貰うだけなのに待たされるっちゅうのは」
どうやら話相手が欲しかったようだ。するとおばちゃん、優しい人のようで結構気軽に
「おや、まぁ、そうですかー。でも、今日は空いているので良かったじゃないですか」
と慰めてあげている。普通はそこで話は円満に終わるはず。例え終わらなくても当り障りのない話題になるはずだった。ところが・・・
「だいたいさー、
この病院の皮膚科はダメなんだよなー。他の科はいいんだけど、ここはどうも評判悪くていけないよー!」
素直に薬を貰えないことに腹を立てているらしく、結構デカイ声出して批判を始める爺。
オイオイ、そんなこと言って大丈夫なの? 聞いてるこっちが気になってくるのだが、隣のおばちゃんが反論しないのをいいことに爺の演説は終わらない。
「オラぁねー、このあたりの大病院の皮膚科はほとんど行ってて知ってるんだよ。そん中でも
ここは最低なとこでねー。病院のお荷物みたいな科らしいよー」
とんでもない話を大声で続ける。
受付のお姉さんは目が点になっているし、待っている僕らも耳が巨大なダンボになっている。そりゃそうだ、この先、爺がどんな問題発言をするのか、興味津々なのだから。恐いもの見たさ(聞きたさ)であった。
すると、話相手にされていたおばちゃん
「まぁまぁ、それだけたくさんの病院にかかられているなんてねー・・・」
と感心したふりをしながら、
「でしたら、
どの病院の皮膚科がイチバンいいんですか? 教えてくださいな」
すごいひと言が出た。
おぉ、それはオレも聞きたい! 待合室に居た誰もがそう思ったはずだ。すると、この爺、
一瞬、ひるんだような顔になり、5秒ほど沈黙のあと
「いやぁ、どこの病院も同じだよぉ!」
思わず、ズッコケそうになりました。(さっきまでの話とまるでちゃうやん!)