6.機関銃トーク
大病院の待合室というのは2つに分かれていることが多い。つまり、最初は広い待合室で待機。そして順番が近づくと診察室前の小さな待合室に移動というパターン。
ある日、血圧が上昇&頭痛で調子悪く、どんよりしながら内科の診察を待っていた僕は、やっと診察室前の待合室まで呼ばれ、ホッとしていた。あと少しで順番が回ってくる、そう思って・・・。
そこに現れたのが、
和服を着た婆ちゃんだった。それなりにしっかりした足取りだったものの、杖も突いている。当然、待合室に居た人たちは婆ちゃんが歩きやすいよう道を広く開け、皆が優しい気持ちになって空いている席を教えてあげていた。あぁ、美しきかな慈愛の精神。自分も辛いのに、みんなで助け合う。これぞ日本のあるべき姿。お年よりは大切にしなきゃねー・・・と、僕もとても優しい気持ちになり、婆ちゃんがちゃんと座れるか見守ってあげたのであった。すると
「ハイハイ、どうもお世話様ですねー」
といいつつ、どっかと腰を降ろした婆ちゃん。そしてふーっと、ため息をひとつ。と、まぁ、ここまでは普通の光景だったのだが・・・。
「いやー、ホントにまいっちゃうよねー。朝からここ(病院)に来てやっとここ(中待合室)までたどり着いたんだからねー」
隣に座っているおばちゃんにこう話し掛けた。それは見た目よりもずっと若く、
元気な通る声だった。
「まぁ、そうですねー」
話し掛けられた方のおばちゃんも相手が気のいい婆ちゃんと思ったようでニッコリ相槌を打つ。これが婆ちゃんの気分をよくさせたらしい。
「あのねー、アタシなんかもぉー91なんだよー。昔はねー、この年まで生きてこられるなんて思ってもいなかったもんだよー。死にぞこないのババアなんて影で言われてるんだろうけどねー、子供も孫も元気に育ってくれたし、長生きしなきゃいけないねーって思っていたら、こんな年になっちゃってねー」
とても91歳とは思えない元気な声で喋りだした。
その語り口調は
内海桂子か浅香光代、はたまた青島幸男の意地悪婆さんかってくらいいの江戸べらんめい調。いったいどこからそんなに元気な声が出るの? ってくらい大声で、婆ちゃんの喋りは続く。
「アタシャねー、酒は少しは飲むんだよー。飲むんだけどねー、タバコはやらないよ。ウチの子供も孫もタバコだけはやらないよー。あれは体に悪い、悪いんだー」
と語っていたかと思うと
「あそこの天神様はいいとこだよねー。まだ寒いけど、あと少し待てば桜も咲くだろうから、またきれいなお花が見れるよねー。あそこはねー、よくウチの町内でも花見に行ってねー・・・」
とか、機関銃のように喋る喋る・・・。
3秒と黙っていないのだ。
頭が痛くて弱っている僕など、その大声を聞かされているだけで
頭が余計に痛くなってくるほど。どうやら周りの人も同じだったのだろう。ひとり、またひとりと、婆ちゃんのそばに座っていた人たちが離れた席に移動していく。
それでも婆ちゃんは我関せず。
独演会の如く喋りを続けている。こちらの頭痛はひどくなる一方。
「おーい、誰か毒蝮三太夫呼んできて、このババァを何とかしてくれぇい!」
心底そう思いました。