7.本音はいずこに
皮膚科の待合室。
年の頃なら50歳くらいだろう、先ほどから僕のそばに夫婦とおぼしきカップルが座った。どうやら患者は旦那の方、奥さんは付き添いで来ているという感じだった。奥さんは旦那の体調を心配しているようで、先生にどう話そうか、と話をしているのだが
「いいんだよぉー、そんなにあれこれ心配しなくてもよー」
旦那はぶっきらぼうな感じだった。それでも奥さんはあれこれ気になることがあるらしく、うるさいくらいに確認をしようとする。そのたびに
「大丈夫だよー、だいたい、そんなことここで聞いたって仕方ねぇーだろぉ?」
旦那も言い返す。そして
「だいたいよー、そんな大袈裟になるようなもんじゃないんだってば。ここに来るほどのことじゃねーんだよ」
と、病院に来ることからして嫌がっている話っぷり。さらに
「どうせ、先生に診てもらったって、大したこと言いっこないんだから。あぁ、これはアレですねーとか何とか言って、適当に終わっちゃんだよー。いい加減なんだから、先生なんてもんはよー」
内輪の話とはいえ、ハナから医師を信用してない様子が伺える。
あーあ、この人はよほど病院に来るのが嫌いなんだねー・・・。と普通は思いますよね?
ところが・・・。
「○○さーん、どうぞー!」
と診察室からアナウンスがあったと思ったら、この旦那、イキナリでかい声で
「ハイっ! ハイハイハイハイ!!!!」
と立ち上がり、スキップするかの勢いで診察室のドアまで足早に駆け寄り、律儀にノックをしたかと思うと、これまたデカイ声で
「あっ、こりゃ先生、ご無沙汰でございますー。
お世話になりまーす!!!」
と揉み手しながら中に入っていくではないか。おまけに、旦那の声はでかかったので、診察室で彼が何を話しているのかもよく聞こえてくる。
「もぉー、先生のおかげでとても調子よくなりましてねー、いやー♪」
先ほどまでの話とはまるで違うことをスラスラと言ってのけ
「あっ、先生、この場合はどうしたらよろしいんでございましょう?」
なんて突っ込んだ質問も随分としているではないか。そのあまりの変貌ぶりに待合室に居た人たちも驚いていた。
しかし、もっと驚いたのは、旦那が診察を終わり、出てきてから。
奥さんが一応「どうだった?」と聞くと、ほとんど丸聞こえだったのに
「大した話もしてないよ。いつも通りだったよ」
と、仏頂面。
おーい、話は全部聞こえていたんだってば・・・。