10.狙われた?
午後の内科の待合室。
予約制ながらいつも1時間は待たされるので、僕は病院に行くとまず売店でお気に入りの新聞を買い、待合室で端から端まで読みながら時間をつぶすことにしていた。
新聞を読み出して5分もしただろうか。すぐ後ろから、なぜか
犬の唸り声のような音が聞えてきた。あれ、なんだろう・・・と思い、3回目に音がしたときにちょっと振り返ってみると、ひとりのおっちゃんがダルそうな顔して座っている。どうやら、シンドイので、ため息がうなり声のように聞えたらしい。まぁ、病院ではよくある光景ではあった。
ところが、音はそれだけでなかった。おっちゃんは風邪でも引いているのか、次第に大きな咳をし始めた。
「うぉおおっーーーーっほん、ごぉおっほん!」
頻繁ではないが、3分〜5分に一回は連続して3回くらいの大きな咳をする。僕の
真後ろに座っているから、とても気になる。しかも、こちらは弁置換しているわけだし、ステロイドも服用している身。若くて可愛いおネーちゃんならともかく、こんなおっちゃんの雜菌だらけの咳を浴びせられるのは御免である。
そこで10分ほど我慢したものの、ついに耐え切れなくなって席を立ち、別のところに移動することにした。が、その前にトイレに行き、ちょっと用足して出ると、そこで、件のおっちゃんとすれ違った。どうやらおっちゃんもトイレだったらしい。
僕は再び待合室に戻り、先ほどとは離れた席に座ることにした。待合室はおっちゃんがいなくなったせいもあり、静かで平和だった。
「そうだよなー、待合室っちゅうのはこうでなくっちゃ♪」
再び新聞を読み出した僕は気持ちよく1面を読み、次の面を開こうとしたその時だった。
「うぉおおっーーーーっほん、ごぉおっほん! 
おぉおおおーーーーっほん、ごっほ、ごっほ!」

あのおっちゃんの声だ。しかも、先ほどまでと同じ聞え方。嫌な予感がして後ろを振り向くと、またしてもおっちゃんは僕の真後ろに座っているではないか。
たまったものではない。せっかく逃げたのに・・・。
座ったばかりなのですぐに移動するのも何なので結局5分ほどその席で我慢した僕である。でも、捨てる神あれば拾う神もあり。すぐに中待合室へと呼ばれ、ひと安心。そそくさと荷物をまとめて移動。今度こそ・・・とのんびり新聞を広げ、ひとつの記事を読み終えた時・・・。
「うぉおおっーーーーっほん、ごぉおっほん!
おぉおおおーーーーっごほ、ごっほ!」
またしてもこの騒音。新聞を降ろして周囲をうかがうと、僕の目の前の席、通路を挟んで向側。距離にして1mほどの正面にまたこのおっちゃんが座り、咳き込んでいた。
もぉ、勘弁してください・・・