12.スター気取り
皮膚科の待合室はかなり込んでいた。診察室前の部屋はもちろん、そこに続く廊下も人でいっぱい。さらに離れた売店のあたりまで座る席が見つからないほど。当然、ここまで混んでいると自分の順番が回ってくるのは早くても1時間以上だろうと諦めムードで新聞を買い求め、やっと見つけた椅子でニュースをチェックしていたら、遠くからなにやら音楽が聞えてきた。
「ひゅひゅひゅっひゅーひゅひゅひゅひゅ、ひゅひゅひゅっひゅー♪」
最初は
口笛かと思い、周囲を見渡したが、そんなしぐさをしている人は見当たらない。さらに注意深く音を聞いていると、どうやら発信主は動いているらしく、少しずつ近づいてきたり、遠ざかったりしているのが分かった。さらに周囲を見渡してみるが、やはりそれらしきしぐさの人は見当たらない。
おっかしいなぁー・・・。
と思うと同時に、思ったこと。それはここは
病院なわけで、こんな音を出すやつはどういう神経してるのやら・・・。ということ。そう考えると余計に犯人を探したくなった僕である。
ただし、音は常に出ているわけじゃない。途切れ途切れだ。特長はひとつ。
いつも同じ曲の同じフレーズを奏でている。それは何かというと、かつて小林旭が歌っていた
自動車ショー歌!!
これの冒頭の部分のみ、つまり
「あの娘をペットにしたくって♪ ニッサンするのはパッカード♪」
の部分のみ。ひたすら
リピートなのである。
やがて、僕の前にその人物は現れた。年の頃なら60台。
地味なジャケット+野球帽。手をポケットに突っ込み、病院の廊下をブラブラと歩いてはこの音を奏でている。よく観ると口笛ではない。性格には歯を閉じたまま口を少し開いて奏でるタイプのもの。
ま、そんなことはどーでもいい。ハッキリ言えば、ひたすら同じ音を奏でながらあちこち
練り歩いているだけで、本人は小林旭のつもりかもしれないけど、周囲にはハタ迷惑な存在なのだ。
ちなみにこのおっちゃん。どうやら皮膚科に来ている患者らしい。その証拠に、数分に一回は診察室の方を気にして待合室の中まで音を奏でながら練り歩いている始末。そのたびに他の人は
「なになに。なんなの?」
いぶかしげな顔で見るのだけど、おっちゃんはあくまでポーカーフェース。
私が何かしましたか? 的な無表情のままで同じことを繰り返す。いったいアンタの目的は何なのよ! 正体をあらわせ!! と言いたくなったけど、僕も不気味だったので遠めに観るだけにしておきましたとさ。