日本相撲協会の研究 07.6.24


▲発足の歴史

 乃木大将は相撲をとって怪我をしたせいで、戊辰戦争に従軍できなかったそうですが、学習院院長として昭和天皇の教育に当たった際、相撲も教えました。
 先帝陛下の相撲好きは、畏れながら乃木仕込みと拝察します。
 皇孫時代の台覧5度、皇太子時代の台覧8度、摂政宮時代の台覧7度。
 大正14年4月29日、24歳の誕生日、東宮御所での台覧相撲の際の御下賜金を原資に、優勝賜杯(摂政宮賜杯)が作られました。
 大正14(1925)年12月、東京相撲協会は「大日本相撲協会」として財団法人の認可を受けます。
 大正天皇崩御、昭和天皇即位直後の昭和2(1927)年1月、東西の相撲協会が合併。
 優勝賜杯も天皇賜杯となり、大相撲は名実ともに「国技」となります。
 東京と大阪の相撲協会は従来張り合い、いがみ合っていましたが、賜杯を東京のみで独占は畏れ多いと、合同に至った由。
 また財団法人化も、賜杯を頂く団体はきちんとした組織でなければいけないとのことかららしく、それまでは年寄の集まりに過ぎない任意団体であったようです。
 江戸時代は武家とのつながりが強かった大相撲が「国技」となって隆盛を誇り、相撲協会の今日あるのは、「日本最高の相撲通」(石井代蔵)と言われる昭和天皇の御稜威による…と言えるのかもしれません。
(参考文献「新説大相撲見聞録」石井代蔵著、新潮文庫 など)


△公益法人の資格への疑問

 昭和29(1956)年、力道山・木村組対シャープ兄弟戦で大成功を博した日本プロレス協会が、財団法人の認可を申請し、却下されました。
 文部省が法務省に照会し、営利団体の色が強いという見解が出たのが大きかったようですが、その際に、ついでに「相撲協会も営利団体色が強い」と言われて、問題になったようです。
 莫大な利益を上げる一方で、設立趣旨に見合う普及活動を行っていない、とのことのようでした。
(参考文献「もう1つの昭和史@深層海流の男・力道山」牛島秀彦著、毎日新聞社)

 最近でも、「公益法人制度改革に関する有識者会議」(第4回、平成16年2月4日)において、民法学の大家である星野英一名誉教授が、日本相撲協会が公益法人になっていることに疑問を呈する発言をしています。
(引用はいささか長くなりますで、このページの最後に記載します。)


▲概要

 日本相撲協会は、文部科学省スポーツ・青少年局競技スポーツ課所管の財団法人です。
 その寄付行為(社団法人における定款に当たるもの)、平成18年度決算報告が、HPに公開されています。
 http://www.sumo.or.jp/
 それによりますと、一般企業の売上高に当たる事業収入は97億円で、単純に事業費98億円と比べても赤字であり、昨今の経営は苦しいようです。
 もっとも、国技館をはじめとする保有資産が、たくさんあるとは思われます。
 なお、住所は
 東京都墨田区横網1-3-28
です。「横綱」ではありませんから念のため。

 「日本相撲協会寄附行為」には、「施行細則」と「施行細則附属規定」が設けられています。
 ご興味のある方には、こちらのサイト(MMTS相撲ホームページ)をお薦めします。
 http://www.geocities.jp/mmts_sumo/kihu.htm


財団法人日本相撲協会寄附行為

第 2 章 目的および事業
(目 的)
第 3 条 この法人は、わが国固有の国技である相撲道を研究し、相撲の技術を練磨し、その指導普及を図るとともに、これに必要な施設を経営し、もって相撲道の維持発展と国民の心身の向上に寄与することを目的とする。
(事 業)
第 4 条 この法人は、前条の目的を達成するため次の事業を行う。
(1)相撲教習所の維持運営
(2)力士、行司、呼出、床山の養成
(3)力士の相撲競技の公開実施
(4)青少年、学生に対する相撲の指導奨励
(5)国技館の維持経営
(6)相撲博物館の維持運営
(7)相撲道に関する出版物の刊行
(8)年寄、力士および行司等の福利厚生
(9)その他目的を達成するために必要な事業


△政治の庇護は受けられるか

 「普及の公益性(将棋は「国民娯楽」)」の頁でご紹介した、文化芸術振興基本法(平成13年法律第148号)が成立する際、衆参両院の文科委員会で、下記の文言を含む附帯決議が採択されています。

 我が国において継承されてきた武道,相撲などにおける伝統的な様式表現を伴う身体文化についても,本法の対象となることにかんがみ,適切に施策を講ずること。
http://www.bunka.go.jp/bunka_gyousei/bunkageijutsushinkou/index.html 文化庁HP

 国会の議事を調べていないので、どのような経緯でこの附帯決議がなされたか存じません。
 スポーツ振興法(昭和36年法律141号)というものがあります。
 http://www.houko.com/00/01/S36/141.HTM 法庫
 武道や相撲は、こちらの対象ではないかと思うのですが、その伝統文化的な側面を重視して、文化芸術振興基本法の対象ともしたい、ということなのでしょう。

 事業のうち大きな比率を占める、本場所・巡業などの興行の実施が、公益事業と認めらなかった場合、他に何をやっていようが、日本相撲協会は公益法人としては存続し得ないでしょう。
 その場合、株式会社などの営利法人として活動していくとしても、これまでに積み上げた純資産の相当額を、どこかに寄付するか、公益事業(この場合の前提だと興行以外)に使わなければならず、その影響は大きいものがあります。
 
 法律の専門家には、(前述のように)その公益性に否定的な向きがあります。
 公益認定等委員会の委員は学者が多いので、これまでの監督官庁の役人が、前例主義であったのと違って、理詰めで来られることになりましょう。
 また、年寄株の売買に伴う脱税事件や、暴力団との交際、八百長報道とそれを巡る裁判など、公益法人にふさわしからぬ出来事が喧伝されることも少なくありません。
 もっとも政界には相撲ファンも多そうなので、何とか考えてくれそうな気もします。
 木俣佳丈参議院議員のブログに、以下の記述がありました。

平成19年1月16日(火)
 超党派の国会議員で組織している大相撲愛好議員連盟(会長 麻生太郎)では毎年、両国の国技館での初場所の観戦しております。今年は、会員100名の中の21名が参加しました。
http://kimata-yoshitake.seesaa.net/article/43136551.html

 なお、国会議員将棋連盟、もあるそうです。
 以下は、政府広報オンライン、政府インターネットテレビ:大臣の本音、久間章生防衛大臣(後編)より。

○関谷亜矢子氏
…実は大臣は将棋、剣道が6段。
 中でも将棋は国会議員将棋連盟の会長でいらっしゃるということですね。
○久間大臣
 そうですね。
○関谷亜矢子氏
 よく議員の方とも対戦されるんですか。
○久間大臣
 しますけれども、国会議員さんで強いのは村上君とか二田君とか、有段者の数が非常に限られているんです。
○関谷亜矢子氏
 皆さん、もう相手にならないんですね。
○久間大臣
 将棋はなかなかね。
 飛車を落とすとか、角を落とすとか、皆さん、余り好きではないんです。
http://www.gov-online.go.jp/topics/honne/kyuuma_02.html


▲日本相撲協会と日本将棋連盟の類似点

 相撲は武術、スポーツであり、将棋は遊戯、ゲームですが、これらをここではまとめて競技と呼ぶことにしますと、何れも日本固有の、伝統ある競技である、ということができます。
 日本相撲協会と日本将棋連盟は、その伝統競技のプロ競技者を独占的に抱え、プロ競技を実施することを主たる事業とする点において、共通するものと思います。
 その点は、日本棋院と関西棋院も同じです。
 一方、日本野球機構や日本プロサッカーリーグ(何れも社団法人)は、自前でプロ選手を抱えて給料を払っているわけではありません。
 それを行うのは傘下の各プロ球団であり、そのほとんどは株式会社です。
※J-2のモンテディオ山形の法人名は、社団法人山形県スポーツ振興21世紀協会で、プロスポーツチームを運営する全国初の公益法人、だそうです。
 http://www.montedio.or.jp/sy21.htm

 大相撲興行、あるいはプロ棋戦の実施が、公益事業と認められなかった場合、日本相撲協会、あるいは日本将棋連盟は、その事業の全体に対する比率の大きさから、もはや公益法人たり得ないものと思いますが、その点をクリアすれば、次は公益法人としての制度・運営上の問題がないかどうか、ということになろうかと思います。
 行っている事業は公益事業であっても、その法人が公益法人に認定されない、ということはあり得ます。


参考
第4回 公益法人制度改革に関する有識者会議 平成16年2月4日(水)
http://www.gyoukaku.go.jp/jimukyoku/koueki-bappon/yushiki/yushiki.html

議事概要
識者ヒアリング(星野英一東京大学名誉教授)
 星野名誉教授から「法人制度上「公益性」を判断する意義、「公益性」を有する非営利法人の捉え方」について資料1に基づき説明があり、その後、質疑応答を含め、討議が行われた。 主な意見は次のとおり。
(略)

議事録
 :
(4)一つの試案
 抽象論を述べているだけでは進まないので、具体的な条文案を考えてあるところで発表し、参考資料のDのホームページに載っているものです。
 @ 「社員及び役員以外の不特定多数の利益を図ることを目的とし、かつ営利を目的としない社団又は財団」を公益法人とする。
 「公益法人はその行う公益活動を遂行するために必要な限りにおいて、社員、役員、その他公益活動に参加する者の能力の向上、社員の懇親、同種の法人との連絡その他の事業を行うことができる」
 先に説明した、民商法における「目的」の用語との関係で申しますと、これは法人の営む「事業」つまり「直接の目的」に「公益性」つまり不特定多数のためということの存在することが必要であり、「間接の目的」が公益だということではないことを示しています。
 より端的に申しますと、公益性がある法人というのは、社員が利他的な、英語の   altruistic な活動をするものではないかということです。これは中間法人の検討の時に議論をしていたものです。社員も役員も法人の一員として行動する限りにおいては、専ら他の人々のために働かなければいけないということです。
 :
 その法人が社員に共通する利益を図るような事業もできるとしますと、現在の実情とちっとも変わらないことになるのです。現在は、理屈の上ではクラブとか、同窓会は公益法人になれないと解されているのですが、実際には多くのものが公益法人として許可されました。皆さんもご存知の学士会とか、ああいう同窓会は、公益的な仕事、例えば集会場を開放したり、一般向けの図書・雑誌を刊行したりもして、公益法人の許可をとりました。許可主義が厳格すぎると考えてかどうかは分かりませんが、戦前は公益法人許可も割合緩やかに与えていたようです。
 それどころか、なぜか分かりませんが、「公益」目的を広くとったか、あるいは「事業」の公益性を判断したのか、例えばゴルフクラブ(これらは中間法人的なものもありますが)、日本相撲協会なども公益法人になっているのですね。その結果、「公益法人」にたくさんのものが入っているため、営利法人でもできるものがかなりあり、同業の営利法人を圧迫している。そこでそれらは営利法人に転換しろということになったのです。そして、ハイクラスの人だけを会員にしているゴルフクラブなどは営利法人になるわけにはゆかないから、中間法人に転換することを考えて中間法人法を作る目的の一つにした。ところが何かの理由で中間法人への転換の規定は作らないことになったのです。
 したがって、もしもここを緩めますと、現状とちっとも変わらない。現状の正当化という意味を持ちます。それどころか、現在は一応公益目的を掲げ、構成員の利益はいわば恐る恐る目的・事業に入れているものを、表からそれをやってよいということになってしまいます。今より悪いわけで、やらない方がましというぐらいです。
 中間法人ないし 非営利法人を認めるなら、公益法人は本来の形に純化する方がよいと思います。
 :
 ただ、事業を遂行するために社員の能力の養成、研修をしたり、仕事後運動会や懇談会や一緒に酒を飲むなどのレクリエーションは必要ですから、その旨をはっきり書いた方がいいと考えます。


今の星野先生の御説明に対して、御質問があれば、いかがでございましょう。

○全体を概観していただきましてありがとうございました。○○と申します。
 不特定多数の不特定という言葉について、若干私の身の回りの経験に基づき説明させていただき、それから質問をさせていただきたいと思います。
 全体のお話をうかがっておりますと、ここで言っている市民とか国民というのは、非常に強い、賢い、正義感あふれる人というのが根底にあると思うのですが、実際にNPOとか、公益法人を運営している仲間の様子を見ていますと、マネージメント面では非常に苦労しています。つまり、いかに会員を維持するかというところで苦労しています。また、会員やボランティアをするという人たちは、確かに高邁な精神を持っているのですが、そこにたどり着くまでにいろんな工夫をしないと、その気になってくれないのです。
 例えば、お誕生日カードをあげるとか、それから特別に事務所を使わせてあげるというように、何らかの特典を、その会員にならなければ得られないような特典を与えることによって会員になってもらって、徐々にその活動に目覚めてもらうというような工夫を、マネージメントの上手な組織はやっています。
 そういう意味では、この不特定に関して、先ほど定義をされましたけれども、やはりその組織に参加して活動しなければ得られないというインセンティブについて、この場合、不特定をどういうふうにとらえたらいいのかという点について質問させていただければと思います。

◎星野東京大学名誉教授
 この不特定というのは、やっている仕事がほかの人のためということですね。ですから、自分ら、法律上の社員のためにだけ訓練をする法人は、中間法人だと思います。
 ただ、お話のような事例では、初め中間法人になっていて、後に公益法人に変わってもいいわけです。やはり公益法人として設立をする場合には、今のお言葉を使いますと、ある程度強い人々にやってもらわないといけないのではないかと感じます。
 私も実は中小のグループに関係しているので、おっしゃることは分からないではないのですけれど。人がどんどん減ってしまうとか、何か特典がないと入ってくれないとか。ただ、社団法人でしたら、熱心な人が外のために、また新人の養成のために働くという方法ができるわけです。そして、社団法人の社員や役員はそれらの仕事をしますが、法律上「社員」というのは社団の構成員とされている人で、多くの法人では、「会員」として色々な形でそれを助ける人を置いていますが、初めは「会員」となって養成を受け、後で社員として専ら外のために働く、というやり方も考えられます。「会員」の間は、いくらかゆるやかにできるでしょうから。

○今、星野先生のおっしゃったのは、法人としての行動の効果として、社会の不特定に対して、どのような影響を及ぼすかということですね。

◎星野東京大学名誉教授
 はい、公益法人というのは、不特定の人のために働くものだということです。

○ですから、その過程において、法人を構成する人たちの間で多少のことがあっても、それは仕方がないというとおかしいですが、それはあってもいいことではないかということだと。

◎星野東京大学名誉教授
 場合によっては必要でさえあると思いますね。外国へ出かけていく医療団などというのは、日本で相当訓練しておかなければできないわけですね。
(略)


メニューページ「公益法人改革を研究する2007年度 」へ戻る