第56期王座戦五番勝負第1局
▲羽生善治王座(名人棋聖王将)−△木村一基八段
大盤解説会 於 将棋会館 2008.9.5(金)


 以下は渡辺明竜王の解説。
 聞き手は熊倉紫野女流1級。
 (以下、敬称略)

(図は61手目▲2二歩の局面)

(「次の一手」出題の局面)
僕の第一感は△8三角だったんですけど。

62△1三桂
63▲2一歩成
64△2八飛  

ここで夕食休憩に入りました。
現地控室で佐藤さん(康光棋王)が、
「羽生さん困ってる」「後手よし」と断言した、
とのこと。
佐藤さんが形勢についてはっきり言うことはあまりない。
だからそうなんでしょう。

65▲2二と
66△2四銀
67▲4九金
68△4五歩 
69▲2三と △6九角には▲6八銀でとりあえず大丈夫。
70△6九角 


(図は70手目△6九角の局面)

▲6八銀の後
@△7ニ飛▲同角成△8六桂▲同歩△6八飛成は
 ▲3四桂△4三玉▲4ニ飛以下詰み。
 △7ニ飛に▲5九金もある。
A△6ニ金▲同金△同飛は後手負け。
 △6ニ金に▲3四角成もある。
B△7八角成▲同玉△8八金▲6七玉
 △5五桂▲同銀△同銀▲3八桂
 で先手玉は寄らない。
 後手玉は2手すき。
 以下△2九飛成なら▲2一角△7ニ飛▲4三角右成
 △5一玉▲7ニ角成 先手玉は詰まない。

△6九角と打ったからには(先手玉が)寄らないと
いけないんですけど…あらららら…。
指し過ぎだったか。代わりに
△2五銀▲3九金△5八飛成▲6七銀…
これで後手よし、だったのかなあ。

71▲6八銀
72△7八角成
73▲同玉
74△8八金
75▲6七玉


(図は75手目▲6七玉の局面)

どうするか。
(熊倉「突く」△6五歩)
△6五歩。以下
@▲2四と なら詰めろでないので、以下
 △6六歩▲7七玉△8五桂▲8六玉△6八飛成
 で先手受けなし。
(熊倉「こうか」▲2ニ角)
A▲2ニ角 いい手。以下
 △3三歩に▲2四と…

76△6五歩

(現地控室の▲4四角で羽生よしとの情報が伝えられる)
△3三歩なら▲3九金。
▲2ニ角と▲4四角、どっちでもいいなら大差。

77▲4四角

△6六歩は▲同角で(△8八)金に当たる。
▲3九金があるのでここで行くしかないんですが。
△6二金は▲3四角成で先手勝ち。

78△6二金  79▲3四角成 80△7二金
81▲2四と   82△5一玉  83▲3九金
84△6六歩  85▲同角   86△2七飛成
87▲8八角  88△7一金  89▲6四銀
まで▲羽生王座の勝ち


(現地控室が)「後手よし」と言ってたのになあ。
おかしいなあ。
△6九角が指し過ぎだったか。
でも代わる手が見つからない。
それが大事なんですが。
逆転だったのかどうか。



 2度目の七冠ロードをひた走る羽生名人。
 竜王戦挑戦者決定三番勝負と王座戦五番勝負の相手は、くしくも同じ木村八段。
 変則八番勝負、と相成った。
 竜王戦の方は、現在一勝一敗。
 その第3局の前に、王座戦が始まった。
 将棋会館の大盤解説会は、有料(一般2000円)にも関わらず、大盛況。
 客は100人程はいたろうか。
 羽生フィーバーも再び、か。
 解説者が渡辺竜王、ということもあったか。
 

 以下は解説中の渡辺竜王のおもしろいお話。


 夕食、羽生さんはおにぎりセットと味噌汁。
 木村さんはバナナ、ヨーグルト、チョコレート、コーラ。
 2人とも小食。
 タイトル戦の食事の注文はチャンピオン(タイトルホルダー)から。
 羽生さんと王座戦の第1局、椿山荘だったが、羽生さんが一番安いランクの五目焼きそばを注文して、それより高いものを注文できず、困った。
 これでも気を使う方なので。
 五目焼きそばでも、椿山荘だから1200円くらいする。
 ふかひれそばとか4000円くらいするのもあって、食べたかったんですけど。

(熊倉 たくさん食べると眠くなりません?)
 寝ますよ。
 タイトル戦の休憩時間は1時間あるが、食事は10分くらいで終るんで、歯磨きして、目覚ましかけて自分の部屋で昼寝する。

(夕食休憩前に木村の持ち時間が1時間を切ったことについて)
 普段の対局は10時開始だが、タイトル戦は9時から。
 同じ持ち時間5時間の将棋でも、いつもより1時間進行が早い。
 僕も王座戦で経験したが、夕食休憩前に持ち時間が1時間を切ると、焦る。
 夕食は食べていられない。

(熊倉がNHK将棋講座のアシスタントを担当することについて)
 1日2本撮りですか?
 僕のときは1日3本撮っていた。
 面倒臭がりですから。
 10時から午前中に2本、ご飯の後午後に1本。
 本当はリハーサルをすることになっているが、1本目だけやって、後はぶっつけ本番。
 リハーサルでギャグを言えても、もう1回同じことを言うのは照れ臭い。
 3本目はだらける。
 2本でやった方がいい。
(熊倉 森下先生(卓九段)が「丁寧にやりましょう」と言って2本撮りに。)
 すばらしいですね、森下先生は。
 講座は20分だからいいですが、NHK杯1時間40分見るのはしんどい。
 うちの親父は将棋ファンですが、11時から11時半ぐらいは寝ている。
 終盤頃に起きて「何でこうなったんだ」と言う。
 
(熊倉が言葉を言い間違えると)
 テレビは噛むとやり直し。
 1人だけ残されて、音声だけ吹き替える。
 「詰将棋の正解発表は…」などとカンペ(カンニングペーパー)を棒読みしていると噛む。
(熊倉 テキストを書くのも大変ですよね?)
 ぶっちゃけ、ライターさんが書くんですけど。
 「執筆協力 誰それ」と小さく書いてある。
 その人が書いている。
(熊倉 森下先生はご自分で書いている。)
 偉いですね。
(熊倉 森下先生曰く「半年間はあれに懸けている。連戦連敗で対局がないので」)
 森下先生はいつも笑かすようなことを言ってくれる。
 この間も…まだ放送してないからだめか。

 もしかして熊倉さんは羽生さんファンですか?
 じゃあ竜王戦に羽生さんが出たら応援して上げてください。
 僕は自分を応援します。

(熊倉 木村先生もお寺に連れて行って下さったり、いい先生だなと…)
 長野東急(将棋まつり)?
 善光寺ですね。
 あれ(お戒壇巡り)、やりました?
 真っ暗な中で、鍵にさわるといいことがある。
 前にやって、3ヵ月後に竜王を取った。
 今年もやったら、さわれなかった。
 だから…だめです。(笑)

(熊倉が「千駄ヶ谷の受け師」という木村八段のあだ名を紹介)
 控え室ではやっている言葉。
 木村さんにちょっと良さそうな受けの手が出ると
 「さすが受け師」
 みんな言いたいだけなんです。
 もうそればっかり。
 立会人の森先生(けいニ九段)も言っていた。
(大盤解説中も熊倉が木村側の受けの手を示すと、渡辺すかさず「さすが受け師」。場内爆笑)

 羽生さんが優勢だと、(控え室の)検討が終了しがち。

(客がどちらを応援しているか挙手させると、羽生・木村とも同じぐらい。)
 皆さん竜王戦は?
(熊倉「渡辺竜王に勝って欲しい人!」客、挙手。)
 うそでもありがとうございます。
 (竜王戦は)どうなるんでしょうね。
 楽しみですよね…外野はね。

(竜王戦第1局はパリで開催。海外対局は楽しいか、と熊倉に聞かれ)
 対局に行くんですからね。
 立会人とかは楽しそうですよ。
 韓国に行ったときは加藤先生(一二三九段)が立会人でしたが、楽しそうでした。
 夜、焼肉を食べに行ったら、網と網の真ん中に座って、両方(の網から)取る。
 もちろん自分では焼かない。
 お肉しか食べない。
 食欲には圧倒された。
 大山先生とのタイトル戦の話をしてくれる。
 勝った将棋しか話さないんですけど。
 1晩挟んで10時間ぐらい考えて、6ニ歩と打った話をいつもする。
 もう知ってるんですけど。
 最初に聞く前に並べたことがあって、僕たまたま知っていたら、すごく嬉しそうだった。
 対局中は迫力あるが、普段は優しくて温厚で楽しい先生です。

 羽生さんが逆転すると、佐藤天彦君(四段)が「さすが神」と言う。

(熊倉 竜王戦(の挑戦者)はどっちが来て欲しいですか?)
 毎年よく聞かれるんですけど。
 戦法に関しては考えるんで。
 どっちも居飛車党なんで、どっちが来ても相居飛車。
 羽生さんが来ると、永世竜王を懸けた戦いになるんで、テレビとかも来るんでしょうけどね。



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