なぜ宮様は碁盤から飛び降りられるのか07.6.10


 http://www.maezawa-goban.co.jp/rekishi/2007.2rekisi.html
 両国国技館のそばにある囲碁・将棋用品製作の老舗・前沢碁盤店のHPには、
「当店製作の碁盤上にのる現皇太子殿下 浩宮様」
というキャプションのついた写真が掲載されています。
 これは「深曽木の儀」という、一般の七五三に当たる伝統儀式の際の写真で、代々使っていた碁盤が傷んだため、先代当主が皇室に献上した、と説明にあります。


 6月10日は時の記念日。
 天智天皇が漏刻(水時計)を設置し、時報を始めた日です。
 天智天皇を祭神とする近江神宮(大津市)ではこの日「漏刻祭」が行われます。
 境内には「時計博物館」もあります。
 http://www.bbweb-arena.com/users/oumijing/myweb1_011.htm
 展示物の中に、前沢碁盤店のHPと同じ「碁盤にのる浩宮様」の写真を発見しました。
 以下の説明書きがありました。

 このお写真は皇太孫殿下(浩宮様)が昭和39年11月1日数え年5歳を迎えられた御祝儀の際に、両陛下から頂かれた童形服を召され、右手に桧扇、左手に小松とヤマタチバナの小枝をお持ちになって、日置盤(ここにある碁盤と同じもの)の上にお立ちになった時のお姿である。
 その御足元には、青石の小石が二個置かれている。次いで殿下は御髪の毛を鋏で切り揃えられた後、足元の小石を踏んで日置盤よりお飛び降りになる。この行事を深曽木(みそぎ)の儀と申す。 
 古伝では、日置盤は高天原を表象し、二個の小石は高天原から眺めた地球と月とを意味するものである。御髪先に鋏をお入れになるのは、素盞鳴尊(すさのおのみこと)の故事に倣って禊(みそぎ)を遊ばされ、又青色の小石を踏んで飛び降りられるのは、葦原の中津国の支配者として降臨される事を象徴したものである。


 ここでは「みそぎ」と読んでいますが、「ふかそぎ」と読む例が多いようです。
 「日置盤(ここにある碁盤と同じもの)」とあるように、横には碁盤(様のもの)が置いてあります。
 ただし、その説明書きはこれしかありません。

日置き道具
 京都市安井一陽様奉納
 大宝令の定めによる陰陽頭の家柄である京都の安井家に口伝として伝わるもので、碁盤の起源をなすものと言われている。

 その「日置盤」なるものは、罫線が通常の碁盤と同じ19×19路ではなく、21×21路になっていました。
 升目でいうと20×20の400マスです。
 暦における八節(春分・秋分・夏至・冬至・立春・立夏・立秋・立冬)に当たる位置が盤上に記されているほか、陰陽道にいう九星(一白・二黒・三碧・四緑・五黄・六白・七赤・八白・九紫)を表す碁石が置かれていました。
 

 http://www.nihonkiin.or.jp/lesson/knowledge/index.htm
 日本棋院のHPでは、囲碁の起源について、
「碁盤は宇宙、碁石は星のかわりで、カレンダー、占いに使ったという話があります。」
とも書いています。

 これはわたしの想像ですが、碁石を盤上に置き、日々双六のように進ませて、その位置によって暦を表わしたのではないでしょうか。
 そうだとすれば、何が起源か、どういう使い方が先だったかはともかくとして、少なくとも日本においては、碁盤(様のもの)をカレンダーとして使うことがあった、と言えることになりましょうか。

 http://www.aozora.gr.jp/cards/000933/files/18397_22466.html 青空文庫
 民俗学者の折口信夫は、「天皇は、日置暦といふものを持つてゐられた」と書いています。
 具体的にどういうものかはわかりません。

 http://www.city.nagoya.jp/kankou/sansaku/shiseki/naka/betu/nagoya00000408.html 名古屋市HP
 名古屋市に「日置神社」があります。
「“日置”の名は古代、暦象をつかさどった日置部にちなむもの」とあります。
 日置部(ひおきべ、ひきべ)は朝廷に仕えた職能集団の一族で、各地に派遣されたらしく、全国に日置という地名や人名が残っています。
 
 http://www.weblio.jp/content/%E5%AE%89%E4%BA%95%E7%AE%97%E5%93%B2
 囲碁と暦、という関連では、二世安井算哲が想起されます。
 御城碁での初手天元で名高い碁打ちでしたが、日本で初めて採用された和暦「貞享暦」を作成し、幕府の初代天文方に転じました。
 地球儀の作成や、経緯度の測定も行っています。
 碁方の家元である安井の姓を捨て、渋川晴海と改名。
 代々渋川家が天文方を世襲しました。


 http://www.maezawa-goban.co.jp/rekishi/2007.2rekisi.html
 前沢碁盤店のHPに戻ります。
 「碁盤を最終的に検分する東宮御所囲碁指南役・長谷川章7段」という記載があります。

 近年の皇室の方々は囲碁よりも将棋がお好きで、天皇陛下もなかなかの腕前と聞き及びますが、将棋の指南役がいたとは聞きません。
 それともこういうことは隠しておくものなのでしょうか。

 http://homepage3.nifty.com/gororo/shogisasi.html 将棋FILE by gororo
 大橋本家十二代・大橋宗金について、
「東宮御所から出仕するようにと恩命を受けたが、堅く辞退して受けなかった」とあります。
 明治時代のことです。


※写真は近江神宮と漏刻祭の様子です

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