第29回JT将棋日本シリーズ静岡大会 2008.7.19(土)
  於 ツインメッセ静岡 (解説・加藤一二三九段)
(2) プロ公式戦 ▲渡辺明竜王−△深浦康市王位


(図は40手目△9三香、封じ手の局面)

加藤九段「本大会屈指の好取組。
       王位が先手なら2六歩からの将棋、
       竜王が先手なら矢倉?
       振り駒の結果で違った戦型になると思っている」
山田女流「前夜祭の後(夜の街に)繰り出したんです
       けど、お2人ともリラックスしていた」
渡辺竜王「この大会では1度も勝っていないのでがんばりたい」
深浦王位「静岡は初めて対局する土地なので
       いい将棋をお見せしたい」

 振り駒は歩が4枚で渡辺竜王の先手となった。

 以下、コメントは、基本的には加藤九段の解説。
 (差し手の予想はここでは符号で書いているが、実際は対局者に配慮して、指示棒で動きを示すだけの場合が多かった)

プロ公式戦ルール:持ち時間10分、切れたら1手30秒未満
            ただし1分×5回の考慮時間あり


▲渡辺明竜王 △深浦康市王位

1▲7六歩  
2△3四歩
3▲2六歩  
4△8八角成
5▲同銀  
6△4二銀
7▲3八銀  
8△3二金
9▲4六歩  
10△6二銀
11▲4七銀  
12△6四歩  将棋日本シリーズにわたしは対局者、
         解説者として29回連続で出ずっぱり。
         4回決勝に出て、2回優勝している。
         お2人も優勝を目指していることでしょう。
13▲6八玉  
14△6三銀
15▲7八金  
16△9四歩
17▲9六歩  
18△5二金
19▲7七銀  
20△4一玉
21▲1六歩  
22△1四歩
23▲5八金  
24△3一玉
25▲3六歩  
26△7四歩
27▲5六銀  
28△5四銀
29▲7九玉  
30△8四歩 

(山田、長考について話を振る)
丸山九段とわたしの共通点。考えた後に普通の手を指す。
考えたからと変わった手を指す人もいるが、考えた上で、
確信を持って(普通の手を)指す、と。
(※以前は郷田九段との共通点、とおっしゃっていたが…)
(山田「JT杯は持ち時間が短い」)
わたしの経験から言っても短い時間でも名局が生まれている。
深浦さんは王位戦、腰掛銀で2勝して羽生さんから取った。
第7局の立会をしたが、ちょうど千敗をしたときで、
すばらしい記録だと深浦さんにほめられた。
本当は勝つ方がいいんだけれども。(笑)
負けてもやめない、という感じです。

31▲4五歩  この手で新しい将棋になった。
32△6五歩
33▲4六角  
34△7三角
35▲同角成  
36△同桂
37▲4六角  
38△6三金
39▲3七桂  

わたしは先手番で腰掛銀をしたことはない。
後手番では受けて立ちますけども。
千日手になりがちということで一時廃れていた。
2人の立会をしていますが、若いんだけれども
柔軟性があって、対局前も屈託なく過ごしている。

40△9三香

次の一手を封じ手にします。
△9ニ飛▲8六銀のとき△2ニ角がある。
これが嫌なら▲2五歩として△3三角と上がらせる。
▲6六歩△同歩▲同銀△6五歩なら▲5五銀左。
持ち時間6時間なら、1時間ぐらい考える所。

山田「今回は他の会場でも当たった人が少ない」
加藤「手が広い所で出題してるんでしょうね」
山田「今日も…」
※▲渡辺竜王、ここで持ち時間切れ。
 30秒の秒読みの内に差し手を封じる。

封じ手を考えるのにこれ程長考するのは初めてです。
本命は▲2五歩。当たるかどうかは自信ありません。

(※10分間の休憩後、再開。
 鈴木環那女流初段が封じ手を開封し読み上げる。)

41▲5五銀  (封じ手)

山田「当たった方…(挙手させる)10人くらい?」
(※気になったか渡辺竜王も客席を見渡していた。)
△同銀なら▲同角で、△3三銀▲6四銀が狙い。

42△6二飛
43▲4七金  

@△5五銀▲同角△3三角▲同角成△同銀として、
 △2七銀▲同飛△3八角となれば技あり。
 ただ▲7一角△9ニ飛▲8三銀△4ニ飛▲9三角成がある。

A △5五銀▲同角に△3三銀だと、
 ▲6八銀△5四歩▲7七角として▲2五桂を狙われる。

B△2ニ角▲5六歩△5五銀▲同歩 なかなか難解。
 この後△6四金とやっても▲5八飛が調子のいい手。
 (※△深浦、1回目の考慮時間使用)

44△7五歩  予想しにくい手。攻め合いを考えた
         鋭い一着。
45▲同歩  
46△8五桂  決戦ですね。
         ▲7六銀△2ニ角▲5六歩…
         (※▲渡辺、1回目の考慮時間使用)
47▲6八銀  
48△9五歩
49▲同歩  
50△同香
51▲同香   △9八歩に▲8八玉なら△9九角。
52△9八歩

▲7四歩△同金▲5四銀△同歩▲7五歩に
@ △同金▲7三角成 こうはならない。
A △9九歩成▲7四歩△8九と▲同玉△7七歩
  これは△王位面白い。
渡辺竜王の対策が注目される所。
(※▲渡辺、2、3、4回目の考慮時間使用)

53▲7七桂  

これはなかなか難しい手。実戦的な手。思い浮かばない手。
(※△深浦、2回目の考慮時間使用)
△9七桂成〜△9九歩成〜△9八と〜△9九角
ちょっと手がかかり過ぎるが、羽生さんだとこんな手を
間に合わせる。羽生流。羽生さんだと指すかもしれない。
深浦さんは指さないでしょう。

54△9七桂成  笑(※指さないと言った途端指したので)
55▲7四歩   
56△9六角   すごい手抜きですね。一目▲8八香。


(図は56手目△9六角の局面)

57▲7三歩成  手抜きで来ましたね。おーという
          手ですね。▲8八香と打ってる場合
          じゃないということでしょうね。
58△8七成桂  47▲6八銀で▲7六銀と言ったのは
          ここ(8七)に利かしたいから。
          結果論ですが。
59▲同金  
60△同角成
61▲7八歩  (※△深浦、3回目の考慮時間使用)
         次の一手がほんとに注目されます。
62△5五銀
63▲同角  
64△8九銀
65▲6九玉  
66△7八銀成  ▲5八玉でしょう。
          理屈じゃなくて感覚です。
67▲5九玉   感覚も色々あります。(笑)
68△6八成銀  
69▲同飛    ▲5九玉はこの手を用意していた。
70△7三金   ▲同角成なら△7七馬から△7六桂。
71▲7八銀  
72△6六歩   ほー、うーん。▲同歩なら「あたふ」。
          (※あたま歩の略?飛車の頭に△6七歩)
          これは利かされてますよね。
          (※▲渡辺、5回目の考慮時間使用)
          両者の対局の棋譜を数局調べてみると、
          王位がどんどん攻めている。
          △6六歩は深浦王位の面目躍如。
73▲7三角成 
.

(図は73手目▲7三角成の局面)

(※△深浦、4回目の考慮時間使用)
△6七歩成▲同銀△6九金に、
@▲4九玉△6八金▲6二馬△2七銀
 次の狙いは△6九飛▲4八玉△5九飛成。
 △2七銀に受けるなら▲4八銀△6九馬…
A▲4八玉△6八金▲6二馬△ 6九馬▲7一飛△2ニ玉…

74△6七歩成
75▲同銀  
76△6九金
77▲4九玉  
78△6八金
79▲6二馬  (※△深浦、5回目の考慮時間使用)
80△2七銀
81▲6一飛  
82△2二玉
83▲2五桂  △6九飛なら上に逃げられる。
84△6七金  (攻めるなら)▲3三銀△同金…
85▲3八銀  
86△5八銀
87▲4八玉  
88△3八銀成
89▲同玉  
90△4七銀成
91▲同玉  
92△6九馬
93▲4六玉  
94△3五銀
95▲同歩  
96△3六飛

まで△深浦王位勝ち。

以下は▲5五玉△5四金。
竜王の41▲5五銀がどうだったんでしょうか。
微妙な所です。


(感想戦)
渡辺「ちょっと難しい所で封じ手にされてしまったので…」
加藤「(封じ手の所で)▲2五歩から▲6六歩はどうでしたか」
渡辺「いやー、そこ突くんすか。
    (▲2五歩も▲6六歩も)両方一手も考えないんで。
    ▲4七金は考えたんですけど、△9ニ飛の後▲5五銀と
    行っても受けてくれないすね。△9五歩と来る」
加藤「前例のない形でしょ?
    44△7五歩45▲同歩46△8五桂 
    と、決戦に入りましたね。
    次は▲7六銀?」
渡辺「その方がよかったですかね。
    ▲7六の方が形でしたかね」
加藤「52△9八歩はなかなか厳しい」
深浦「受けが難しいので(攻めた)。
    もし▲2五歩と突かれても手抜きで。
    しかし△9八歩がどれだけ早いか…」
加藤「56△9六角には仕方ないから▲8八香」
渡辺「いやー(▲8八香は)後で取られそうで気が引けて」
深浦「それだと△7四金と戻すぐらいですかね」
加藤「(△7四)角の方がいいんじゃない?
    (進んで)72△6六歩を食っちゃ、ちょっと」
渡辺「しびれましたね。あそこではもう悪かった」
加藤「67▲5九玉で上がると?▲5八玉△6八成銀▲同玉」
渡辺「(69手目)▲同玉と取ると、
    (67手目は▲5九玉でも▲5八玉でも)同じですね。
    寄った方が2択で迷えるんで。悩んだんですけど。
    (67手目▲5八玉なら△6八成銀に▲同玉の一手。
    67▲5九玉ならそこで▲同玉か▲同飛か選べる)」
深浦「(69手目▲同玉なら、手を自陣に)戻すんですかね。
    △7三金▲同角成」
加藤「△7六歩」
渡辺「△7六歩なら大丈夫でしょう。
    同玉でしたかねー。同玉の方がよかったですか」
加藤「感想戦、時間(まだ)いいですか?」
司会「大丈夫ですよ」
加藤「70△7三金、指されてみると意外にいい手でしたね。
    ▲同角成は△7七馬で、△7六桂でだめでしたね?」
渡辺「でも本譜よりよかったですかねー」
深浦「72△6六歩が感触いいんで」
渡辺「(▲同歩と)取ると(飛車の)頭叩かれて。
    まあどうやってもまずいんですけどね。
    (69▲同飛の所の)二択が勝負の分かれ目でしたね。
    加藤九段の言う▲同玉がよかったですか。
    まとめると。(笑)」
山田「まとめていただいてありがとうございました」
渡辺「72△6六歩でしびれました」


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