第1回大和証券杯ネット将棋・女流最強戦 決勝
矢内理絵子女流名人−甲斐智美女流二段 08.3.23(日)


写真トップ・左は、優勝カップを受け取る甲斐女流二段。
写真トップ・右は、それを見守る準優勝の矢内女流名人。
写真左は、表彰式での両者。


 わたしを含め多くの将棋ファンが、パソコンに向かいインターネット上で見知らぬ相手との対局を楽しんでいる。
 以前には想像もつかなかったことである。
 昨年にはとうとう、プロ棋戦まで誕生した。
 「最強戦」は一流プロ棋士のトーナメントで、公式戦。
 郷田九段が優勝した。
 その後行われた「熟練居飛車VS新鋭振飛車」、「東軍VS西軍」の団体対抗戦は、非公式戦扱いであったが、解説のチャットも含めて変わらず楽しめた。
 我らが加藤一二三先生も、「熟練居飛車」党の一員として参戦。
 千葉幸生五段の四間飛車に、お家芸の棒銀で勝利。
 クリック・ミスや時間切れの心配も杞憂に終わった。
 日曜夜8時は、パソコンに向かうのが習慣となった。

 昨年11月から、インターネットによる第2の公式戦が開始された。
 「女流最強戦」である。
 精鋭16名によるトーナメント。
 ベスト4進出者が出始めていた2月1日、次のような電子メールが届いた。


■本日より「決勝進出者当てクイズ」開催!

第1回大和証券杯ネット将棋・女流最強戦は、3月23日(日)の決勝戦に向け、
毎週、熱戦を繰り広げています。決勝戦は、東京駅八重洲北口の新しいランドマーク
となった「グラントウキョウ ノースタワー」内の大和証券株式会社・本店にて実施。
当日は、同ビル18階「大和コンファレンスホール」において、ボナンザ戦よりちょうど
1年がたちます渡辺明竜王を迎え、大盤解説会も開催します。
(聞き手は、鈴木環那女流初段)

そこで、決勝対局会場での解説会招待券が当たる「決勝進出者当てクイズ」を開催!
本日より応募を始めます。
決勝大盤解説会の観戦をご希望の方は、下記URLにて「決勝進出者当てクイズ」に
お答えください。決勝対局に決定した女流棋士を選んでいただいた方から抽選で、
150名様をご招待いたします。
応援している女流棋士に会えるチャンス!奮ってご応募ください。


写真は、大盤解説会で対局を振り返る両対局者。


 わたしは矢内女流名人に投票した。
 応援メッセージを書く欄があったので、
 「名人!最強!女王!」と書いた。
 女流名人位戦、大和証券杯、マイナビ女子オープンの三冠制覇の期待を込めた。
 矢内女流名人は、今期勝率8割と絶好調。
 十分その可能性があるものと考えた。
 果たして、まず斎田晴子女流四段を相手に女流名人位を防衛。
 次いで、最強戦、マイナビともに、決勝進出を果たした。
 くしくも、両棋戦とも、相手は甲斐女流二段。
 マイナビ女子オープンの決勝は、4月から5番勝負。
 最強戦が先に行われる。
 こちらは一発勝負である。

 当選はがきが来たので、行くことになった。
 無料である。
 当日。
 午後2時から受付開始、3時から対局。
 「ノースタワー」は、昨年11月にオープンした高さ205mの高層ビルで、下の階が大丸になっている。
 ただ大丸の中のエレベーターでどこまで上がれるかわからなかったので、道路側の大和証券のオフィスに回って、その中のエレベーターに乗った。
 17階までしか上がれない。
 17階は、壁際が18階まで吹き抜けになっていて、大きな窓からの眺望が素晴らしい。
 内側にある高いエスカレーターで18階のフロアに上がる。
 2時半頃だったが、既に大盤解説会場の一室には人が大勢いた。
 案内には150名とあったが、最終的には200人ぐらいいたのではないか。
 優勝者当てクイズがあり、受付で渡された紙に、矢内女流名人と書いて投票箱に入れる。
 正面中央に大盤、その左右に2台ずつ、合計4台のモニター。
 進行はプロの女性司会者。
 黒いスーツの若い男女が会場の整理をしている。
 イベント屋さんであろうか。
 女性は美女揃いである。
 主催の日本将棋連盟米長会長の挨拶。
 次いで特別協賛の大和証券グループを代表して、大和証券SMBCの社長さんの挨拶。
 解説の渡辺竜王、聞き手の鈴木女流初段が拍手で迎えられる。
 大盤の操作係は2名の奨励会員。
 もっともそのうちの一人、田中悠一三段は、4月の四段昇段が決まっている。
 両対局者は、ビル内の別々の部屋でパソコンに向かう。
 対局前、モニターにその様子が一瞬映ったが、動画ではなく静止画像であった。
 その後は、モニターはパソコンで見る盤面をずっと映していた。
 大盤解説も、足元に置かれたモニター画面を見て大盤の駒を動かし、解説する。
 渡辺竜王と鈴木女流初段が話をしている間に、前触れもなく対局が始まり、モニターの盤面ですごい速さでどんどん手が進む。
 のんびりしてたら追いつけない、と焦る竜王。
 持ち時間はチェスクロック方式で30分、なくなったら30秒未満、という規定は決勝も同じ。
 序盤は早指しする。
 先手となった居飛車党の矢内女流名人に対し、後手の甲斐女流二段は、ゴキゲン中飛車から向かい飛車に転換。
 棋譜は大和証券杯のHPで、解説のコメントとともに公開されている。
http://www.daiwashogi.net/index.html
 ただし鑑賞するには会員登録が必要である。
 ここでは解説中のおもしろい話を書くにとどめる。
 大盤解説場の後ろの方にパソコンを開いて座っている人がいて、解説のコメントを入力。
 そこで公開されている話も多いが。
(注・多少はメモも取りましたが、記憶に頼っている部分もあり、表現や話した順序はこの通りではありません。こんな感じだった、というぐらいです。)


鈴木
 ネット対局といえば、昨年「ボナンザ」戦がありましたね。
渡辺
 ネット対局ではないですよ。
鈴木
 あっそうですね。
渡辺
 勝ち逃げします。
 これからやる人は、だんだん大変になるでしょう。
 ソフトはだんだん強くなりますから。

渡辺
 実は第2回最強戦の抽選が行われました。
 1回戦は意外な人と当たりました。
鈴木
 大和証券さんで口座を開くことにしました。
 株のことはわからないのですが、これから本を買って勉強します。
 渡辺竜王もどうですか。
渡辺
 いやあ…じゃあ1回戦で勝ったら、ということで。

渡辺
 最近鈴木さん調子いいですね。
鈴木
 まだ勝率8割です。(笑)
渡辺
 僕は5割くらいですよ。

渡辺
 鈴木さん今度女流王将戦の挑戦者決定戦で、矢内さんと当たりますね。
鈴木
 今日、甲斐さんに矢内女流名人対策を教えてもらいます。
渡辺
 鈴木さんは絶対飛車振らないから参考にならないでしょ。
鈴木
 甲斐女流二段は、居飛車党から振飛車も指すようになりました。
渡辺
 もったいないですね。
 居飛車の方が優秀なのに。
 藤井九段も居飛車党に転向しようかと言ってるくらいで。
 居飛車の方が本筋、昔はそう言っていた。
 今はそんなことは言えなくなっていますが。
 (対局相手の)居飛車党が飛車を振るとラッキー、と思う。
 それで勝てるかどうかは別として。
鈴木
 居飛車党が飛車を振る、というときは、何か秘策を用意している、とは思わないですか。
渡辺
 たとえ用意しているとしても、慣れてないから。
 わたしも慣れていないと思われている。
 だから▲7六歩に△3ニ金とされたりする。

鈴木
 先ほど控え室でものすごい発言がありました。
 渡辺竜王が矢内女流名人を、「僕よりものすごく年上」と…
渡辺
 矢内さんは…28歳ですか?
 僕は23歳ですから。
鈴木
 23歳…そちらが驚きです。
 風格がありますね。
渡辺
 棋士になって長いですから。

渡辺
 (木村美濃について)
 おじさん囲い。
 若い人はやらないから。
 あんまり固くないので、若い人は好きじゃない。

鈴木
 矢内さんには矢倉でぼこぼこにされて、トラウマになってもう矢倉させないかもしれない。

(神吉宏充六段が飛び入り、鈴木女流初段としばらく交代。)
渡辺
 動きがありませんね。
 フリーズしてるのかな。
神吉
 フリーズしたのは画面か、矢内さんか…
渡辺
 「神吉さんが来ている」とカンペが出ていて、(神吉六段に話をさせるために)指さないで待っているのかもしれない。
 気を使う方だから。

(50手目△8五桂)
神吉
 ボナンザみたい?
渡辺
 ボナンザなら自玉を薄くするような手は指しません。
神吉
 研究してるやん。
渡辺
 負けたら将棋連盟にいられませんから。
 150人くらいのプロ棋士みんなに迷惑がかかる。
神吉
 もう1回やれと言われたら?
渡辺
 お金次第ですけどね。(笑)
 
(65手目▲3五歩)
神吉
 「森田将棋」のような手やね。

(「投了」時の「ピコッ」という音に)
鈴木
 この音が悲しいですね。


 残念ながら、わたしの希望もむなしく、矢内女流名人は敗れてしまった。
 終局後、両対局者が大盤解説会場に現れ、感想戦。

矢内
 (35手目)▲3七桂が早すぎました。
 (そのせいで)▲6六歩と突けなかった。

渡辺
 (65手目)▲3五歩ですが、神吉六段は「森田将棋のような手」と、よくわからないたとえでしたが、▲9四歩でしたか。
 いやみをつけないといけない。

 最後は株の話をしているときに時間となり、締まらない終り方だった。


左から、甲斐女流二段、大盤操作係の田中三段、解説者の渡辺竜王。


 解説陣は退場し、表彰式。
 優勝の甲斐女流二段は賞状、優勝カップ、賞金(目録)を受け取る。
 賞金の目録がなぜか妙に大きくて、客の笑いを誘う。
 準優勝の矢内女流名人にも賞金。
 こちらは普通の大きさの目録。
 それから両者に、何でも希望の好きなものが賞品として与えられる(と、確か言っていたはず)。
 物が何か、上限はあるのかは発表されず。

 将棋連盟女流棋士会の谷川治恵会長、次いで優勝した甲斐女流二段の挨拶。
 谷川女流四段は、以前から大和証券で株取引をしているとのこと。
 甲斐女流二段の挨拶は、大和証券杯HPの棋譜のコメント欄に載っている。
 最後に、優勝者当てクイズ当選者の抽選。
 賞品は、甲斐女流二段との記念写真とのことで、すぐ撮影するらしく、当選者と甲斐女流二段はその場に残って、他は散会となった。

 解説会の途中から、女流の方がいらして解説を聞いていた。
 関根紀代子女流四段、古河彩子女流二段、船戸陽子女流二段、安食総子女流初段。

 解説会場は飲食禁止で、その代わり隣の部屋にお茶やコーヒーやお菓子が用意されていて、無料で飲食ができる。
 もっとも解説の途中で抜ける人は(たぶん)いず、表彰式の前の少し空いた時間だけの利用となった。

 帰る際、出口に鈴木女流初段が立って、客に挨拶をしていた。
 これはおととしの王座戦の解説会のときと同様である。
 渡辺竜王も言っているが、そのファンサービスの姿勢には頭が下がるし、その上最近は将棋も強くなっていてすばらしい。
 客の証しのリボンを回収されたが、その係だけなぜかイベント屋ではなく、飯野愛育成会員がやっていてびっくりした。
 はっきり覚えていないが、この時点で5時過ぎぐらいだったと思う。
 この日は千秋楽であったが、よって相撲は見られなかった。

 将棋は一方的な内容で、しかも応援している矢内女流名人の負けだったので、その点は不満だったけれど、解説はおもしろくてよかった。
 甲斐女流二段は、奨励会で1級まで上がった、ということで、特に男性プロ棋士の評価が高いようだ。
 最近調子がよい、というよりは、地力を発揮し始めた、ということか。
 他のタイトル戦への登場、獲得も期待される。
 早速は、マイナビ女子オープンである。
 しかし、こちらは矢内女流名人に雪辱してもらい、初代「女王」の称号を勝ち取ってもらいたい。
 と、個人的には思う。


{追記}
 書くのを忘れていたが、この日は午前中に、NHK教育テレビで「NHK杯出場女流棋士決定戦」が放送された。
 タイトル保持者3人によるトーナメント。
 矢内女流名人は、石橋幸緒女流王位に勝ち(ただしこの対局はダイジェスト放送)、次いでシードの清水市代女流王将・倉敷藤花と戦ったが、残念ながら敗れ、NHK杯本戦トーナメント出場はならなかった。
 いつものNHK杯と同じく、棋譜読み上げは甲斐女流二段。
 また、解説者は渡辺竜王で、奇しくも午後の大和証券杯の役者が揃っていた。
 女流の将棋を堪能した一日であった。



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