第15回富士通杯達人戦 決勝戦 有楽町・朝日ホール マリオン
加藤一二三九段−谷川浩司九段 2007.9.1


写真トップ・左は、対局前に駒を並べる両対局者。
写真トップ・右は、終局直後の様子。
写真左は、対局前のインタビューの様子。

 昨年と同じカードになった達人戦の決勝。
 リベンジを果たしたい加藤九段に、初の4連覇を狙う谷川九段の対戦。
 昨年に続き、はがきを出したら当たったので、公開対局を見に行った。

 マリオンはJR有楽町駅のすぐそば、映画館などのある大きなビル。
 朝日ホールは11F。エレベータは途中にほとんど止まらないので早い。
 開場は12時。15分ぐらい前に行くと、既に30人強の行列。
 じっと待つ。時間になると、4列の行列は隊伍を組んだまま、階段を上がる。
 受付が4箇所。受付後、隊伍は乱れ、我先と会場へ急ぐ。
 席は700弱。前から2列目の真ん中に陣取る。
 後は荷物を席においてうろうろする。
 ロビーには小さなコーヒーショップがあって、サンドイッチも売っている。
 棋士のサイン本や、せんすを売るコーナーも設けられていた。
 
 13時、開演。司会のフリー女性アナウンサーは昨年と同じ。
 まずは主催者より挨拶。

将棋連盟・米長会長
 イエス様のお告げがあったか、一人が背広を着てきた。
 もう一人も合わせたため、達人戦の決勝では初めて、和服ではなく洋服での対局となった。
 対局に専念するということだろう。
 加藤さんは先週、公式戦1000敗を達成した。
 谷川君は今後1300勝を目指すか、1000敗を目指すか、人生設計をよく考えるよう言っておく。
 (注・冗談なのだろうが、加藤先生にも谷川九段にも失礼なように聞こえた)

週刊朝日・山口編集長
 達人戦が掲載されている間は、部数が少し増える。
 加藤先生の1000敗について、来週の週刊朝日で記事を掲載する。

 ついで、スタッフが一人一人、紹介されながら登場。
 読み上げ・船戸陽子女流二段
 記録・村上友太初段
 観戦記担当・東公平記者
 スクリーン盤面操作・望月陵初段、山下祥1級
 解説・中原誠永世十段
 聞き手・斎田晴子倉敷藤花
 最後に両対局者が登場。
 司会者がインタビューする。

中原 (谷川について)準決勝で、大阪まで行って負けた。
    谷川さんはわたしとやると調子がよくなる。
    わたしも大山さんとやると、そういうことがあった。
 :
司会 今日は洋服での対局ですが?
加藤 いつものように。

 加藤先生は質問にすぐ答えず、しばらくうなずくだけ。
 やっと出た返答もこれだけであった。
 既に戦闘モードに入っており、あまりしゃべりたくないように見えた。
 
加藤 (達人戦について)こういう棋戦があるということは本当にありがたいことで、
    こういうことで勝ち星も負け星も増えていく。
    (これを聞いて中原も笑いを隠せず)

 司会者に両対局者の印象を聞かれ、そつなく答える斎田倉敷藤花。
 解説の中原永世十段についても聞かれると、予想に反したのか何なのか?
 しばし絶句して、会場の笑いを誘っていた。

 船戸女流二段が振り駒。
 谷川九段の振り歩先、と金3枚(1枚駒が立った)で加藤先手に。
 昨年に続き、座布団、駒台をくるくる回して、気に入る置き方を捜す加藤先生。
 盤の位置も微妙に直す。
 腕時計をはずし、畳の上に置く。
 対局開始。
 30秒将棋で持ち時間15分+1分×10回の考慮時間。NHK杯と同じ。
 壇上、中央から左にかけて対局場がしつらえてある。
 右側には解説用の大型スクリーン。
 客席最前列で奨励会員が操作するパソコンの画面が投影される。
 解説と聞き手はスクリーンの横に立ってしゃべる。

中原 加藤さんはゲンを担ぐ方じゃないか。
    わたしとの名人戦で、ずっと同じ背広、同じネクタイだった。
    もしかしたら(ネクタイは同じものが)3本くらいあるのかもしれないが。
    終わりの方はズボンが擦り切れそうになっていた。

 加藤先生の対局を生で見るのは3回目だが、今回初めて「あと何分?」を聞いた。
 (背広といい、今回の対局に対する気合の表れではないだろうか?)
 ただし、そんなに頻繁ではない。
 記録係が答えたり、読み上げの船戸さんが答えたりしているが、どちらも答えていないように思える場合もあった。
 ただし加藤先生も聞き返したりしていなかったので、必ずしも返答がなくてもいいのかもしれない。


写真は、中原永世十段と斎田倉敷藤花による大盤解説の様子。

 終局後、スクリーンのところで感想戦。
 加藤先生も疲れたからか、無念だったからか、あまり元気がなかった。

中原 こういう将棋も研究しているんですか?
加藤 研究というか、ちょっと見たという感じですね。
  :
中原 優勢だと思ってたんですか?
加藤 十分だと思ってました。
    だって十分じゃないですか!
中原 楽観派ですね。僕は悲観派だから…
加藤 楽観派だから、負けても平気なの。

 間をおかず表彰式。
 優勝者には賞状と賞金・賞品(PC)、準優勝者にも賞金が贈られた。
 挨拶は優勝者のみ。

谷川 3人で感想戦をしたが、加藤先生と中原先生の掛け合いについて行けなかった。
   盤外のパフォーマンスではまだかなわないので、当面は盤上でがんばりたい。

 対局者・解説陣が退場後、プレゼント当選者の発表。
 パンフレットに記された番号で当たる。
 両対局者のせんす(昨年はサイン色紙だった)、将棋年鑑など。 

 棋譜と解説が9/11、18日発売の週刊朝日に掲載されるほか、
 囲碁将棋チャンネルで 10/20放送予定とのこと。

 昨年同様、下の階に打ち上げパーティーの会場があり、入り口から中が少し覗ける。
 帰る客の目に入る所で、これ見よがしにやるのはどうか、と思ったのも昨年同様。


棋譜
コメントは基本的には中原永世十段の解説。
名前とカギ括弧付は、感想戦でのコメント。

先手▲加藤一二三九段 後手△谷川浩司九段

1▲7六歩
2△3四歩
3▲2六歩
4△5四歩
5▲4八銀
6△5五歩
7▲6八玉
8△5ニ飛
9▲5八金右
10△6ニ玉
11▲7八玉
12△7ニ玉
13▲6八銀
14△3三角
15▲4六歩
16△4ニ銀
17▲4七銀
18△8ニ玉
19▲7七銀
20△7ニ銀
21▲3六銀 これは最新の形。こういう形は研究
        していないと思ったが。やっぱり
        どっかで勉強しているのですね。
22△5六歩
23▲同歩
24△同飛
25▲4七金
26△5一飛
27▲4五銀
28△3ニ金
29▲3六歩
30△2ニ角
31▲3四銀
32△9四歩
33▲9六歩
34△6四歩
35▲2五歩
36△3三銀 放っておくと▲2四歩△同歩▲同飛。
        △1ニ香もなきにしもあらず。
37▲同銀成
38△同角
39▲5六歩
40△6三銀
41▲3七桂
42△7ニ金
43▲4五歩
44△7四歩
45▲7九角 
46△7三桂 ここで△7五歩▲同歩△7六歩▲8八銀
        △7三桂▲3五角△6五桂▲6八金は
        先手つぶれないか。
47▲3五角 ▲2四歩△同歩▲同角は
        △2七歩▲同歩△3八銀。
48△4ニ金 ▲6ニ銀の防ぎ。
        ▲6ニ銀なら△5四飛。
49▲6八金
50△6五歩
51▲4六角 利いてる駒は動かさない方がいい。
        皆さん(客)も覚えておいて下さい。
        加藤さんは知らないのかな?
        斎田・そんなこと言ったら、悪い手を指した
           のかな、って(加藤が)思っちゃう…
        (中原の酷評が加藤の耳に入るのを心配。
         もっともなことで、失礼千万な話。
         こんな人が大きな顔をしているのは、
         同県人として恥ずかしい限りである)
        中原「角を動かさない方がよかったのでは」
        谷川「△7五歩を狙っていたので、
            引かれると行きにくい」
52△5四飛 ▲3四銀の防ぎ。
53▲5八飛
54△5一飛
55▲3五角
56△6四銀打 △7五歩が狙い。以下
         ▲同歩△7六歩▲8八銀△7五銀。
57▲5五銀
58△7五歩 △5五同銀なら▲同歩△同飛
        ▲同飛△同角▲5一飛△5九飛。
        どちらもこわい。△7七角成で
        5一の飛を素抜く手がある。
59▲同歩
60△同銀
61▲7六歩
62△8四銀 加藤「こっちに引かれる手を軽視していた」
63▲4四歩
64△5四歩
65▲4三歩成
66△同金
67▲4四歩
68△3四金
69▲2六角 中原「▲4三歩成はなかったか」
        加藤「▲2六角の方が固いと思った。
           (▲4三歩成の後の展開は)
            多分わたしの方が悪い」

写真は、米長会長から表彰を受ける加藤九段。

70△4一飛
71▲4六銀
72△4四金
73▲4五歩
74△4三金
75▲5五歩
76△同歩
77▲同銀
78△5四歩
79▲4四歩 ▲4六銀なら△7五歩▲同歩
        △7六歩▲8八銀△7五銀。
80△5五歩 普通に△4四同金の方がよかったのでは。
        谷川「中原先生が後手いい、と言っている
           のが聞こえた。でも間違えましたね」
        加藤「△5五歩と銀をとってもらった
            のはありがたかった」
81▲4三歩成
82△同飛
83▲4五歩 自分なら▲4六歩で将来▲4五桂とはねたい。
84△6四銀打
85▲3四金
86△4一飛
87▲4四歩 欲張った手。▲3三金△同桂▲3ニ角
        の方がよかったか。
88△7五歩
89▲4三歩成 中原「▲4五桂△2ニ角▲4三歩成
             この方がよかったか」
90△7六歩
91▲8六銀 加藤「同銀もあるんだけれども」
        中原「▲7六同銀△7五歩▲4二歩
           この方がよかったですか」
        加藤「そうかもしれない」
92△5六歩
93▲4四金 加藤「▲4四と、だったか」
94△同角
95▲同と
96△7五銀右
97▲5六金
98△8六銀
99▲同歩
100△7七歩成 谷川「歩成りもいいのか悪いのか」
101▲同金    加藤「▲同玉の方がよかったか」
102△4七銀
103▲5七飛
104△3六銀成
105▲4ニ歩
106△5一飛
107▲5ニ歩 うっかり▲1五角なら△4六成銀。
108△8一飛 △5ニ同飛なら▲6一銀。
         谷川「△3一かと迷った」
109▲5三と
110△2六成銀
111▲6三と
112△同金 
113▲4四角 ここで1歩あれば▲7四歩で必勝だが。
        中原「▲7四銀△同金▲6三角△7二金
            ▲7四角成△6三銀▲6四馬
            △同銀▲7四金 この方が?」
114△4八角 この角で後手がよくなった。
115▲7一銀
116△同飛
117▲同角成
118△同玉
119▲3一飛
120△8ニ玉
121▲5八飛
122△3七角成
123▲7一銀 ▲7一飛成は△7ニ金で
         大したことがない。
124△7ニ玉
125▲2一飛成
126△3六馬
127▲5七金 飛車を逃げると△6九角が早い。
128△5六歩

まで後手・谷川九段勝ち。


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