第54期王座戦第1局  現地大盤解説会 
於 横浜ロイヤルパークホテル 2006.9.7


 17時からだったが、仕事があったため、19時過ぎに到着。解説は先崎学八段、聞き手は鈴木環那女流初段。客は100人ほどか。受付の奨励会員は目の前に客が来ても何も言わない。恐ろしく無愛想であった。
 会場には大盤のほかにモニターがあって、実際の盤面を映している。解説者用にも1台あって、それを見ながら大盤を動かす。
 19時半過ぎ、新聞観戦記の解説担当・森内名人と、インターネット中継の解説担当・瀬川四段が来て、一時大盤解説を交代する。
 森内名人は、意外に話術が軽妙。佐藤棋聖の差し手が独創的で控え室の予想が誰も当たらないことについて、森内名人は
「高尚過ぎて、わたしにはついていけない。そのくせ本人は『誰も差し手をまねしてくれない』と言っている。」と言って客を笑わせる。
 20時頃、80手目△3四歩まで進んだところで、次の一手を出題。解説会は休憩に入る。
 20:20頃、立会人の加藤九段が登場。「無理を言ってお出ましいただいた」と司会。次の一手の解答発表、当選者の抽選(色紙やせんすがもらえる)から、しばらくの間解説を行う。聞き手はなしで、大盤操作を二人の奨励会員が行う(NHK杯の記録でおなじみの許さんと、受付をやっていた名前を知らない人)。
 先崎八段が帰ってきて、しばらく二人で解説。鈴木女流初段も戻り、加藤九段は退場。後は終局まで、先崎・鈴木の両人で解説。
 22:30過ぎ頃、終局。その後、対局者の二人と立会人が大盤解説会の会場へ来てくれた。憔悴しきった二人の様子に驚く。プロの将棋とは、これほど過酷なものなのか…見ていて痛々しいほどであった。

鈴木 どこがポイントですか?
羽生 加藤先生どうですか?
(自分で考えて答える元気もなかったようで、立会人の加藤先生に話を振る)
加藤 50△8ニ銀が予想にない手でした。
羽生 悪い手でしたね?
加藤 意味不明でした。(笑)
羽生 (50△8ニ銀のところでは)何をやっていいかわからなかった。
加藤 △5四歩は。
羽生 あー、こう突くんですかー。(と言いつつあきらかに気乗りしない様子、で一同笑)
佐藤 (81▲2六金に対し)金を取られる(82△同歩)のをうっかりしていた。

 検討が始まり、いつの間にか加藤先生の指示で両対局者が大盤を操作することに。疲れきっているので駒を落っことしたりしている。司会が早く切り上げるよう加藤先生に言ったようで、まとまらないまま打ち切りとなった。

 散会後、聞き手の鈴木環那女流初段が、出口のほうに走って行く。用事があって早く帰りたいのかなあ、と思ったのだが、さにあらず。出口のところに立って、帰る客の一人一人に「ありがとうございました」と挨拶をしていた。わたしは握手もしてもらった。
 解説でも、はきはきと歯切れのよいしゃべりに加え、よく手も見え、先崎八段の気づかない手も指摘していた。才色兼備、その上に客に対するこのサービス精神。彼女は故・原田泰夫九段の最後のお弟子さんと聞く。よってここに、「原田イズム最後の継承者」の称号を贈り、手の感触とともに長く心に留めたい、とわたしは一人で思ったのであった。

先手:佐藤康光棋聖
後手:羽生善治王座 (王位王将)
1▲7六歩 2△3四歩 3▲6六歩 4△3二飛 5▲7七角
6△3五歩 7▲8八飛 8△8二銀 9▲4八玉 10△6二玉
11▲6八銀 12△5二金左 13▲5六歩 14△4四歩 15▲4六歩
16△4二銀 17▲5七銀 18△4三銀 19▲5八金左 20△7四歩
21▲4七金 22△7二金 23▲3八玉 24△1四歩 25▲2八玉
26△1五歩 27▲1八香 28△2四歩 29▲1九玉 30△3三桂
31▲2八銀 32△2五桂 33▲3八金 34△3四銀 35▲6五歩
36△7三銀 37▲9六歩 38△9四歩 39▲8六歩 40△7一玉
41▲6八飛 42△3三角 43▲9七桂 44△1三香 45▲4八銀
46△1二飛 47▲3九銀左 48△6二金左 49▲6六角 50△8二銀
51▲4五歩 52△1六歩 53▲同 歩 54△4五銀 55▲2六歩
56△1七歩 57▲同 桂 58△同桂成 59▲同 銀 60△5四銀
61▲8五桂 62△2五歩 63▲2八銀上 64△6五銀
65▲5七角 →▲8八角なら△7六銀として、△8五銀▲同歩△7六桂
        の飛角両取りが後手のねらい。
66△7六銀 67▲5五桂 68△1五歩 69▲同 歩 70△3四桂
71▲6四歩 →次の一手。予想は瀬川▲4三桂成、森内▲2五歩だった。
72△同 歩 73▲3五角 74△1六歩 75▲同 銀
76△2六桂 77▲6三歩
78△5二金 →△同金なら▲同桂成△同金▲2三金で飛角両取り。以下は加藤先生の解説。
        難解な将棋で、ぱっと見優劣不明です。研究すれば別かもしれないが。
        (これまで先崎、森内は「佐藤有利」という感じの話し方だったが)
        後手は、いい時期に△8五銀▲同歩△7三銀と玉を広くするのが狙い。
        ここでぱっと浮かぶのは▲2四歩。対して△2ニ飛なら▲2五銀。
        △3八桂成なら▲同飛△2ニ飛▲3四桂△2一飛▲4三歩△8五銀
        ▲4ニ歩成△7三銀▲5ニと△2六桂▲8八飛で先手一手勝ち。
        △1五香なら▲同銀△1八香成▲同玉△1五飛▲1六歩で、
        △同飛なら▲1七香だが、△1三飛と引かれ、
        後手に△8五銀以下の楽しみがある。
79▲2七金
80△3四歩 →△8五銀が予想だったが。
81▲2六金 →非常手段。してみると佐藤棋聖が悪いか。
         ここで先崎八段が復帰。先崎「すごい手ですね」
         加藤「これ大丈夫?」加藤先生退場。以下は先崎八段の解説。
82△同 歩 →△3五歩(角を取る)なら▲2五銀。これもある。
83▲同 角
84△7三桂 →△8四歩もあった。▲7三歩なら万々歳。図々しすぎるか。
         △3五桂がきびしいので先手は受けなければならない。
         鈴木女流初段「▲4八金は。」一番いい手かもしれない。
85▲3六歩
86△8五桂 →△8一玉かと思ったが。羽生さんの好きそうな手なので。
87▲同 歩 88△2五歩 89▲同 銀 90△1五角
91▲同 香 92△同 香 93▲1六歩 94△同 香 95▲同 銀
96△同 飛 97▲1七銀 98△1四桂 99▲1六銀 100△2六桂
101▲2七銀 →▲2一飛なら△5一香▲2六飛成△5九角が後手の狙い。
                      ▲6一角は詰めろのようで違う。
102△1七歩 103▲1一飛 104△5一香 105▲1七飛成
106△1八歩 107▲2九玉
108△5九角 →鈴木女流初段の予想手。
109▲9八飛
110△3七銀 →△3七金では後手危ない。
111▲4九桂 112△8七銀成 113▲5八飛 114△4八金
115▲3七金 →▲5九飛なら△3八金以下詰み。
116△5八金 117▲2六銀 118△4九金 119▲1八玉 120△4五桂
121▲2七金 122△3九金
123▲2八銀 →どうだったか?
124△7八飛 125▲6九香 126△3八飛成
127▲4七角 →客が当てた手。
128△同 龍 129▲3九銀 130△7三銀
131▲7六桂 132△5八龍 133▲4八歩 134△6九龍 135▲8四桂打
136△同 歩 137▲同 桂 138△8六角成 139▲7二桂成 140△同 玉
141▲8四金
142△同 銀 →△3九龍なら▲2八龍で後手困る。
         (鈴木女流初段の指摘した手で、先崎八段は読み筋になく、
         いたく感心していた。)
143▲同 歩 144△7一桂  まで144手で後手の勝ち。

おわり
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