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第19期竜王戦第5局 大盤説明会 於 将棋会館(解説・加藤一二三九段) 2006.12.7 |
将棋会館の大盤解説会に行くのは2度目。 (この日全体の行動については「ふじもとでうな重を」のページをご覧ください。) 解説者はもちろん、我らが加藤一二三九段。 前回(名人戦)は正直、言いたい放題の感もあった 先生でしたが、今回は差し手の解説が中心でしたので、 このレポートもそのようにしました。 雰囲気が少しでも出るといいのですが… (わたしのメモに基づき構成した以下の文章は、 加藤先生のおことばを一字一句、忠実に再現した ものとはなっていないことをお断りしておきます。 なお、下の方にこぼれ話をまとめてあります。) 先手▲佐藤棋聖 後手△渡辺竜王 1▲7六歩 2△8四歩 3▲2六歩 →6八銀なら矢倉。昔はタイトル戦では 矢倉が多かったが、今は少ない。矢倉 は先手でも後手でも戦えるので、先手の 良さが出ない(→先手が避ける)からか。 4△3ニ金 5▲7八金 →ここでも6八銀なら矢倉。 6△8五歩 7▲7七角 8△3四歩 9▲8八銀 10△7七角成 →4四歩も有力 11▲同銀 12△4ニ銀 (13-16端歩の突合いについて) 13▲9六歩 端歩の意味を説明すると、15分 14△9四歩 くらいかかるので略。わたしなら 15▲1六歩 こんな序盤で突く気にならない。 16△1四歩 突かなくったって指せる。 17▲4八銀 18△7ニ銀 19▲4六歩 20△6四歩 21▲4七銀 22△6三銀 23▲6八玉 →(ろっぱちぎょく、と発音) 24△5ニ金 25▲5六銀 26△5四銀 27▲4五銀 →考慮9分で指した。作戦でしょう。 ▲5八金、△4四歩なら定跡。 丸山さんが名人戦で用いて勝ち、名人 になった。なかなか思いつかない手。 △同銀▲同歩の後▲4八飛と回って、 ▲3八金と上がるのが丸山流。▲5八金 なら△3九角▲3八飛△2八銀がある。 28△5五銀 →72分考えた。 29▲3四銀 30△4六銀 31▲4八飛 32△5五銀 →どちらの銀が働きがよいかわからない。 33▲7九玉 手将棋、力将棋になった。 34△6五歩 35▲5八金 36△8四飛 37▲4五銀 38△4四歩 →ふんわりと穏やかな指し方。すぐ △3三桂とはねれば▲3六銀と引くか。 △3五歩と打てば(次に3三桂の狙い) ▲5六歩。 39▲3六銀 →手損のようだが、何れこの銀は活躍 できる、と佐藤さんは読んでいる。 40△4三銀 41▲8八玉 42△4ニ玉 43▲6八金右 44△3三桂 →先手玉は固い。9筋の端の突き合いが 得になっている。大抵の棋士なら互角 と見るだろう。腰掛銀は下手すると あっという間に終わってしまうが、 本局は面白くなっている。 45▲1七香 →53分考えて、誰も当たらない難解な手。 一言で言うと手待ち。巧手妙手を2,3手 指さないとタイトル戦では勝てない。 この手もうん、とうなる手。実はこれが よかった。ここで竜王の手が難しい。 △3四銀、2四歩はあり得る。△3一玉 は端攻めが怖いが、あるいは本手か。 46△4五歩 →疑問手? 47▲1五歩 (封じ手)
タイトル戦の初日は、面白くない局面なら
さっさと寝てしまった方がよい。 昭和43年の十段戦第4局では、面白い局面で 読めば読むほど効率が上がる状況だった。 7時から12時まで5時間、頭の中で考えた。 (一般に棋士は盤駒を持っていない。 いけないことはないんですが、頭の中で 考えても同じことですから。) 翌日、盤の前で2時間、合計7時間考えて、 6ニ歩という妙手を指した。 この手は棋士はみんな知っています。 「ああ加藤のあの手か」と言います。 48△同歩 49▲5六歩 →取れば▲5七歩。△4四銀 なら▲1三歩△同香▲5七角 これで技あり。佐藤棋聖が うまく手をつくった局面。 50△3五歩 51▲同銀 52△3四歩 53▲5五歩 54△3五歩 55▲5四歩 →△同歩は▲7五角で終わり。 △同銀ならすぐはつぶれない。 56△同飛 57▲5八飛 →飛車交換は後手よくない。 4八飛のままだと△5九銀が あったが、手順に避けられた。 58△2四飛 59▲7ニ角 60△9三桂 →後手、飛が成っても先手玉が 固いので攻め合いに行かず。 61▲6三銀 →△5一金なら▲5四歩 △同歩▲同銀成△同銀 ▲同角成で後手つぶれ。 62△5四銀打 63▲5ニ銀成 64△同銀 65▲6四金 →意外と思い浮かばない手。狙いは ▲4四歩△同飛▲5四金△同歩 ▲同角成。△6三銀と打つと ▲5五歩で困る。以下△7ニ銀 ▲5四歩△同歩▲4四歩△同飛 ▲5四金△2四飛▲5三銀打。 66△4三金 67▲2五歩 68△同桂 69▲5五歩 70△同銀 71▲同飛 72△6四飛 73▲5九飛 →▲8一角成だと△8六歩から王手飛車 の筋を狙われるので飛車をどいた。 気付きにくいがうまい手。これで攻め が続いた。飛車がどいて5五銀打が できる。佐藤棋聖は攻めの気風なの で、攻めの手は見え易い。 74△4六歩 →△4四銀打(プロの第一感)なら、 ▲8三角成→▲7三馬引なので 受けてる場合じゃないと。 75▲4五角成 76△4七歩成 77▲5五馬 78△1四飛 →△8四飛なら▲1一馬と 香を取られる。次の差し手、 ▲1五香△同飛▲4四歩は△5四金 で忙しい。▲2六銀も85点の手。 79▲4四歩 →ほんとに一番いいのかはっきりしない。 (局後「悪くなかった。」) 80△同金 81▲1五香 →△同飛と取れば▲4四馬なので 82△2四飛 83▲1一香成 84△5五金 85▲同飛 →わたしの棋風だと第一感△5四銀。 86△8六歩 →反撃。▲同歩なら△8七歩。 ▲同玉なら△8五歩、 ▲同金なら△4六角。 87▲3五飛 →わたしの直感なら、芸のない手。 あんな1歩取ってどうするつもり? 大丈夫かな? 普通なら▲4四歩△同飛▲4五香 88△3四銀 89▲6五飛 90△5七と 91▲同金 92△8七歩成 93▲同金 (ここまで解説して「これが現局面です」 とおっしゃったのが18:00頃) 佐藤さんの狙いは▲1五銀▲4四金▲6ニ飛成。 渡辺竜王の狙いは△6九角△8六歩△1四飛。 △6三歩は絶対指さない。▲1五銀で困る。 94△8六歩 95▲同金 96△8五歩 97▲8七金 |
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98△1四飛 (ここで「次の一手」出題)
候補手 ・ ▲1七歩 ・ ▲1五歩△同飛▲1七歩 ・ ▲6ニ飛成は危険。 ・ ▲4八香△4四歩▲6ニ飛成△6一金▲6四竜 ※次の▲4四竜が厳しい。 ▲4八香が△1八飛成を王手にしない攻防の手。 ・ ▲1五歩△同飛▲1七香△1六歩 ▲6ニ飛成△6一金▲6四竜 ※何れにせよ、金を打たせて竜を 4段目に引くのが非凡な着想。 (と、自画自賛!) 99▲1七歩 ※正解者は2名だけ。うち一人は何とわたし! 賞品の竜王戦記念扇子を先生からいただき、 喜んでいたのだったが… (局後) ▲1七歩が敗着か?受け一方の手。 ▲1五歩△同飛▲4八香△4七歩(または4四歩) ▲6ニ飛成△6一金▲6四竜 で佐藤勝ちか。 ▲1七歩に△1一飛と成香を取るのは▲3六香が ある。△8六香が詰めよじゃないので ▲3四香と銀を取って詰めよ。 100△8六金 →▲同銀なら△同歩▲同金△6八角 101▲2一成香 →逃げた手でしょうね。 ▲2ニ銀なら△2四角▲4四金。 102△6四歩 →好プレイ。 103▲同飛 104△5五角 105▲4三歩 →△同銀引なら▲1四飛。 △同銀上なら▲6ニ飛成。 △同玉なら▲4四歩△同角か。 106△3三玉 →大詰め。大接戦。どちらが勝ちか わからない。▲6ニ飛成なら △6九角でいけない。以下、 ▲7八香△8七金▲同玉△8六歩 ▲同銀△8八金▲9七玉△7八角成 107▲6六香 →△6四角なら▲同香、 △6九角なら▲7八銀で自信がない。 △1七桂不成→2九桂成→1八飛成 と玉の上部開拓が狙い。 △4三銀は歩を払うのは一手の価値 はあるがもっと厳しい手を狙いたい。 棋聖の狙いは▲3五銀、△同銀なら 1四飛を取る。 △6三歩は▲6五飛で後手を引く。 △6九角▲7八銀△8七金▲同玉…? △1七桂不成▲2五歩△2九桂成は ▲2ニ銀△4三玉▲4四歩△同角 ▲同飛△同玉▲3三角△4五玉 ▲4六金打△5四玉▲5五金△4三玉 ▲4四金△3ニ玉▲3一成香で詰み。 108△6四角 109▲同香 110△2四玉 →桂があると▲3六桂からあっという間に 詰むが、ないと難しい。△4ニ角なら ▲3三歩、△2ニ銀なら▲4四角 △4四銀なら▲4八飛 111▲8六銀 112△同歩 113▲同金 →後手は指したい手が沢山ある。 △6八角、△5九飛、 △2八飛▲5八歩△2九飛成 厳しい攻め、7九角を狙いながら 1七飛成で入玉も狙える。 (…と言ってる内に棋譜が来て) 114△2八飛 →と打ちましたよ、竜王さすがに。 115▲5八歩 116△2九飛成 →▲4四銀(詰めよ)△3三歩▲5一角 △4一桂と取った桂でこの受けがあり、 詰めよが続かない。 117▲4四金 →詰めよ。工夫した。 △3三歩は▲3四金があるからだめ。 △同玉なら▲5六角で王手竜取り。 (※△同歩は詰むらしい) 118△3七桂成 →これしかないと思っていたら来た。 22歳で若いが好判断、落ち着いている。 119▲3四金 120△2五玉 →▲1六銀は△同飛と取られる。以下 ▲同歩△同玉▲3五飛△2七玉。 考えられるのは▲3五銀 (金だと上がられる)。以下 △1七飛成▲2六銀打△同竜寄 ▲同銀△同玉▲4四角△2七玉 ▲2六飛△3八玉▲2九飛成△同玉。 捕まらないので棋聖負け。後手の攻め は△7九角▲9八玉△7四桂で必至。 時間があれば即詰みもあるだろう。 現局面では竜王が勝ちだと思ってます。 棋聖の寄せが、常にちょっとずつ ずれている。ピントが甘い。 121▲2七歩 122△1七飛成 →△同成桂なら王手竜取りがあり、 △同竜なら先手玉が安全になった。
123▲2六銀 →△同竜▲同歩△1六玉
飛角金銀歩ではどう見ても寄りません。 ▲1八歩△2七玉▲1七飛△2八玉 寄らない。入玉には独特の感覚がいる。 得意な人もいるが、わたしは下手。 している内にいやになってくる。 124△同竜 125▲同歩 126△1六玉 →△3六玉なら▲4五角で詰まされる。 △同玉も危ない。 127▲1ニ飛 →△1五歩▲3三角△2四桂▲同金 △同歩▲同角成なら、△7九角 ▲9八玉△8八金△9七玉▲7八金 △8七玉▲8八角成まで詰み △1五歩▲同飛成△同玉▲1七銀 →△7九角▲9八玉△7八飛以下詰み →△7九角▲7七玉△6八銀▲6六玉 △5七銀不成▲同歩△6五歩▲同玉 △5四銀▲6六玉△8八角成▲7七桂 △6五金まで詰み 竜王の勝ちが確定。(※と断言。) 棋聖は絶好の勝ちを逃した。 この将棋は誰が見たって佐藤勝ち、 その前提で控え室でも話し合って いた。この負け方は大きい。 竜王は強気で自信家だから 「こんなもんでしょう」と言う かもしれないが。大きい勝ち。 時間切れじゃない限り勝つ。 128△1五歩 129▲3九歩 →△同竜なら▲1八銀 130△6八銀 →わたし達(プロ)ならすぐ打てる手。 先手は依然、捕まりやすい玉。 131▲3三角 132△2四桂 →桂を打てるのが大きい。 133▲9八玉 →▲2三金から▲2四角成もあるが。 △7九角なら▲7八金がきく。 134△2七玉 →2四に桂を使わされたため、 △7四桂がきかない。 135▲5五角成 136△3九竜 137▲1九歩 →詰めよじゃない。 後手はこれを取る手もあった。 ここで▲1五飛なら、△1七歩 ▲1九歩△同竜▲4七金△3六歩 こっちの方が長引いたか。 138△7八銀 →詰めよ。 139▲1八銀 140△3八玉 →竜王必勝。(終局まで)5分もしない。 ▲8八金なら△8九銀不成▲同金で △3六歩。これで完全に安全。 いざとなればこの手を見ている。 141▲2九金 →△同竜▲同銀△同玉で、 →▲3七馬なら△8七銀▲同金△同銀成 ▲同玉△6九角▲7八桂△8六歩 ▲同玉△8五歩▲7五玉(引けば金金) △7四金▲6六玉△6五金まで →▲8八馬なら△6九角▲4九飛 △3八玉▲6九飛△同銀直不成で 次に△7九銀打ち。 142△同竜 143▲同銀 144△同玉 145▲3七馬 146△9七銀 まで後手勝ち 以下は▲同玉△8五桂▲9八玉△9七金▲同桂 △8九角▲8八玉△7七桂成まで詰み。 入玉は前方(敵陣)に味方の駒が多いほどよい。 一番いいのはと金。取られても歩だから。 普通は2枚いる。本局は3七成桂1枚で安全に なった。118△3七桂成で竜王は愁眉を開いた、 と思います。 この将棋はこんなに途中で逆転するとは思わなかった。 勝負は勘所があって、決めるところで決めないと。 次は渡辺さんが先手。矢倉で決めようとするだろう。 佐藤さんが受けてたつか。あるいは中飛車? ※渡辺竜王は2連敗のあと3連勝。 次の第6局、先手・竜王の▲7六歩に対し、 後手・佐藤棋聖の初手は△3ニ金。挑発に乗り 中飛車に振った竜王が敗れ、フルセットに。 第7局、振り駒で竜王が先手。またもや 棋聖の△3ニ金に今度は居飛車に。 加藤先生の見込み通り、渡辺竜王が矢倉で 決めて防衛、竜王3連覇を成し遂げた。 |
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{こぼれ話}
対局態度 対局中に動きの大きい棋士は、 1位羽生、2位加藤、3位佐藤。 羽生さんは数時間動きっぱなし、動く時ほど勝つ。 わたしが名人になった頃は、 「例の加藤の空咳が始まった」などと書かれた。 空咳は最近ほとんどしない。遠慮するように なって、勢いがなくなった(笑)。 A級順位戦・郷田-久保戦での時間切れアピール そのときに問題を提起しないといけない。 後から言っても水掛け論になる。TVで 撮っていないから。スポーツでも、後から 言ってもNOとなっている。 谷川さんとの達人戦 残念だった。あれは途中までよかった。 その後、戦略上のミスがあった。 棋士評 森内名人の気風は剛。剛毅。 名人が居玉で指して、わたしが負かされた。 佐藤さんも剛。 羽生、大山は剛と言う感じはしない。 羽生さんはそれでいてあれだけ勝つのは並み じゃない。不思議な人。 渡辺竜王評 ブログ…感心します。毎日でしょ? 立会人で韓国に行き、食事を共にしたときの話。 対局中、残り時間2,3分のときトイレに立つ。 相手は絶対指さない。もしそこで指したら、 一生絶対負かし続けるから、と言う。 歯切れのよいのが特徴。 言うことが道理にかなっている。 すごい後輩が現れた、と思っている。 対局とコンディション 多いときは月に15局、2日に1日盤の前に座った。 対局が多くて健康上大変だろうな、とは誰も書いて くれなかった。他の人なら5,6局でも書いてくれる。 当時は心身を鍛え、ベストコンディションでうなぎ を食べて対局すればよかったが、今はその上に見た ことないような変な作戦、ゴキゲン中飛車や一手損 角換り、に対抗するため余計な神経を使わなくては いけない。 名人戦契約問題 スペインのサッカー選手1人の契約金が15億円、 という時。一般社会の人は関心がない。 共催は決まった、と思っている。条件は話し合いで 時間をかけて歩み寄ればよい、と思っている。 普及協力金を提案しているので(条件が) あいまいになっている。 最悪、毎日新聞が将棋欄をなくす可能性もある。 そこからすると共催の方がいいはずだ。 朝日が主催を希望していたのは秘密でも何でもない。 毎日にとっても名人戦がなくなるのは気の毒。 棋士が引退含め200人、職員が50人。 30年前に比べて倍近い。契約金が多少上がっても 人が多くてメリットが少ない。 契約金がずっと上がらない時代もあった。 女流の独立 化石人間みたいなもので情報に疎い。 女流のかたがいいのならそれはそれでいいのでは。 |