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1880.3.23 W・ミラー 対 W・マルドゥーン |
ニューヨーク・タイムズ March 24, 1880 http://query.nytimes.com/gst/abstract.html?res=F00E15FF34551B7A93C6AB1788D85F448884F9 LACHRYMOSE WRESTLING. 涙ぐましいレスリング。 MILLER AND MULDOON STRUGGLING FOR THE CHAMPIONSHIP. ミラーとマルドゥーンが王座を賭けて苦闘。 Miller and Muldoon, the wrestlers, began a “Graeco-Roman” match, in the Madison-Square Garden, last evening, for the championship of the world, in the presence of about 3,000 victims. The wrestling began with great vigor, Miller at first doing most of the work, and Muldoon standing on the defensive. Miller had a happy way of seizing Muldoon’s head, and twisting it sideways and forward till the spectators had some hopes that his neck would be broken; they were disappointed in this, but Muldoon’s head was frequently pressed forward till his nose scraped his breast. Muldoon showed himself to be much the quicker of the two, but Miller’s superior weight did him good service. After the match had continued for four hours, without a fall for either side, the two men succeeded in rolling themselves off the platform and striking heavily on the floor. This created fresh hopes that an ambulance would be needed, but the spectators were again disappointed by seeing the men spring to their feet, ready to renew the terrific combat. At 1:30 this morning the men were still at it, and the few spectators who remained were unanimous in the opinion that $10 or 10 days would be a very light sentence. The managers said that the match would be continued till daylight, unless decided sooner. ミラーとマルドゥーン、レスラー達が、ギリシャ・ローマ式試合を始めたのは、マディソン方形公園にて、昨夜で、世界王座を賭け、出席した約3,000人が被害者であった。レスリングは大いに元気よく始まり、ミラーが初めは優位を取り、マルドゥーンは守勢に立った。ミラーは巧妙なやり方でマルドゥーンの頭を掴み、それを横や前に捻って観客をして彼の首が折られるのではないかという期待を抱かしめるに至った。彼らはこれには失望させられたのだったが、マルドゥーンの頭はしばしば鼻が胸をこするまで前に押された。マルドゥーンは自分が二人の内でより素早い事を示したが、ミラーのより重い体重は彼に有利を与えた。双方に一本のないまま、試合が四時間続いた後、両者は共にうまく転がって演壇から落ち激しく床に打ち当たった。これは救急車が必要とされるのではないかという新しい期待を生んだが、両者が跳び起きて、その恐ろしい格闘を再び始める用意ができたのを見て観客は再び失望させられたのであった。今朝1時30分に両者はまだ闘いにあり、残った僅かの観客は10ドルの罰金または10日間の拘留はとても軽い刑罰だという意見で一致した。マネージャー達の曰く、もしすぐに決着しなければ、試合は夜明けまで続けられるであろうと。 “ten dollars or ten days”は古い映画の題名にもあるようですが、今なら物価が上がっていて「10ドルまたは10日間」では釣り合いが取れないでしょう。徹夜で延々と膠着した試合を見せられる事は軽い刑罰を超えた拷問である、という皮肉でしょうか。 翌3月25日のニューヨーク・タイムズに続報が出ていないか探しましたが見当たりませんでした。24日付の新聞の締め切りに合わせて記者も帰ってしまったのでしょうか。代わりに同じニューヨークのザ・サンの記事を紹介します。 The Library of Congress 米国議会図書館(LC) http://www.loc.gov/index.html Chronicling America: Historic American Newspapers http://chroniclingamerica.loc.gov/ The Sun March 25, 1880 http://chroniclingamerica.loc.gov/lccn/sn83030272/1880-03-25/ed-1/seq-3/ (マウスを左クリックからドラッグして、読みたい所をページ真ん中の「+」辺りに持って行き、ZOOM「+」で拡大して下さい。) (一番左の列の下から3つ目の記事です。) Muldoon and Miller’s Game of Draw. マルドゥーンとミラーの試合は引分け。 After their rest, at 1:10 yesterday morning, Miller and Muldoon resumed their tedious wrestling match. While Miller showed the most strength at the beginning of the match on the previous evening, Muldoon was the firmest in bracing himself and the quickest in getting on his feet after being thrown on his hands and knees. Still Miller held his own so well that two more bouts were indulged in, the men feinting and wrestling up to 8:20 A. M., without a single square fall. Prof. McClellan, the referee, then declared the match a draw, to the great disgust of many who had remained all night and put up money on the result. The contest had lasted seven hours. Where athletes are about evenly matched in strength and science, Graeco-Roman wrestling, as now conducted, is pretty certain to result in long and doubtful struggles. 休憩の後、昨日の朝1時10分に、ミラーとマルドゥーンは彼らの長ったらしいレスリング試合を再開した。ミラーはその前夜の試合の開始時に最大の力を示し、一方マルドゥーンは我が身を支えるに於いてもっとも堅固で投げられて四つんばいになった後立ち上がるに於いてもっとも素早かった。未だにミラーはよく持ちこたえて更に二勝負は存分に行える程であったが、両者がフェイントと掴み合いを続けて午前8時20分に至って、一本の公正なフォールもなかった。マクレラン教授、行司が、その時試合の引分けを宣したのは、徹夜で居残って金をその結果に賭けていた多くの大いにうんざりした人々に対してであった。競技は七時間続いた。強さと科学、ギリシャ・ローマ式レスリング、に於いてほぼ互角な運動家達を取り組ませれば、今般行われた様に、長く曖昧な闘争に終わる事はかなり間違いのない所である。 休憩の時間にもよりますが、総計で11時間は闘っていたように思えます。両者のスタミナには恐れ入りますが、さすがに長すぎて観客や新聞記者には不評だったようです。 日本体育協会監修「〔最新〕スポーツ大事典」(大修館書店、1987年)によりますと、近代オリンピック第5回大会(ストックホルム、1912年)のレスリング決勝は、9時間闘って勝負がつかず、双方が2位とされたとのこと(かわいそうですね)。第7回大会(アントワープ、1920年)で制限時間が設けられたそうです(グレコ・ローマンで20分、キャッチ・アズ・キャッチ・キャンで15分)。ちなみに同書でレスリングの項を担当された小田切毅一さんは、下記の素晴らしいウェブ・サイトもつくられています。 スポーツ文化史料情報館 http://www.eonet.ne.jp/~otagiri/ プロにおいても1921年、ニューヨーク州のアスレチック・コミッションが、ライセンスを付与するレスラー達の試合に2時間までの時間制限を義務付けましたが、当時のコミッションのチェアマンは、引退したウィリアム・マルドゥーンその人でした。 それについては別ページ「ゴッチのトー・ホールドにはすぐギブ・アップすべし」に少し書いています。 William Muldoon From Wikipedia, the free encyclopedia http://en.wikipedia.org/wiki/William_Muldoon メニューページ「豪州武芸師範 プロフェッサー・ウィリアム・ミラー」へ戻る |