「殉愛」について(2)遺贈の放棄

 

 

 

 黒字が百田尚樹「殉愛」(幻冬舎、2014)からの引用。

 

 

「殉愛」では遺産についての夫婦のやり取りが描写され、さくらさんが「お金なんかいらない」と言うので、「たかじん名義の預金は全額寄付」されることになった。「寄付先は大阪市、親がいない子供たちの施設、盲導犬協会」。また、「たかじんメモリアルをつくる」とある(P363〜364)。

 

実際の遺言書(FRIDAY」2014年12月26日号で公開)では、大阪市、OSAKAあかるクラブ、桃山学院高等学校へ遺贈。その余の全ての現金はさくらさんへ。遺贈も放棄された場合はさくらさんが相続。あかるクラブへの遺贈は「たかじんメモリアル」の当面の運営を行うため、となっている。

 

 

東スポWEB

たかじん妻「遺贈」返還請求 OSAKAあかるクラブ認める

2015年05月07日 18時53分

https://www.tokyo-sports.co.jp/entame/entertainment/397529/

 

 

上記によれば、さくらさんがOSAKAあかるクラブに遺贈を放棄してほしいと申し入れていたという。なぜかこの交渉に同席した「殉愛」著者の百田尚樹さんが、次のようにその趣旨を説明している。

 

 

… 寄付では法人の税金負担が重いので、さくらさんが相続した上で同額の基金を作り、支援する方法を打診しました。

「サンデー毎日」2014年12月28日号

 

一般社団法人が寄付を受けると税金がかかり、ある意味、たかじん氏の遺志と違う形になってしまう。さくら氏の考えでは、形式上いったん遺贈を放棄してもらい、自分が相続してから基金を立ち上げたほうが相続税がぐっと減る。

「週刊朝日」2014年12月26日号

 

 

ところが、OSAKAあかるクラブは非営利型一般社団法人で課税されるのは収益事業のみ、寄付金収入は非課税。

結局、遺贈は実行されたが、その年度の同クラブの決算収支報告書で「法人税等」は微々たる額であった。

多額の税金がかかるという、遺贈を放棄すべき根拠が事実ではなかったのである。

 

 

一般社団法人設立ドットコム

http://www.shadanhojin.com/basic/tax

 

一般社団法人の場合、税務上は下記2通りのグループに分かれます。

・非営利型一般社団法人、共益活動型一般社団法人

・上記以外の一般社団法人

前者の場合には、収益事業にのみ課税され、寄付金や会費収入等の共益事業に対しては非課税となりますので、税務上のメリットが大きいと言えます。

 

 

一般社団法人OSAKAあかるクラブからのお知らせ。

http://akaruclub.jp/

 

これを受けて、非営利目的の一般社団法人組織である当クラブでは、「理事会」において、遺贈を承認するか、放棄するかの審議を行いましたが、やしきたかじんキャプテンの遺志をしっかりと引き継ぎ、実現することが当クラブの使命と受け止め、遺贈を承認させていただくことにいたしました。

 

※同クラブのホームページに当時掲載された文章の一部。現在は削除。

 

 

OSAKAあかるクラブ収支決算報告書

2015年5月31日現在のOSAKAあかるクラブ収支決算報告書はこちら(PDF:212KB)

http://akaruclub.jp/wp-content/themes/akarukurabu_wp/pdf/shushihokoku2015.pdf

 

平成27(2015)年5月31日期。「正味財産増減計算書」に「法人税等35,000円」との記載。これは法人住民税の固定額(均等割。市民税5万円、府民税2万円。ただしこの年度は決算期変更につき半年分)のみ。

経常収益」中の「寄附金」(内容はたかじんさんの遺贈※)に対する法人税は、1円も計上されていない。

事業収益」もあったが、この年度は法人税が掛かる儲けはなかったようだ。

ちなみに「事業費」中の「租税公課」は消費税である(「貸借対照表 U負債の部 1.流動負債」中の「未払消費税」に金額が合致)。「管理費」中のそれは印紙税等か。

 

※「寄附金」の額は、遺言書記載の遺贈額から、娘さんの遺留分を差し引いた額になっている。娘さんへの遺留分の支払は翌年度に行われており、遺贈のあった年度は遺留分の金額が「貸借対照表 U負債の部 1.流動負債」中の「仮受金」に計上されている。

つまり、「寄附金+「仮受金」=遺言書の遺贈額、となる。

 あかるクラブへの遺留分減殺請求額が「遺贈額の1/4」よりも多い割合になっているのは、さくらさんに減殺請求をする際にはさくらさんの遺留分を除外しないといけないので、他の遺贈先への減殺請求額をその分増やさないと、全体で1/4にならないためである。

 

 

https://twitter.com/hyakutanaoki/status/545100724724457473

https://twitter.com/hyakutanaoki/status/545101771752738816

https://twitter.com/hyakutanaoki/status/545103507829710849

https://twitter.com/hyakutanaoki/status/545105034350833664

 

上記URLは百田尚樹さんのTweet。遺贈放棄を誰が言い出したのかについてはあかるクラブ側の発表と相違がある。

しかし、やはり遺贈に多額の税金がかかることが前提。それがなければ遺贈放棄は検討されただろうか。

 

 

 

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