「殉愛」について(3)個人事務所の問題

 

 

 

 黒字が百田尚樹「殉愛」(幻冬舎、2014)からの引用。

 

 

「殉愛」には、故・やしきたかじんさんのマネージャーとしてKなる人物が登場し、たかじんさんの晩年の妻、さくらさんに、事毎に意地悪く振る舞う様が描かれている。Kマネは実在の人物で、この本により不当に貶められている。

 

 

ところでこのあと、非常に不愉快なことを書かねばならない。それはKの裏切りと、さくらの心をずたずたにしたともいえる週刊誌やスポーツ紙の捏造記事だ。

P408)

 

この後、Kはいったん会社から手を引く素振りを見せるが、後日、株主総会も開かずに、突然「P.I.S」の代表取締役におさまった。驚くのはもう一人の代表取締役に娘のHが就いたことだ(後略)

P409)

 

 

実の所は、たかじんさんの事務所(株)パブリックインフォメーションスタイル(略称PIS)は取締役会設置会社だった登記事項証明書より。以下同じ)ので、代表取締役の選任は取締役会の権限で、そのために株主総会を開く必要はなかったのである。

代表取締役のたかじんさんが亡くなった時点で、残りの取締役はKマネと娘さんだけ。

取締役を補充しない限りは、当然にその2人が自分達の中から代表取締役を決めることになるし、(実際そうしたように)2人ともがなってもよい。2人の就任は支障なく登記された(取締役会設置会社としては取締役が1名欠員だったが、死亡による欠員のため補充なしで登記できた)。

 

雑誌の取材によれば、百田さんは更にKマネを貶めるべく、支離滅裂なことを語っている。

 

 

――マネジャーのKにも取材していない?

 していません。Kはさくらさんに対する態度などから、たかじんさんの怒りを買い、解任された。解任通知書もあります。でも、その後、たかじんさんが代表を務めたPISという事務所を乗っ取った。たかじんさんが株主総会に出席したかのような書面を偽造し、取締役を入れ替え、自らが代表取締役(当時)に就きました。(後略)

「サンデー毎日」2014年12月28日号

 

 

そもそもKマネの代表取締役就任は、たかじんさんの死亡退任の後である(それらの登記は2014年3月に同時にされている)。

それなのに「たかじんさんが株主総会に出席したかのような書面を偽造」はナンセンスであろう。

取締役を入れ替え」も、していない。Kマネが取締役を「解任された」こともない。

解任通知書」は「殉愛」にも出てくる(P344)が、取締役の解任は株主総会の権限で、代表取締役の一存ではできない。

そもそも「殉愛」では「解任通知書」は交付されずに終わっている。

 

 

 さくらさんはそう話す。

「(前略)K氏が取締役を務めていた、主人の個人事務所“PIS”に対しては、株主総会決議の取り消し訴訟をすでに起こしています」

「週刊新潮」2014年12月18日号

 

 

この訴訟の対象は、“たかじんさんの出席を偽装”した株主総会ではない。

 

2014年10月20日、Kマネは取締役を辞任、代表取締役を退任。代わって娘さんの夫が取締役と代表取締役に就任(ただし暫定だったようで2か月足らずで辞任)。

そして定款を変更して取締役会設置会社と監査役設置会社の定めを廃止した。取締役は1人でもよくなったため、欠員状態は解消された。

 

この定款変更等は株主総会の決議によるが、これが裁判により無効になった(2016年11月10日判決確定)。たかじんさんの持ち株を相続したさくらさんを総会に呼ばなかったため、と思われる(会社側の言い分としては、遺留分の問題が片付くまでは相続による株主名簿の書き換えに応じず、さくらさんを株主と扱わない、といった所だったか)。

総会決議の無効化により、再び取締役会設置会社となり取締役の欠員が生じるのに先んじて、2016年11月5日に取締役が2名増員された。

株主総会で選任されたのは、たかじんさんの弟さんと、2つの遺贈先の関係者であるたかじんさんの同級生。代表取締役は娘さんのまま。

PISの株式は分散しており、たかじんさんの持ち株は24%のみで過半数に遠かった(「百田尚樹『殉愛』の真実」宝島社、2015)。さくらさんは一度は総会決議を無効にできても、PISの主導権を握ることはなかったようだ。

 

 

2018年6月10日、潟pブリックインフォメーションスタイル(PIS)は取締役会設置会社と監査役設置会社の定めをあらためて廃止。

それにより2名の監査役(うち1名は、歌手・やしきたかじんを見出した元キングレコードの方)が退任。

それに先立つ5月28日、2名の取締役(たかじんさんの弟さんと同級生の方)は辞任。PISはたかじんさんの娘さん1人を取締役とする会社となった。

いずれも登記は7月4日付け。2名の取締役は取締役会設置会社廃止の株主総会決議を無効とする判決のためのピンチヒッターで、その役割を終えた、という所か。

 

 

 

メニューページ「百田尚樹「殉愛」について」へ戻る