過去10年間の肺癌に関する話題の1つが、胸部レントゲンでは見えないのに、胸部CTで発見される「すりガラス影」です。ground glass opacity といい、その頭文字をとって[ GGO:ジージーオー] と呼ばれています。
「すりガラス影」は肺内の濃度上昇をいい、その中を肺血管が通過するのが見えるくらいのうすさの濃度領域と定義されています。
すりガラス影(GGO)の病理学的所見は?
1. 異型腺腫様過形成 (AAH: Atypical Adenomatous Hyperplasia) (前癌病変)
2. 限局性細気管支肺胞上皮癌 (LBAC: Localized Bronchiolo-Alveolar Carcinoma)
( 野口分類A型腺癌、同 B型腺癌 )
3. 限局性炎症
などが考えられます。
CTガイド下マーキング後、胸腔鏡下肺部分切除を行ないます。
糸つきのV字型針を病変部に刺して目印にし、そこを中心に切除します。
CTを撮りながら、マーキング針を
すりガラス影に刺します。
V字型針がレントゲン写真に写っています。
病理診断:A型腺癌と判定されました。
1995年、Noguchi (現 筑波大)らは、2 cm 以下の肺腺癌を6つに再分類し、肺葉切除された A型とB型の腺癌の5年生存率が100%であると報告しました
(医学雑誌 CANCER)。これらの肺癌がすりガラス影をつくる腺癌の1種の気管支肺胞上皮癌に該当することが分かり、注目されてきました。
これまでの治療結果では、腺癌A型、B型ともに再発例はありません。肺表面に近い場合は胸腔鏡下部分切除で対処できます。しかし、占居部位が、太い気管支や肺血管の近くである場合は、区域切除、あるいは肺葉切除が必要になります。
胸腔鏡下部分切除では手術翌日の退院が可能です。開胸手術の場合は、施設により変わりますが、7日以内での退院が普通です。
したがって、すりガラス影の肺腺癌は恐れる必要の無い癌といえます。
臨床的には、2年間、3-6ヶ月ごとに胸CTを撮り、消失するか、大きくなっているか、濃度が濃くなっているかを経過観察しても安全という consensus(意見の総意)
ができております。
この期間で、陰影が消えなければ手術を受け、病理診断をはっきりさせた方がいいと思います。
将来の治療法として、非外科的治療法( ピンポイント照射療法など )が望ましいと考えます。
スライスされた割面で、白く見える部分が癌です。
手術で切除された8例のCT画像です。 皆さん、術後経過は順調で、再発はありません。
治療法