ロケ地訪問

・御茶ノ水 ニコライ堂

紀子三部作の中核を成す「麦秋」、管理人が最も愛する作品です。
小津映画とは繰り返し見る映画とは良く言われる事ですが、管理人はこの作品いったい何回見たでしょう・・・・・・。

帰宅して、晩御飯を食べながら見る事が多いですが、間宮家の日常を見ているとなんか実家に帰った様な気がします。

この作品で登場する鎌倉の架空の家族、間宮家と実際の管理人の実家とはまったく似ても似つかないのですが、なんか・・・こう・・・自分が幼い頃あの画面の中に居た様な気がするのです。
ビデオと言う代物が出来てからの事ですから、間宮家とはもう20年来のお付き合いでしょうか。

ところで、懐かしさとと美しさでいつも管理人を魅了してくれる「麦秋」ですが、管理人にとって”美しさ”と言う面ではラストシーンの大和の風景と双璧なのがこの「ニコライ堂」が登場するシーンです。 

謙吉の秋田への転勤が決まり、送別の宴に紀子と謙吉がこのニコライ堂の見える喫茶店で紀子の兄 間宮康一と待ち合わせをします。店の窓越しに見えるニコライ堂 バックには微かに賛美歌の様な美しい幻想的とも言える音楽が流れます。
このシーンは時間にすれば、わずか数秒でしょう・・・・しかし、その映像の美しさと言ったらどうでしょう、それは管理人の背筋をゾクゾクと刺激します。

所謂、”鳥肌の立つ瞬間”と言うやつですか。

小津マニアのヴィム・ベンダースの「ベルリン 天使の詩」でこれと良く似た感覚のシーンが登場しますが、彼もまたニコライ堂のこのシーンから強いインスピレーションをうけたのでしょう。

ところで、ニコライ堂へ行って見て分かったんですが、ここって小津さんの亡くなった東京医科歯科大病院に近いんですね、今はビルが立ち並んでいて無理ですが1963年当時、もしかしたら小津さんの病室からも見えたかも知れない・・・・・・窓越しに見えるニコライ堂を見ながら小津さんは何を思ったろうか・・・・・・そんな想像をしてしまいました。
・東銀座 歌舞伎座

「鏡獅子」「淑女は何を忘れたか」「麦秋」「お茶漬けの味」小津映画にあってたびたび登場するのがこの歌舞伎座です。
ただロケはすべて内部で外観は部分的な撮影のみで全体を捉えた作品は無かったように記憶します。
「麦秋」では大和から上京して来た康一 紀子の叔父が弟夫婦(周吉 しげ)とともにここで歌舞伎を観賞します。

ロケシーンで印象的なのは客がはけた後の無人の客席の移動撮影でしょうか、常にカメラが固定される小津映画にとってカメラが動き出す瞬間と言うものは特別の快感があります・・・・・・・・ラストシーンの耳成山の移動撮影しかり。

「よかったねぇ今日の芝居は 若いもんが なかなかようやりよる どうして どうして えらいもんじゃ」
・上野 東京国立博物館

老夫婦 周吉としげが芝生に腰を下ろして透き通る様な青空の下語り合う場所がここです。

「しかしなんだねぇ ウチもいまが一番いいときかもしれないね これで紀子でも嫁にゆけば またさびしくなるし」
「そうですねぇ」
「はやいもんだ 康一が嫁を貰う 孫が生まれる 紀子が嫁に行く 今が一番楽しい時かもしれないよ」
「そうでしょうか でも これからだって まだ・・・・・・」
「欲を言えばばきりがないよ」


小津作品の永遠のテーマが短いこの会話に集約されていますねぇ・・・・・シミジミ。

このロケ地は50年前と余り変っていませんねぇ、老夫婦の座った後ろの芝生と柵ぐらいですか・・・・・・左側の木も当時からそのまま残っています。
・築地 田村

ここは実はロケ地ではありません。
紀子の親友 淡島千景演ずる、田村アヤの実家のモデルとなった料亭です。

ここで繰り広げられる紀子 アヤ 高子たちの漫才のような会話は楽しいですね。
小津映画に必ずと言っていいほど出てくる親友同士のこの様なシーンは、宇治山田中時代の同窓会を繰り返し行っていた素の小津さんが垣間見れます。
話は変りますが、義妹の小津ハマさんによると茶目っ気のある小津さんは周辺に悪戯を繰り返しては周囲の反応を観察していたといいます。「秋刀魚の味」では勝手に親友 堀江を殺して「若松」の女将を担ぎますが、この程度の悪戯は日頃実生活で”トレ−ニング”をつんでいる小津にとっては、お茶のこさいさいなのでしょう。
ところでこの場所、松竹本社近くで小津さんお気に入りの天麩羅屋「おかめ」のすぐそばなんですねぇ、これはかなりびっくり。
ほんと小津と言う人は知っている所しか映画に登場させない人です・・・・・・・徹底しています。


因みに紀子の親友高子の旦那が人参嫌いって言うのは小津の実弟 (小津ハマさんの御主人)が人参嫌いらしいです。 管理人も人参は嫌いっス。