腕をのばして、サイドテーブルのアラームを止めた。
を起こさないよう腰に回した腕をそっと外して、ベッドを抜け出た。
部屋に備え付けの冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを一口飲んで、残りをサイドテーブルに置いた。
が目を覚ましたら必要だろう。
ベッドの端に腰かけて、眠るを見下ろす。
大きなベッドに小さく丸まって眠る姿はあどけなく見える。
何度もオレの腕の中でのぼりつめたのとは別人みてぇだ。
昨夜は散々この上で暴れたせいで、シーツは乱れまくっている。
結局眠りについたのは数時間前だった。
ロードワークが無けりゃ、まだしばらくはこの華奢な身体を抱いていられるんだが。
の肩にシーツをかけてやってから立ち上がった。
スウェットに着替えてそっと部屋を出た。









                                     ――― 『 Formal 』 1








シャワーの音で目が覚めた。
鉛のように重い身体を起こして、シーツにすっぽりくるまりながらベッドの上に座った。
まだ頭がぼーっとしている。
異様にだるい。
身体の節々が痛い。
足の間の引き攣れたような痛みと身体の奥の鈍い痛み。
いったい昨夜は何回したんだろう。
3回目まではなんとなく覚えてる。
4回目が始まったのはうっすらと記憶にある。
この身体の状態からすると、おそらくいつも鷹村君の部屋で抱かれるよりも激しかったのは間違いない。

あまりのだるさに息を吐きながら、部屋を見渡した。
昨夜はチェックインしたあと、この部屋に入ってすぐにベッドに直行してしまったから、
部屋の雰囲気を見る暇もなかった。
世界的なホテルチェーンだけあって、高級感が醸し出ている。
自分じゃ利用する機会がなさそうな、広々としたデラックスルーム。
鷹村君とこんなホテルに泊まることになるとは思っていなかった。
彼が意外にもこういうフォーマルな雰囲気に慣れているのにも少し驚いた。
彼の実家が裕福なのは知っていたけれど。
まだ完全に醒めない頭の中でそんな思考を漂わす。

「まだ半分寝てるみてぇだな」

鷹村君の声がして視線を移せば、シャワーからあがった姿のままタオルでガシガシと髪を拭いていた。
彼がベッドに腰かけると、その体重でマットレスが大きく沈む。

「・・・今、何時?」

ベッドサイドに時計が備え付けられているだろうけど、なんだかそちらを向くのもおっくうだ。

「7時40分。朝メシ・・・・って感じじゃねぇな」

私を見ながら笑う。

「・・・ん」
「寝てていいぞ。それにしてもよく起き上がれたな」

未だ覚醒しきらない私をベッドに残して彼が服を着始める。
シーツにくるまったまま身動きしない私に、

「起きたはいいが、動けなくなっちまったってとこか」

面白がる口調で、

「ま、ゆうべあんだけヤッたらな」
「・・・あんま覚えてない・・・」
「だろうな。オマエ途中から意識とぎれとぎれだったし」

シャワーを浴びた直後のまだ整えていない前髪のまま、素肌の上に真っ白なシャツをはおる。
減量後まだ体重が戻りきっていない幾分スリムな体で、
スーツのパンツの上にシャツだけをはおった彼は、いつもより酷く艶っぽく見えた。
落ち着かない気分になるのは、まだ昨夜の名残だろうか。


・・・・・・どうしよう・・・触れたい・・・。


初めての感覚に戸惑った。

私の様子に気付いた彼が、こちらへ近づいてくる。

「午前中は雑誌の取材が入ってんだ。写真も撮るからスーツで来いだとよ」

鷹村君が再びベッドの端に腰掛ける。
私の顎をとって、すぐ目の前まで顔を寄せた。

「くしゃくしゃだな」

笑いながら、片方の大きな手で髪をなでられた。
顔が近付いたと思ったら小さく音をたてて唇が離れた。
そんな微かな触れ合いに、身体の奥が疼く。

どうしちゃったの、私・・・。

「先に食事・・・行ってて?」

こんな状態じゃどこにも行けない。

「そうだな」

そう言いながらも、キスを止める様子はない。
深くなるかと思えば啄ばむようなキスに変わる。
触れるだけと思えば途端に激しくなる。
荒くなる息の合間になんとか言葉を発した。

「食事――」
「オマエを食う」
「ぁん・・・でも・・・ロードワーク・・・行ってきたんでしょ?」
「オマエが寝てる間にな」
「・・・お腹・・ん・・・空いてるでしょ」
「ああ、腹ペコだ」
「じゃあ・・・」

唇が、鼻先が、額がくっつきそうなほど至近距離で鷹村君がささやく。

「ホントに行っちゃっていいのか?」

挑戦的な笑みを浮かべて、全てを見透かす彼に。


・・・降参。


「行かないで」


音にならない声で答えた。













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