こんなはずじゃ、なかったんだ。
─── 『 Japanese Beauty 』
夏休みの登校日。
いつものようにが作った弁当を食っていた。
が、いつものと違うのは、の様子。
弁当を食いながらも、別の事を考えているような表情。
たまに何か言いたいのか口を開きかけるが、そのまま黙る。
そんなことを何回か繰り返していた。
「・・・、おい、」
「へ?あ、ああ、何?どうしたの?」
「何なんだ、一体」
「え?」
「さっきから、言いたいことがあるなら言いやがれ」
「あ・・・」
コイツにしては珍しく、少しバツが悪そうに下を向く。
「え・・・っと、ごめん。鷹村君に言いたいことってわけじゃないの。
あの・・・ウチっていっつも毎年、きょうだいでお祭り行くの、小さい頃から。
みんなお祭り好きだから夏休みの思い出って感じで、いつも楽しみにしてたのよね。」
「ふ〜ん」
「・・・・・・だけど、今年は妹も弟も友達と行くから、一緒に行けないって・・・」
なんだか私一人取り残された気がして、と少し笑ってから、ふうっとがため息をついた。
「行くか?」
オレの短い言葉にが顔を上げる。
「え?」
「祭り、行きたいんだろ?」
「え、あ、うん・・・でも──」
「オレとじゃ、イヤか?」
「そ、そんなことない!!」
「じゃあ、なんだ」
「だって・・・その・・・・・・・・いいの?・・・ホントに?」
「まあな、・・・だからそんなくだらねぇことで落ち込むな」
目の前であんな寂しそうな顔をされたら、ほっとけねぇじゃねぇか。
「ありがとう、鷹村君」
いつものに戻って、柔らかく微笑んだ。
「お待たせ、鷹村君」
後ろから声をかけられて振り向く。
そこには、深い紺色の浴衣を着て、学校では肩下までおろしている髪をすっきりと結ったが立っていた。
・・・・・・コイツってこんなに女っぽかったっけ・・・?
「鷹村君?」
いつもと違う雰囲気のを前に一瞬目を丸くしたオレを、下から覗き込む。
「どうしたの?」
「あ、いや、なんでもねぇ」
「やっぱり、気が進まなかった?」
「バカ、違ぇよ。変な気ぃ回すんじゃねぇ。ほれ、行くぞ」
「あ、待って」
祭なんて、別に好きでも何でもない。
今日だって落ち込んでるコイツを見ていられなくて、一緒に来ただけだ。
なのに。
たわいもない事で笑い合う。
かき氷を分け合う。
金魚すくいが下手なをからかう。
いつの間にか、楽しんでいる自分がいた。
「あ〜、来てよかった〜、楽しいね〜。」
わたあめを指でちぎってオレの口元に持ってきながら、が笑う。
その何気ない親密さに戸惑いつつもそれをそのまま受け入れた。
きっと、コイツはそんなこと気にもせずにやっている。
だがその一方で、他のヤツには絶対こんなことはしないだろうという
漠然とした優越感らしきものも確かにあった。
それと、最近よく感じるこの独占欲。
別にコイツはオレのモノでも何でもないのに。
そもそも、オレの好みとはかけ離れてるじゃねぇか。
オレはもっと、こう、大人のオンナっつーか、
もっと色気たっぷりの・・・・・・。
「あ、見て、鷹村君!花火!」
腕に手を掛けられて呼ばれるままに声のする方を見れば、
空を見上げて嘆声を上げる。
夜空を彩る花火に見とれたそれは、
よく知っている「顔」と、見知らぬ「女の表情」。
ドクン、と心臓が一発跳ね上がった。
触れられた手から、熱が流れ込んでくるみてぇだ。
こんなのは、
見慣れない浴衣姿のせいだ。
見慣れないコイツのうなじのせいだ。
この祭りの空気のせいだ。
コイツに色気なんて感じるわけがないんだから。
ならなんで、オレを見上げてうれしそうに笑うを
この腕に閉じこめちまいたくなる?
このまま、自分の部屋にかっさらって行きたくなる?
こみ上げてくるそんな感情をどうにか抑えつけて、
ただ腕にかけられたその手をとった。
少し驚きながらもうれしそうに、ほころぶように微笑むと一緒に
夜空を見上げた。
考えるのは、・・・後でいい。
◇ Back ◇
往生際が悪いよ、鷹村君(笑)。
いいじゃん、お持ち帰りしちゃえば、と思ったのは私だけ?
ま、このシリーズは純愛路線ですから。(え?)
どう考えても鷹村≠純愛なんだけどね〜。
それにしても、このシリーズの鷹村氏は、いっつも悶々としてる気がする。
ところで、ちゃんと考えたのかい、鷹村さんよ。(笑)