軋むベッド。
























滴る汗。






















喘ぎ声。































                                                           ─── 『 Revenge 』 1
























歓声と絶叫──。









































ボクシングの試合の時以上に興奮している彼を見て楽しみながら、
目の前の試合が終わるのを待っていた。


このイベント自体はホントはあまり興味がない。
というか、よくわからない。
もともと格闘技には詳しくないし、彼に連れてこられなければおそらく一生縁が無かっただろう。
それでも、夢中になって観戦している彼を見ているだけで、とても新鮮。



私が知っているのは、ボクシングをしているときの彼と、二人きりでいるときの彼くらい。
そういえば、彼とこういう所に出かけるのも初めてかもしれない。


人はそれを『デート』と呼ぶらしい。


なんだか、自分ではピンとこない。
付き合ってだいぶ経つのに、今まで二人で行ったところといえば、
地元のラーメン屋さんか・・・夕飯の買い物くらい?
我ながら少し情けないけど、私たちの付き合い方なんてそんなものだと半分諦めてた。
そんなに行動派な訳でもないし、彼とは趣味が全く違うから、
二人で会うのがたとえほとんど彼の部屋だとしても、まぁいいかと思っていた。
けれどこうして二人で出かけてみると、やっぱり嬉しくなってしまう。
ちょっと・・・くすぐったい気分。

それが、私自身はまるで興味のないプロレス観戦でも。









試合が終わると、会場は帰りはじめた観客でごった返す。
リング近くで観ていた私たちは、とりあえず出口までの通路が空くまでそのまま席にとどまっていた。
試合が終わって落ち着き始めた今、観戦に熱中していた人たちがボクシングの世界王者に気づくまでに、
そんなに時間はかからなかった。



とたんに騒がしくなる周囲。





「おい、あれ鷹村じゃねぇ?」
「鷹村って、ボクシングのか?」
「うそ、どこどこ?!」




そういえば、いつも一緒にいると忘れてしまうけれど、この人は有名人だった。
ボクシングの世界では「スゴい人」でも、高校生のときから知っている私にはいつまでたっても「鷹村君」で、
こうして人の多い場に来ると、それを思い出させられる。
そして人の注目を集めるのがあまり得意でない私は、戸惑ってしまう。
彼はそれをわかってて、今まであまり私を外に連れ出さなかったのかもしれない。
今も、たぶん居心地悪そうな顔をしてるだろう私に、少し申し訳なさそうな表情をしている。
相変わらず椅子にふんぞり返ってはいるけれど。



「あれ?女連れじゃん」
「マジ?どんな女?」
「どうせ、キャバクラ系だろ〜?」



ドキッとするような会話が聞こえてくる。
どうやら関心は彼の隣にいる私に移ってしまったようで、
そういうことに慣れてない私はますます下を向いてしまった。





「帰るぞ」


手首を掴まれて顔を上げると、彼が立ち上がろうとしているのが見えて、慌てて自分もそれに続く。
彼の手がそのまま滑り降りて、私の手は彼の大きなそれにすっぽり包まれた。


トクン。


その温かい感触に、一瞬心臓が跳ねた。
さっきまでの居心地の悪さが、不思議なことに消えていくのが自分でもわかる。
つないだ手はそのままに、通路へと歩く私たち。



「あれ、鷹村の彼女?」
「うそだろ〜?」
「なんか、どっちかっつーと地味系じゃん」
「彼女じゃないんじゃねぇ?」
「でも、手繋いでるぜ」



あちこちから聞こえるそんな声に、彼はすぐ後ろを歩く私をチラリと見ると、つないだ手に少し力を込めて引き寄せた。
横に並んだ私の腰にそのまま手を回して、抱き寄せるようにして歩く。
いきなり近くなった距離に、しかも人前でのそんな行為に顔が熱くなる。
恥ずかしさに前を向いていられない私の耳元に彼が口を寄せた。

「顔上げろ」
「鷹村君?」
「『プライデー』がいる。」
「え?」
「カメラ野郎がいるんだよ」
「カメラ?」

イベント会場だからあちこちでフラッシュがたかれててもそんなに気にもしてなかったけど、
その被写体が自分達とあっては、さすがにたまらない。


「うぜぇから、逃げるぞ」
「え、逃げるって・・・」

そう話しながら出口に着いたところで、腰に回された彼の手に力が入った。
と、思ったら、ふわりと浮く自分の身体。
すごいスピードで視界が動き出す。


な、何?!


彼に問う間もなく、まるで荷物のように抱えられながら、私は運ばれた。

























そのまま彼はしばらく走りつづけて、ようやく私を降ろしてくれた時には
ただ抱えられていただけなのに、何故か私の方が息を切らしていた。
足は地に着いたものの、そのまま彼にしがみつく。
彼はというと、汗一つかいていない。
彼に運ばれている時は目を瞑っていたので気がつかなかったけれど、周りを見るとあまり見慣れない街並み。

「ここ、どこ?」
「さあな」
「さあなって・・・・」


なんだか、随分・・・きらびやかな電飾が・・・あちこちに・・・(汗)。




「む・・・?!」
「ど、どうしたの?」
「『プライデー』・・・・」
「うそ?!まだいるの?!」
「・・・ちっ・・・」


以前、鷹村君の「情けないプライベート」を見事に暴いてしまった『週刊プライデー』。
今回激写されたら、私まで撮られちゃうってこと?!


「行くぞ」
「は、はい・・・って、え?!ちょ、ちょっと待って!」
「あ?」
「行くぞって、あの、ここ・・・帰る方向と全然・・・違うんだけど・・・」

彼が行こうとしたのは、いや、入ろうとしているのは、少なくとも私たちの帰る方向と違うし、もちろん太田荘とも違う。
何やら金額の看板がかかった建物で・・・。
世間で言うところの・・・。


「ここって・・・」
「前回は面目丸つぶれだったからな」
「え?」
「別に、ここだってどこだって、やるこたぁ一緒だろ」
「一緒って──」
「ほれ、行くぞ」

そう言いながら私の手を掴んで、その建物に入ろうとする。

「た、鷹村君、ホントに入るの?だって──」
「いっつも言いたい放題書かれてるからな。たまにはオレ様だって、ビシッと決めるんだよ!」
「決めるって・・・」

確かにこの後、彼の部屋に帰ってからの展開はだいたいわかってはいるから、
鷹村君の言うとおり、彼の部屋か、こういうとこかの違いなだけの話だけど、
なんせこういった雰囲気の場所が初めての私は躊躇してしまって、
スタスタと歩いていく鷹村君に、どうにもついて行けない。
彼が振り向いて、私を促す。

「どうした?行くぞ」
「・・・鷹村君の家の方が・・・いい。安心、できるから・・・」


目を泳がせながら言った私に、鷹村君はひとつため息をつくと私の前に立った。
私のうなじに手を伸ばして、彼が屈みこむ。
「鷹む──」
彼を呼ぶ私の声はそのままその唇に吸い込まれた。
反射的に目を閉じて、支えを求めて彼の服を握りしめる。

「待っ──・・・あ・・・」

合わせた唇の合間にもらした言葉は吐息に変わって、
そのうち何を言おうとしていたのかも解らなくなる。
彼にキスされるといつもそうだ。
立っていられなくなって、咄嗟に彼にしがみついた。
力の入らない私の腰を強く抱いて、耳元に囁かれる。

「安心したか?」

落とされた言葉に、震えながら頷くしかできなかった。





たとえ、シャッター音とフラッシュに彼が気づいていたとしても。






私にはすでに彼しか見えなかった。





























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出ました!『週刊プライデー』!!(笑)

背の高い男の人が屈んでキスする図って好きです・・・。←願望ですな。

次、ヌルいですが、「お持ち帰り」ならぬ「Eat In」いきます。(なんじゃそりゃ・・・)


・・・そういえば、名前変換なかったっすね。すいません(汗)












                                  後半(Revenge2)へはこのページからは行けませんので、ご注意ください〜。。