There's something sweet and almost kind,
but he was mean and he was coarse and unrefined.
And now he's dear,
and so I'm sure I wonder why I didn't see it there before?

New, and a bit alarming.
Who'd have ever thought that this could be?
True that he's no Prince Charming,
but there's something in him that I simply didn't see.





いつもが口ずさんでる歌。
英語らしいから聴いててもオレにはわからねぇが、
一度アイツが教えてくれたことがある。
これは『美女と野獣』の主人公が歌ってる歌なのよ、と。










                                                        ─── 『 Something There 』




















ここは大阪、道頓堀。

修学旅行の自由時間、グループ毎に行動ってわけだ。
これから、なんとかっつーお笑い劇場に行くらしい。
どうせここら辺に来るなら他に行きたいところはいくらでもあるってぇのに、
(たとえば、イイ女がいっぱいいる店とかよ)
こんなつまらねぇヤツらと何が楽しくてお笑い劇場なんて行かなきゃならねぇんだ。
あぁ、うぜぇ。








当然のように、オレの隣にはいつもがいた。
新幹線でも、移動バスでも、食事時のテーブルでも、
教師連中によって勝手に決められた席順に、はさして不満もないようだ。


「え?別に?だって鷹村君が隣なら楽しいし。
・・・・もしかして、鷹村君はイヤだった?」

眉をひそめながら恐る恐る訊ねるに軽くゲンコツをする。

「アホ。何言ってんだ。んな訳ねぇだろ」
いたーい、と大げさに頭を押さえながら、それでもうれしそうにが笑った。
「良かった」























「え?どういうこと?佐々木君」
「いや、だから、チケットが売り切れちゃってて2枚足りないんだ」
「そう、なんだ」
「や、あの、僕と仁岡がどっかで待ってるから、き、君たち見てくればいいよ、うん」
「でも──」

「行くぞ、
「え?ちょ、ちょっと待って、鷹村君」


別に見たくもねぇお笑いの芸人なんてどうでもいい。
オレをチラチラ見ながらオロオロとしてる小者共にもムカつく。
そう思いながら歩き出すと、が焦って小走りについてくる。
慣れない人混みに不安になったのか、とっさに学ランの袖が引っ張られた。
無意識のうちに歩く速度を少し落としていた。


「本当に良かったの?鷹村君」
「別に見たかった訳じゃねぇし。お前は見たかったんじゃねぇの?」
「ううん、実は私もどっちでもよかったから」

そう言って少し笑いながら並んで歩き出しても、は袖をつかんだまま離さない。
オレはそれに気付かないふりをしながら続けた。

「せっかくの大阪だからな。たこ焼きでも食いに行くか。」
「そだね」
「随分、うれしそうだな」
「へへ。だってたこ焼き食べたかったもん」
「そうか」
「うん」







どこの店に入ろうかと二人で歩いていると、誰かの肩がぶつかった。

「どこ見て歩いてんねん。このボケ」

やたら目つきの悪い野郎が、こっちを睨みつけている。
後ろにも4人男を引き連れていた。
ふと気付けば通りの端まで来ていて、人通りも少なくなっていた。
いつもならこんなヤツら、一瞬で片付けちまうとこだが、
今日はと一緒だからスルーしとくことにした。

「ああ、悪ぃな。ここらへん不慣れなもんでよ」

そのまま通り抜けようとするが、さすがにそうはいかなかった。

「おい、自分、それで終わりかいな」
「いてまうぞ、コラァ」


いかにもガラの悪いヤローどもに囲まれて、
こんなとこで騒ぎ起こしたらさすがにやばいし、
どうしたもんかと思ったときだった。


「姉ちゃん、こないなヤツほっといて、わいらと遊ばへんか?」
「きゃっ!」
「こわがっとるん?かーわいいやないの〜?」
「ホンマや、あんなゴリラ放っといて──痛ぇっ!!」


「コイツに触んじゃねぇ」

の腕をつかんでいるヤローの汚ねぇ手を後ろ手にひねりあげた。
もがいて痛がるそいつをそのまま突き飛ばすと、解放されたがオレの背中に隠れる。
おとなしく適当に流して、早いとこコイツを連れて宿泊先のホテルに戻ろうと思っていたが、
どうやらそんな雰囲気でもなさそうだ。

オレ一人なら何の問題もねぇんだがな・・・。

思わずため息が出た。
と、オレの学ランの背中にがギュッとしがみつく感触。

「怖いか?」
「ううん、大丈夫」

口では気丈に振る舞っているが、少し手が震えてるのを背中越しに感じた。


「無理すんな」
「ホントだよ、だって、」









「鷹村君が守ってくれるんでしょ?だから、大丈夫。怖くない。」









はやけにきっぱりと、こっちが一瞬戸惑うくらいの確かな口調でそう言うと、
もう一度ギュッとオレにしがみついてきた。




まったく。




オレを怖がりこそすれ、頼りにするなんてのはコイツくらいなもんだ。







、目ぇつぶって、ちょっとここでじっとしてろ。」
「目?」
「血、見るの、イヤだろ?ごめんな。」

正確には、単に血を見るのがイヤと言うより、けが人を放っておけない性格の
これから目の前で起こることをとりあえず詫びといた。

「とりあえず、コイツら片付けて、宿に帰るぞ。」
「・・・うん」
「何をそこでゴチャゴチャ言っとんねん!」


男がえらい勢いで殴りかかってきた。



































「大丈夫か?」
「うん」
「帰るぞ」
「うん」

「ん?」
「たこ焼き、食ってくか?」
「うん」



相変わらず袖を引っ張られる感触に、オレはもう抗えないらしい。
その華奢な指を、自分の手の中に収めちまいたい気持ちをどうにか堪えた。

少しホッとしたような顔でいつもの歌を口ずさんでいるが、ふと静かになった。
どうしたのかと見下ろすと、見上げると目があった。


「鷹村君」
「おう」
「『美女と野獣』のBeastはね、ホントはPrince Charmingなんだよ」
「あ?」

よくわからねぇ事をつぶやいて、はくすくす笑った。
どういう意味だと訊ねても、それ以上は教えてくれなかった。

・・・一体なんだってんだ?


「さ、たこ焼き〜、行こ〜」

掴んだ袖をブンブンと振って、が店を指差す。








何だか腑に落ちねぇ気もするが、








・・・・・・まあ、いいか。





















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修学旅行の巻。
この二人、ケンカ騒ぎを起こして大丈夫だったのでしょうか?
バレなかったのかな〜。(←そっちの心配かい!)