鷹村君ならきっと、チャンピオンになれるよ





おまえがそう言ったから、

本当になれるような気がしたんだ。




                                    ──── 『 T. 4. 2. 』part2


を捜していた。

学校に着いたのがちょうど休み時間で、教室にの姿は無かった。
イライラしながら、そこら辺にいるヤツに聞くと、
さんなら、保健室に行ったよ。」
と、ビクビクしながら答えた。

ちっ!オトコのくせにビビってんじゃねぇ!

それにしても、保健室たぁ、どういうコトだ?!
のヤツ、具合でも悪いのか、それとも誰かに何かされたか?!

柄にもなく心配で、少し焦りながら保健室まで行くと、
オレは勢いよく扉を開けた。
思わず叫びながら、部屋の中を見回す。

!大丈夫かっ──────・・・あ゛?!」


「あれ?鷹村君?どうしたの?」
椅子に座って振り返りながら、はいつも通りの平和そうなのんきな顔で、
不思議そうにオレを見上げた。

「・・・、何やってんだ?」

の向かい側には、オレの登場に青くなりながら、包帯を巻いてもらっている
途中の男がいた。
確か、同じクラスの野郎だ。

「何って、金本君、3年生に絡まれちゃってケガしちゃったから、その手当、だよ?
 それより〜、鷹村君こそ、何やってるの〜?
 もうお昼だよ〜!思いっきり遅刻じゃない〜!」
オレに向かって、わざと怒った顔を作りながら、
は包帯を巻き終えると、「ハイこれでOK!次は気をつけてね」と
金本に笑いかけた。



・・・・・・・おもしろくねぇ。



「小者は大変だな。ケンカの度にいちいち包帯なんて巻いてたら、
 ミイラになっちまうぜ。」
思いっきりバカにしたように見下すと、そいつは冷や汗をかきながら、下を向いた。
「い、いやぁ〜。鷹村クンは強いからね〜。はは・・・。
 こ、さん、あ、ありがとう。た、助かったよ。じゃ、じゃあ・・・」
そう言って、逃げるように保健室から出ていった。

「何だ?ありゃぁ。全く情けねぇ野郎だな。」
ふん、と呆れながら言うと、のチョップがペチッと飛んできた。
「もう!鷹村君が脅かすからじゃないの!」
治療器具を片付けながら、も呆れながら言う。

「鷹村君に睨まれて、怖くない男の子なんて、ウチの学校にはいないでしょ〜?
 わかってるくせに!」
「そういうおまえは、何で平気でオレをどつくんだ?怖くねぇのかよ。」
思わずツッコンでしまったオレの前で、は立ち止まって、しばらく考え込んだ。

「なんでだろ。・・・ん〜。だって、鷹村君、女の子とか、絶対自分より弱いって者には
手を出さないでしょ?」
「ふん。当たり前だ。自分より弱いヤツに勝ったって面白くもなんともねぇよ。」
「だから、かな。
 あ〜、そんなことより!お腹空いちゃったよ。鷹村君、お昼は?」
「いや、まだ食ってねぇ。」
「ホント?じゃあ、学食行かない?
 私、今日お弁当ないんだ。たまには学食もいいよね〜。
 って、本当は寝坊しちゃって、作れなかっただけなんだけどね」
てへへ、と笑いながら、オレが返事をする前に、はすでに学食へと向かい始めていた。

「おまえ、ほんっとに色気より食い気だなー」
「む〜、なぁーによぉ。キミに言われたくなーい! 色気よりケンカの鷹村君!」
「なに〜?オレ様がモテねぇとでも思ってんのか、コラ」
「だって、女の子と歩いてるの見たことないよ。
 男の子を見つめてる方が多いんじゃない〜?」
「アホ!ガンつけてると言え!気色悪りぃ言い方すんな!!」

そんなくだらない言い合いをしながら学食に入っていくと、入り口に近いテーブルに
いた野郎どもがそろってこっちを振り向いた。
「ウルせぇぞっ!てめぇら!ピーチクパーチ───っく!
 たたたた、鷹村クン!や、やぁ!」

どなってきた男を睨みつけると、他のヤツらも急に大人しくなって、ガタガタと
慌てて席を立ち始めた。
「た、鷹村クン、よ、よかったら、この席どうぞ! ボ、ボク達、もう終わったから・・・」
そしてあたふたと逃げるように出ていった。

「あらら〜、相変わらず、すごいねぇ〜。」
が感心してんのか呆れているのかわからない口調で言った。

「さぁ、お昼お昼!何にしようかなぁ〜っと。」







「そう言えば、鷹村君、さっきなんで保健室に来たの?
 何か用だったんじゃないの?」

食堂のおばちゃんにプリンをおまけしてもらったは、すこぶる上機嫌に
なっていた。
大体コイツは、購買に行けばレジのオバちゃんにのど飴をもらったり、
パン売り場ではおっちゃんに余ったパンをサービスしてもらったり、とにかく
あちこちでかわいがられてたりする。

「あ〜?ああ、まあな。」

そうだ。オレはを捜していたんだ。
なのに、いつのまにか、学食でメシを食っている・・・。

「・・・・・・プロテスト、受かった・・・」
「プロテスト?・・・ってコトは・・・」
は一瞬、何の事かわからなかったようで、オレが胸ポケットから
ライセンスを出して見せると、目を丸くした。

「プロ・・・ボクサー・・・?・・・なれたってコト?」
ライセンスを手にとって、まじまじと見つめる。
は、うわぁ〜とかホンモノなんだ〜とか呟くと、
不意に黙り込んだ。

?」
ラーメンを食い終わって、次はカレーに取りかかろうとスプーンを持ちながら見ると、
笑いながらそれでいて、今にも泣きそうなの顔があった。

・・・・・・なんで、そんな顔してんだ?

「おめでとう、鷹村君。
 ボクシングの事は全然わからないけど、きっと鷹村君ならチャンピオンになれるよ!
 私・・・ずっと応援してるから」
そう言いながら、両手でオレのライセンスをとても大事そうに抱きしめた。

「私、自分の事じゃないけど、うれしくって、なんかすごくドキドキしてる。」
そしては少し照れながら、今までで最高の笑顔を見せた。

・・・・・・まいったな。

「オゥ。サンキューな」
そこまで喜ばれるとは思っていなかったオレは、他に何を言っていいかも見つからず、
の頭をくしゃりと撫でた。

「もしかして、この事教えてくれるために、私のこと捜してくれたの?」
がふと思い出したように言った。
「ん?いや・・・まあ、その・・・アレだ・・・。
 一応、には報告しておこうと、だな・・・。」
実際、本当のコトなのだが、素直にそうだとも頷けず、オレはしどろもどろになってしまった。
「そ、それに、まだ試合もしてねぇし、たいしたことじゃねぇんだけどよ。」

「ありがとう、鷹村君。すごく嬉しいよ。
 そうだ!お祝いしなきゃね!
 ちゃんとしたのは、今度ってことで、とりあえず鷹村選手には、
 このプリンをプレゼントしましょう!」

私の気持ちよ、と満面の笑みで差し出されたプリンを、いらねぇよと断ることができずに、ただ
「サンキュー・・・」
と、受け取った。

そして、昼飯を全部平らげたあと、『泣く子も黙る鷹村』と呼ばれるオレは、
の笑顔に見守られながらプリンを食べていた。

それは、酷く甘かったが、まあ、たまにはこういうのも悪くないなと思った。






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