同じクラスどころか、学校中のヤツらがオレ達の事を何と呼んでいるかくらい
知っている。


───美女と、野獣。



                                   ───『 Tea for two 』




品行方正なとワンセットにしておけば、オレが大人しくしていると学校側が思ったのか、
2年にあがってもオレとは同じクラスになった。
まあ、確かに学校ではあまり暴れなくなった。
が、それはがどうのという訳ではなく、入学して最初の1、2ヶ月で、校内には
ケンカの相手がいなくなったからだ。
学校以外では相変わらず暴れていた。





「たーかーむーらーくん。見ーつけた!」


授業をフケて屋上で時間をつぶしていると、昼休みにが現れた。

「今日はお天気がいいから、ここは気持ちいいねー!」
そう言いながら、オレの隣に座る。
こうやって平気な顔でオレの隣にどんと座るのも、この女くらいのもんだろう。

「たぶん、ここにいると思ったんだよね〜」
うれしそうに笑うと、は弁当箱らしい大きな包みをオレの膝の上に置いて、
自分の弁当を広げ始めた。

・・・・・・弁当箱・・・?

「弟がね〜、今朝になってから『今日は弁当いらねぇよ』って言うのよ!
もう、頭にきちゃって、朝から大ゲンカよ。 『どうすんのよ!このお弁当!!』って。
ってわけで、鷹村君、処理係ね。よろしく。」
は、いただきまーす、と律儀にお辞儀をしてから、包みを見下ろしているオレに
構わず食べ始めた。


「あれ?どうしたの?食べないの?
あ!もしかして、もうお昼食べちゃった?」
オレが弁当箱を開けないのを見て、が訊ねる。
「あ・・・いや」
「まあ、美味しいかどうかは自信ないけど、一応毎日作ってるから、 お腹は壊さないと思うよ?」
は苦笑いしながら、私も同じモノ食べてるし、と自分の弁当箱を持ち上げてみせた。

「あ・・いや・・・サンキュー、な」
オレが戸惑いながらも礼を言うと、はニコッとさっきよりも更に嬉しそうに、極上の笑みを
浮かべた。
「鷹村君には足りないかも。ウチの弟も育ち盛りで、すっごくたくさん食べるけど、鷹村君ほど
体大きくないから。足りなかったら、あとでまた何か食べて?」
そう言って、女のくせに大口開けて自分の弁当を食べた。

・・・まったく、色気がねぇほどの食いっぷりだ。

そして、オレも包みを広げて食べ始める。
自信がないと言ってたわりに、味はなかなか美味かった。


それからも、時々、オレはから弁当をもらうようになった。
そして、それはきまって包みが2つあって、1つは昼用、もう1つは晩メシ用だった。
「1人暮らしでも、ちゃんと栄養考えなきゃダメだよ」

家を追ン出されてから、手作りのメシなんて初めてだった。
もしこれが他のヤツだったら、同情なんてまっぴらだ、ナメてんのかと張っ倒すところだが、
は本当に純粋にオレを心配してくれたのだろう。
それがわかっていたので、オレも素直に受け取っていた。




「鷹村君、最近、何かいいコトあった?」

いつものように弁当を食いながら、が言った。

コイツはだいたいオレの顔を見れば、機嫌がいいか悪いかわかるらしい。
他の連中もオレの機嫌が悪そうなときには決して近づかないが、
の場合、必ずと言っていいほど、
「どうしたの?何かあった?」
と、訊いてくる。


「・・・・・・別に楽しくねぇんだけどよ。ボクシング始めたんだ。」
「ボクシング?」
「ああ、ジムに通ってんだ。先週から」
「へぇ〜。すごいじゃない!
詳しくないからよくわかんないけど、鷹村君、ケンカ強いから向いてるんじゃない?」
「この前、街でケンカしてるときに、どっかのじじぃに止められてよ。
そのじじぃに『ウチのジムに来い』って言われたんだ。
別に他にやることもねぇし。
そしたら、練習だっつって、ハードだのなんだのって、これがまた大変でよ〜。
2人乗せたバイクを引っ張るんだぜ。信じられっかよ?!農耕馬じゃねぇっつーの」
俺が話すのを聞きながら、はクスクスと笑った。

「でも、鷹村君、楽しそう。すっごく。」
そう言うと、がんばってね、と嬉しそうにまた笑った。




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